武器、それは・・・(2/2)
「やっぱり、お前がアイリッシュだったんだな」
コナンの言葉に松本、基、アイリッシュは口角を上げ、本上の荷物を漁り始めた。
「本物の松本管理官はどうした?まさかっ・・・」
「いや、まだ生きてるさ。俺の代わりに犯人役をやってもらわなきゃならねぇからな」
そう言いながらアイリッシュはお守り袋のような物の中からSDカードを見つけ出し、懐へと大事そうに閉った。
「それが組織のノックリストが入ったメモリーカードか?」
「あぁ、まぁな。ところで、俺の正体にはいつ気が付いた?」
「・・・おおよその見当はついてはいた。変装が得意なベルモットではなく、別の人間が潜入したって事は、体格が違いすぎて変装できなかったから。そう考えると、あんたが一番の候補になる」
「なるほど、さすが工藤新一だな」
「っ・・・・・」
アイリッシュの言葉に息を飲むコナン。りゅうは「やはりバレているか・・・」と目を細めた。
「指紋が一致するまで、俺も半信半疑だったがな」
「あんたらのボスには報告したのか?」
「いや?まだだ。まだ誰にも話していない」
アイリッシュで情報は止まっていた、という事は、あながち私が調べた情報も間違ってはいないようだ。
ピスコを父親のように慕っていたアイリッシュ。そのピスコを仕事でミスをしたという理由でジンが殺した。
「工藤新一を殺しそこない、その上お前の正体を見抜けなかったのは奴の大きな失点だ。俺はお前をあのお方の前へと連れて行く。あの気障な冷血漢を失脚させるための証人としてな」
・・・・ボウヤの正体はアイリッシュしか知らない。今なら奴だけを倒せばそれで片付く。
りゅうはギュッと拳を握りしめた後、落ち着ける様に目を瞑り大きく深呼吸をした。
「うわっ!!」
目を開けると同時に、ボウヤの声が聞こえてきた。
アイリッシュに吹っ飛ばされているのが目に入り、慌てて駆け寄った。
「ボウヤ!」
バキッーーーと蹴りをお見舞いしながらボウヤを庇う様に彼の前に立ち、アイリッシュへと目を向けた。
「っ・・・・お前は」
咄嗟に腕を交差させ、蹴りの威力を最小限に抑えたアイリッシュ。
「なんでここに・・・!?」
「なんでここにって・・・ボウヤがタワーに入ってくのが見えて・・・」
「くくくくっ、はは、ははははっ!!」
コナンとのやり取りにいきなり笑い始めたアイリッシュ。
「何がおかしいの?」
顔を顰めながら彼を見て低い声で言えば彼は、はっ!と鼻で笑った。
「ここにきたのは偶然・・・そんな演技する必要はねぇぜ?銀りゅう」
ニタァと気味の悪い笑みを浮かべる彼の言葉にスゥッと目を細めた。
「なっ・・・!?」
コナンは彼女の名を呼んだアイリッシュに驚き目を見開いた。
「11年前、家族を五反田大輔という男に殺され、たった一人生き延びた・・・・」
「・・・・・・・」
「ジンの奴が、なぜか自分の手でなく、ストーカー男を利用し殺させたあの出来事を俺は今も覚えている」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら言葉を発する彼に対して、りゅうは無表情のまま、ただただ静かにアイリッシュを見ていた。
「さぞ憎いだろう?我々組織が、全てを奪った五反田大輔が、裏で操っていたジン自身が!!」
「・・・・・・・・」
「ベルモットに聞いていた通りだな」
「ベルモット・・・?」
アイリッシュの言葉に反応したのはコナンだった。
「ベルモットが言っていたのさ、何を言おうが挑発に乗らない奴がいると・・・」
「まさかっ・・・・」
「・・・ふふっ、なるほどね。あんたの中で私が何者か、もう分かってるってわけ?」
だったら、あなたの言う通り、演技は要らないわね?とりゅうは、冷たい笑みを浮かべ、アイリッシュへと言った。
「Phantom、お前の様な小娘がなぁ・・・」
くくくっ、と馬鹿にしたように笑うアイリッシュにりゅうもフッと笑った。
「どぉ?11年もの間、正体どころか存在さえも掴めなかったPhantomが、あんたたちが躍起になって探しても見つからなかった相手が、ただの小娘だと分かって・・・ねぇ、教えてよ」
今のあんたの心境を・・・と、コナンがゾッとするような笑みを浮かべながら、殺気にも似た空気を纏いながらも、ただ落ち着いているようにも見える・・・矛盾したりゅうの今の姿を見て、アイリッシュは浮かべていた笑みを消した。
「・・・小娘?いや、違うな。お前は・・・Phantom、実体のない者・・・化物だ」
「・・・へぇ?化物?」
「この状況を・・・正体を見破られたにも関わらず、笑っている。全てを失った事を指摘しようと、家族が死んでいることをその原因を作った組織の奴に言われようと、ただ落ち着いているお前を、笑みさえ浮かべているお前を化物と呼ばずに何と言う?」
「・・・・・・」
「正体がバレればそのガキの様に焦りを浮かべる。その情報がどこまで伝わっているか気になるはずだろう・・・?だがお前はその情報に焦りを浮かべる事もなく、どこまで伝わっているかも気にも留めやしない・・・。今のこの状況を楽しんでいるようにさえ見えるお前は・・・人間の皮を被った化物・・・」
「・・・・・・・」
「そう呼ばずして、何と呼ぶ?」
くくくっ、と再度笑みを浮かべながらツラツラと言葉を紡ぐアイリッシュに、りゅうはただただ静かな冷たい笑みを浮かべているだけ。
「ふふ、そうね?化物かもしれない。でもこれは私の武器なの」
あんた達を相手にすると決めて、身に着けた私の一番の武器ーーーー
「りゅうっ・・さん・・・・?」
コナンはただ、息を飲み、彼女のその冷たい雰囲気に、笑みに、怒る事も、取り乱すことも、焦る事もない、無感情にもにた彼女の名を呼ぶ事しかできなかった。
武器、それは・・・(・・・・・りゅう)
お前は、化物なんかじゃない。沖矢はライフルをいつでも発射できるように構えたまま、コナンにつけている盗聴器を聞き、彼女の名を呼んだ。
11年もの間、ずっと独りで闘ってきたお前が身に着けた武器の一つ、ただただ心を殺す事・・・
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