悪夢のドライブ(2/2)
「・・・・・警察がこんなことしていいのかね?」
物凄いスピードでさぞ当然と言わんばかりに、通り過ぎ、もうすでに遠くなっている高速の入り口をミラー越しに見た。
「あの女を逃がすわけにはいかないんだっ!」
無駄口叩いてると舌噛むぞ!?と言われて口を噤んだ。何台もの車をごぼう抜きしていく様を横目で見ていれば一瞬見えた一台の車に目を見開いた。
「・・・・・・・!!」
慌てて後ろを振り返るも、一台の大きなトラックで見えなくなっていた。
赤い車・・・あれは確かマスタング。ってか乗ってたの秀一に似てた・・・気がする。
「・・・はは、ないない」
半目で呆れたように笑い、自分の見間違いだと言い聞かせた。
「りゅう?」
どうかしたか?と問われて「なんでもない」と即答した。
それからすぐに、女が乗った車が見えた。そしてそのまま降谷は車をマークUへと距離を詰めーーーー
「ちょっ、嘘でしょう!?」
「しっかり捕まってろよっ!!」
ギュッと更に力を込めてグリップを握り、くるであろう衝撃に備えて身体を縮めた。
ドンっーーーと大きな音とともに衝撃が走った。兄が女の乗る車へと自身の車をぶつけたのだ。
愛車心はないのかね・・・?;
そんな事を思いながら見ていれば、いきなりグイッと頭を下げさせられた。
「え?」
「隠れてろ」
言われるまま、顔を隠すように席の下へと移れば、兄は女の車の隣につけた。
なるほど、組織の人間である女に一般人を装っている私の顔を見られるわけにはいかない、ということなのだろう。
ギュンーーーとスピードに乗ったまま、急カーブに差し掛かり体が大きく揺れた。女が乗るマークUに追いつき、同様にカーブを横向きで滑るようにすれば、さらにその隣りへと同じようにカーブを曲がる車がいた。
「誰だ!!?」
お兄ちゃん以外に女を追っている奴がいるんだろうか?そう思い、首を少しだけ伸ばした。
ゴンーーーーと思い切り頭をぶつけたりゅう。
「りゅう!?」
「ん、ごめん。ちょっと手が滑っちゃって」
心配そうな兄に、大丈夫だと返しもう一台の車をできるだけ見ないようにした。
「赤井!!?」
なんでここに秀一がっ!!?あいつ、組織の女が出てくるなんて一言も言ってなかった。それとも彼らFBIにも今日、動くという事は予想外だったのだろうか?
お兄ちゃんも、普通に私に会ってた最中に出た電話で驚いたようだったが、彼女の動きは公安は知っていたっぽいし・・・。
いや、一番気になることは・・・・
「あいつ、なんであの姿なわけ?」
ボソッと呟く声は、赤井を見て頭に血が上っている兄、降谷に届くことはなかった。
急カーブが終わり、女が乗る車は前方へと先を走り、今度はマスタングと降谷の車がぶつかった。
ガンっーーーと衝撃が走るが、りゅうは助手席へと座りなおした。
「りゅう!隠れてろっ・・・」
「あれだけ離れてれば見えないよ」
それより捕まる所がない場所にいるほうが怪我しそうなんだけど、と言えば降谷は難しい表情をしたが、その通りだと思ったのか、それ以上は何も言ってこなかった。
「退がれ!!赤井!!!奴は公安のもんだ!!!」
公安か・・・、秀一達、FBIがあの女の身柄を拘束した方が私的には情報が回ってくるからラッキーなんだけどな・・・。と思いながら隣にいる車、彼へと目を向ければ視線が合うも、すぐに兄へと視線を変え無言のままだった。
「・・・・・ん?」
いきなり前方へと視線を向けた赤井は小さく目を見開いた。
なんだろう?と思いながら前へと目を向ければ赤い車がトラックと女の車に挟まれ、コントロールを失い、その反動で大きく宙へと舞った。
「お兄ちゃんっ!!!」
赤井へと視線を向けていた兄に、前を見ろ!と言わんばかりに呼べば慌てて視線を前へと戻し、驚きに目を見開いた。
グイッーーと横から手を出しハンドルを赤井の車とは逆方向へと切れば、何とか難は免れたが、あの車は大丈夫だろうか?
