※微妙にこれと同設定



「聞いてくれ新羅」

神妙な顔つきで静雄は溜息を吐いた。

「臨也の飯が、不味いんだ」

盛大な惚気と共に。

「……そんなの、…今に始まったことじゃないだろう?」
「いや、そうなんだけどな…」

数分前静雄に差し出した珈琲はほこほこと湯気を立て、部屋に香ばしい香りを充満させている。僕の大好きなセルティが、珍しく自分から煎れてくれた、珈琲。本当は静雄に飲ませてやるのは惜しかったんだけど、セルティがごく自然に俺と静雄の前にカップを置くものだから、もう仕方がない。
そんなセルティは只今絶賛お仕事中だ。私たちに珈琲を煎れ終わるとすぐに依頼が来たらしく、バイクをふかして街へと飛び出していった。

「君もそれを承知で臨也と付き合ってるんじゃないのかい?」
「……まあな」
「今更僕らにはどうしようもないと思うんだけど」

黙り込んでしまった静雄を一瞥し、僕は珈琲を一口啜った。途端に口の中に広がる、苦味、苦味、苦味。俺は一旦カップを置くと、砂糖を二つ入れる。セルティ……君、味覚無いのにどうしてそう…チャレンジャー、なのかな……でもそこもまた可愛いんだけどね。

「でもよ」
「うん」
「レシピ通りなら、どうにかできねえかって、思ったんだよな…」

ゆらゆらと茶色い水面が揺れるのに合わせて、静雄は深くうなだれる。がくりと下がった首は、積年の苦悩を如実に表していた。

「レシピ?」
「先週渡したんだ。料理、作りてえって言うから…」
「因みに何の」
「……無難に…カレー…」

カレーライス。それなら、たまにセルティも作ってくれる。自分では味見ができないからと、何度か俺を呼び辛さを確かめさせる過程を通して作り出される、セルティの愛という愛が目一杯詰まったカレー。最近は和食を作るのに嵌まっているらしいから、中々食卓に並んではくれないけれど。

「カレー、ねえ…」
「だってよ…あんなもん、鍋に水張って肉と野菜とルー入れれば簡単に出来んだろ?」
「でも調理実習じゃ、臨也、そのカレーすらも作れなかったよね」
「……」

来神の頃、気まぐれで臨也が参加した調理実習。そこではカレーを作っていた筈が、いつの間にやら火災が起きてしまっていた。化学では危険な実験も全てやってのけた臨也が、その後調理室に出入り禁止になったのは、静雄も覚えているだろう。
ざーっと、傍から見ても分かる程に、静雄の顔が青くなった。

「……新羅」
「何だい?」
「あのノミ蟲、今日、夕飯に作ってみるって、言ってたんだ」
「…そ…それって…」

私の顔からも急速に血が降りていく。
わあ、どうしよう。嫌な予感しかしないなんて。
珈琲をぐいっと飲み干して(苦いだろうに)、静雄は勢い良く立ち上がる。

「新羅邪魔したセルティに宜しく言っといてくれ」
「分かったまたおいで静雄ちなみに君の家は火災に対応した保険には入ってるの?」
「今日は臨也の家だ知らねえ!」
「確認。消防は?」
「119番!新羅消火器借りっぞ!」

静雄はドアというドアを文字通り蹴破りながら、僕の家を出て行った。緊急事態だから仕方ないけど、やっぱり修理費は臨也に請求してやろう。生きてたらね。

『た、ただいま…』
「セルティ!」
『これは…静雄が来たのかな…』

粉砕されたドアの隙間からひょこりと顔…というかヘルメットを覗かせたのは、愛しのセルティだった。この様子だと静雄には会っていないらしい。入れ違いになったのかな。私が駆け寄り抱き着くと、心なしか慌てているような様子のセルティは僕の頬を抓りながら(照れ隠しだね!そんな所も可愛いよセルティ!)PDAを翳した。

『そうだ新羅、さっきから新宿方面に消防車が沢山向かってるんだ。何かあったのか?』

…………勘弁してくれ。



隠し味は君への愛です
(火災起こしちゃ元も子もないだろ!)

----------

料理ってレベルじゃないよ第2弾。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -