八年間(1/2)
「さっき、何が引かかったんですか?」
「え?」
子供達や蘭達と別れ、部屋に昴と共に戻ってきた。
お風呂にゆっくり浸かり、出れば昴ももう一度入りに行って出てきたようで・・・
髪を拭きながらゆっくりと私に近づき言葉を発した彼に、首を傾げた。
相変わらず主語がないな、この男・・・;
「さっき、ロビーで氷川と呼ばれた男をジッと見ていたでしょう?」
「・・・・あぁ。例えばさ、取ってあるメモ書きとかあるとするじゃない?」
そう言ってりゅうは名前を書いたメモ書きを沖矢へと渡した。
「?」
それを受け取った沖矢はその紙を見て首を傾げた。
「そのメモを取っておくとしたら昴だったらどうやってその紙を折る?」
「折る?・・あぁ、何かに挟んでおくためにですか?こうやって・・・!!」
沖矢は言われた言葉に合わせる様にメモの紙を折った。文字が書いてある方を内側にして・・・
すると沖矢は気が付いたようで手を止めて片方の手を口元に当て、考え込んだ。
「・・・別に大した事じゃないんだけど、ただ気になっただけ」
「なるほど、大して気にはしていませんでしたが言われてみれば、あの氷川と言う男性は取り出し、見せた記事を外側にして折っていましたね」
「うん、普通は取っておいた記事やメモなんかは汚れないように内側にして折るのに、珍しいなって思っただけ」
「・・・癖か、もしくは・・・」
「まぁ、あの五人、全員何か訳ありっぽかったよね」
先ほど買っておいたお酒の缶の蓋を開けながら言えば沖矢もりゅうの隣へと腰かけた。
「・・・飲む?」
開けたばかりの缶を彼に差し出せば沖矢は「たまにはビールもいいですね」と笑顔で受け取った。
「ウィスキーはさすがに売ってなかったしねー」
あ、でもワインなら小さいのだけど買ったよ、と言えば彼はクスッと笑った。
「珍しいですね。あなたがそんなにお酒を買い込むなんて」
「んー?たまにはね。こうやって外に出てゆっくりする事も今までなかったじゃない?」
「そういえば、旅行みたいにこうやって出かけるのは初めてだな」
日帰りやドライブなどはたまに出かけるが、こうして二人で外に泊まりで遠出するのは初めてだった。
まあ、二人きりではないが・・・
「うん」
「・・・俺が行こうと無理に誘ったが、お前も意外と楽しみだったわけか?」
「・・・・・・・」
沖矢の言葉にお酒を出している手がピタッと止まり、ゆっくりと視線が合えば、頬を少し朱に染めながらむぅっとした表情をして「うっさい」と小さく呟いた彼女に喉を鳴らした。
「あーもうっ!ほら!」
笑われた事で頬を更に赤くしたりゅうは、その会話を終わらせるために、先ほど沖矢に手渡したものと同じお酒を取り出し、蓋を開けた。
「あぁ、乾杯」と沖矢と缶をコツンッと小さくぶつけて、二人は夜をのんびりと過ごしたのだった。
「・・・・・・」
朝、幾分か早い時間に目が覚めたりゅうはムクっと起き上がった。
「・・・眠れなかったか?」
聞こえてきた声に横を向けば、沖矢が横になったままりゅうを見ていた。
「ううん、そんな事ないよ。少しは寝たし・・・ただ、場所が違うとやっぱ少し落ち着かないっていうか」
「そうか・・・」
「目が覚めちゃったな・・・・」
そう言いながらベッドから降りようとすれば沖矢もムクっと身体を起こした。
「眠かったらまだ寝てていいよ?」
「・・・あぁ」
まだ少し眠たげな彼へと言えば沖矢は小さく返事をした後、チョイチョイ、と手招きをした。
それに首を傾げながらゆっくりと沖矢が寝ていた方へとグルッとベッドを回り近づいた。
「どうかし・・・・わっ!」
いきなり腕を掴まれてグイッと引っ張られた。
急な事にりゅうはバランスを崩し、彼の上へと倒れ込んだ。
そしてそのままグルンと身体が反転し、両腕を顔の両サイドに固定されたまま自分を見下ろしている沖矢へと呆れたような表情を浮かべるりゅう。
「・・・あのねー、いきなりビックリするでしょう?」
「起きるにはまだ早いと思ってな」
「・・・・だから何?」
「少し俺に付き合え」
「はっ!?」
くくっと喉を鳴らす沖矢と、その言葉に小さく目を見開くりゅう。
そんな彼女にお構いなしに沖矢はりゅうの首元へと顔を埋めた。
「んっ・・・ちょっ、昴!?」
首筋に口づけを落とされ彼の手がゆっくりと胸へと触れた。
りゅうはいきなりの予想外の出来事に、ピクンっと身体を震わし、沖矢へと抗議の声を上げるが、両手は、いつの間にかしっかりと片手で頭の上で固定されていて・・・
「っ・・・・昴っ」
「・・・・・・・・」
名を呼ぶが首筋に口づけを落としたまま動かない彼。
すると手の拘束も緩んできた事に首を傾げながらゆっくりと彼を見た。
「・・・・・・・・」
すると目を瞑ったまま、りゅうの胸元に頭を置いて小さく寝息を立てているのが目に入った。
「・・・寝るのかよっ!」
いや、こんな所で事に及ぶよりはいいのだが、いきなり寝始めた彼に寝ぼけていただけか!とついツッコみを入れるが、起きそうにない彼に小さく溜息を吐いた。
彼の身体はいつの間にか上からどいていて、横へとずれていた為、重みなどは全くなかったが・・・
「・・・全く」
小さく溜息を吐きながらも、緩んでいた手の拘束から逃れ、胸元へと頭を預けている彼の髪をゆっくりと撫でた。
するとモゾッと彼が動いたと思ったら更に顔を埋め、両腕はしっかりとりゅうを抱きしめた。
一瞬起きているかとも思ったが、小さく聞こえてくる寝息にクスッと笑みが零れた。
そういうコトは家でな、と言っていた彼だから、本気でするつもりなんて無く、ただ私を揶揄っていたのだろうが、眠気に負けたのだろう。
「・・・子供みたい」
あどけない沖矢の寝顔を見ながら優しい表情を浮かべたまま彼の頭を撫で続けていた。
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