持っていたハンドルから手を放し、後ろを見ればすぐにその車から人が出てきてホッとした。そして赤井が車を停めたことに小さく首を傾げた。
降谷も赤井が追ってこないのを確認し、口角を上げた。
「りゅう、助かったよ」
前をしっかり見て運転をする兄へと視線を戻した。
「・・・仲悪いの?」
「お前、あいつのこと知ってるのか?」
「FBIでしょ?死んだって話を聞いたけど、生きてたんだね」
まあ、お兄ちゃんが昴を疑ってる時に、電話で彼の名を呼んでたから生きてるのかな?とは思ってはいたけど・・・と小さく呟けば兄は苦笑いした。
「・・・・・・」
「別に言いたくないならいいけど、珍しいなって思って」
「ん?」
「いつもは冷静なのに、FBIが絡むと随分と視野が狭くなるみたいだから」
工藤邸へと来た時含めね。と言いながらボスッと助手席へと深く座り込めば、兄は難しい表情のまま無言だった。
「随分と荒業ね」
「なにっ!!?」
前方を見ていればトラック同士をぶつけさせ、塀を突き破り、下へとショートカットする女の車を見てりゅうはため息を吐きながら言い、降谷は目を見開いた。
「逃がすか!!!」
キッーーと目を鋭くさせて、車を再度発進させる降谷の横顔をりゅうはジッと見ていた。
にぃーにとは、全く違う表情するんだなぁ、なんて事を考えながら小さく笑った。
「・・・どうした?」
視線とその笑みに気が付いた降谷が首を傾げればりゅうは「なんでもない」と笑った。
にぃーには穏やかで、怒った所なんて見たことが殆どなかった。それこそ、お兄ちゃんが安室透として、いつもニコニコしている感じに近い(安室さんの笑顔はどうにも胡散臭いけど・・・;)
だけどお兄ちゃんの素は、にぃーにとは正反対。自信に溢れた挑発的な笑みを浮かべ、鋭い視線に、真剣な表情ーーー
「・・・・にぃーにもカッコいいけど、お兄ちゃんもやっぱカッコいいね」
「・・・なんだ、急に・・・」
りゅうからいきなり言われた言葉に、素っ気無いように言葉を返し、顔を逸らす降谷。けれどその頬は少し朱に染まっていて、りゅうはクスクスと笑った。
「・・・ねぇ、お兄ちゃん。気のせいかな?めっちゃ嫌な予感がする」
前方がいきなり騒がしくなっていて、色んな車からクラクションが鳴り響いていた。
「・・・俺もだ」
そういった瞬間、一台の車が横を通過した。
「まさかっ、逆走!!!?」
キキッーーーと慌てて車を停める降谷。そして下を覗き込むりゅう。
「渋滞だね」
なるほど、秀一はこれが分かっていたから停まったんだ。絶対に引き返してくると踏んでーーー
「くそっ!!」
アクセルを踏み、ハンドルを切り始める降谷にりゅうは盛大に頬を引き攣らせた。
「ちょっ、まっ・・・嘘でしょう!!!?」
まさかお兄ちゃんも逆走する気!?降ろして!!私を先に降ろして!!
「悪い!少し荒くなるぞ!!」
「ずっと荒かったからっ!!」
ってか、荒いで終わらない!死んじゃうってっ!マジで!!
「バイクならまだしも車で逆走!!!?止めようよ、お兄ちゃん!!」
「黙ってないと舌噛むぞ!!」
そう言いながら目の前に迫る車を次々に寸前で避けていく兄に言ってはいけない言葉を言ってしまった。
「しっ・・FBIがっ!!戻ってくるって踏んで待機してるって!あっちが何とかするだろうから無茶はやめよう!?」
「益々退けるかっ!!」
地雷だったっ・・・・後悔しても遅い。更にスピードを上げ始めた兄に、秀一と同様、何も言わないほうが身の為かもしれない・・・と口を噤んだ。
前方で大きな爆発を肉眼で捉えれば、その爆風でハンドルを取られる降谷。
「くっ・・・・」
「爆発!!?」
赤井の車が見えて、降谷は慌てて車を停めて外へと飛び出た。
爆発した場所を見た後、赤井へと睨み付ける様に顔を向けた。そして彼が持っているライフルに、この爆発はお前があの女の車を止めたのか、と察した。
「赤井っ、貴様・・・・」
ジャリっと赤井へと距離を詰めようとした所で、りゅうも車から降りてきた。
「死ぬかと思ったよ、全く・・・;随分無茶をする。警察も、FBIも・・・これだけの騒ぎ、どう収集をつける気?」
「りゅう!車にっ・・・」
戻ってろと言おうとした降谷に「別に今更よ」と兄の隣に立ち赤井を見た。
「Phantomか。久しいな」
ニッと口角を上げる赤井を目を細めてりゅうは見た。
「なっ!?」
それに驚いたのは降谷だった。赤井を知っていたのは想定内ではあったが、まさかFBIにPhantomの正体がバレているとは思わず、目を見開いた。
「・・・・行こう、お兄ちゃん。公安じゃない、警察が来る」
そしたら厄介でしょう?と言いながらグイッーーーと兄の腕を引っ張れば、降谷はりゅうを見た後、もう一度赤井を睨み「行こう」とりゅうの肩に手を置き、車に乗り込んだ。
悪夢のドライブ(FBIがお前の正体を?)
(うん、バレてたね)
(おまっ・・・ハァー;)
(なんでため息?)
(危機感を持てよ、りゅう)
(それはこっちの台詞。ジンから目を付けられてるんでしょう?こんな騒ぎして、大丈夫なの?)
(・・・あぁ、問題ない)
(・・・・あの女、公安に忍び込んで何を盗んだの?)
(・・・・・・・・)
(言いたくないなら調べるまでだけどね)
(・・・ノックリストだ)
(え?)
(公安が掴んでいる、全世界に潜り込んでいるスパイのノックリスト・・・)
(なっ・・・何とんでもない奴逃がしてんのよ!?)
(逃がしたくて逃がしたわけじゃない!)
(早く取り戻さないと日本だけじゃないっ・・・!)
(全世界がパニックに陥るっ・・・)
(それだけじゃないっ!組織の奴らが全世界のそんな情報を手に入れたらっ・・・)
(それだけは絶対に阻止して見せるさ!!)
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