これのつづき



あれから新宿を出た俺は、比較的人の少ない道を選んで歩を進めている。本当はタクシーで新羅宅まで向かいたかったのだけれど、迂闊にも財布を忘れてきてしまい、手持ちが少ないのだ。だからと言って公共機関を利用することも出来ず(泣きながら電車に乗る成人男性とかなんとかといって悪目立ちするだけだ)、俺はフードを被り薄暗い路地を歩き続けた。

タオルやら何やらは持っていない。濡れ続けて重くなってしまったら、不自然な荷物になるだけだから。

足を何歩か踏み出す度に、制御の利かない目からはぼたぼたと涙が落ちていく。湿っぽい空気を纏うアスファルトに染みるならともかく、時々コートにかかってしまうのは、本当に気に食わない。

全く晴れることの無い視界は、放置されたごみ箱やら何やらでさえも人影と錯覚させるものだから、とんだ迷惑だ。一つ角を曲がるだけでも、相当な勇気を必要とするだなんて。

「……こんなの、俺じゃない」

低く掠れてしまった声で呟くと涙がまた零れて、それは地面に吸い込まれて消えた。



愛する池袋の地図は、頭に入っている。だから、どこをどう行けばどこに着くのかなんて、分かりきっていた。

だからこそ、俺は、失念していたのだ。

「…だからよぉ、ごちゃごちゃ御託並べてねーで」

新羅宅に最短ルートで向かうには、この角を曲がるべきなのに。

俺の進路には、

「いいから早く金返せっつってんだよ!!!」

絶賛お仕事中のシズちゃんがいらっしゃったのだ。

「……マジかよ……」

冷や汗が背中にたらりと伝う。これはまずい。非常にまずい。

ぶれる視線の先では、シズちゃんに殴られたらしい人影が飛んでいく。それを追おうとシズちゃんは歩き出すが、同時に、物陰から誰かが現れた。恐らく、上司の田中トムだろう。危険を察知して避難していたらしいが、詳しくはよく分からない。

俺は咄嗟に踵を返した。今の仕事が一段落ついてしまったら、きっとあの怪物は俺の匂いとやらを嗅ぎ付けるだろう。だとしたら、次は俺が狙われるに決まっている。折角此処まで来ることができたというのに、今更捕まるなんて訳にはいかないのだ。

(仕方ない、周り道になるけれど、二つくらい角を戻って――)

そこで俺はもうひとつ失敗を犯した。

忙しさにかまけて、最新の情報を確認していなかったという、初歩的でかつ情けない程の失敗を。


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まだつづきます。
行き当たりばったりで書いてる感満載…




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