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幼馴染の護り方(1/2)



「どこ行っとたかと思えば海に落ちてたぁ!?」


空が明るくなり始めた頃、船の上では和葉の声が大きく響いた。


「うっさいやっちゃなー」


タオルに身を包んだ服部が柵に寄りかかりながら耳を抑えて、大声を上げた和葉を睨む。


「うるさい!?こっちがどんだけ心配したと思ってんねん!!」


「でも良かったね!服部君が無事で」


二人の言い争いを蘭が慌てて止めて、笑顔で言えば「無事なわけあるかい」と疲れ切ったような表情で話し始めた。


「証拠見つけたろー思って探し回ってたら後ろからどつかれて海にドボンや。たまたま通りがかったあの漁師のおっちゃんらに助けてもろーて・・・大変やったんやで?海ン中服脱いだり、懐中電灯で遠くに合図したり・・・んで、戻ってきたら怒鳴られるってなんやねん!ちょっとは労われっちゅーねん!」


「・・・服、脱いだん?」


服部の言葉に一瞬キョトンとしたものの、蘭と和葉は頬を朱に染めた。


「当たり前やがな。あんなもん着とってみーや、水吸ぅーて重たなって、あっちゅー間にどざえもんになっとったからなー。捨てへんかったんはこのパンツと・・・」


バッとタオルを広げる服部に和葉は「ぎゃっ・・・」と声を上げて蘭の背に隠れた。その顔は真っ赤で、蘭も苦笑いを零しながら目のやり場に困り泳がせていた。


「お前、いつの間にこんなもんポケットに入れたんや。全然気ぃつかへんかったわ」


首に掛けたお守りを手に取り、服部は和葉に言った。


「あー!そうや!平次それ忘れてったやろ!?部屋で寝てる時にポケット入れて文句言うの忘れてたんや!そのお守りのおかげで運よく助かったんやから今度から絶対忘れたらあかんよ!!?」


「ほんまにこのお守りのおかげかぁ?効くのか効かんのかよぉ分からんな」


二人がまた始めた言い合いを、コナンと蘭はニヤニヤ笑いながら見つめていれば、二人はハッとして「な、なんや!?」や「蘭ちゃんその笑み止めてっ・・・」と照れたように慌てて言い争いを止めた。


ーーーガシャンっ!!と突如大きな音が響き渡り、蘭と和葉ビクッと肩を跳ねさせ、コナンと服部は驚きながらもそちらへと目を向けた。するとそこには鯨井に殺気を纏わせながら詰め寄るりゅうの姿があった。


「・・・・・・・・」


「ひっ・・・・・」


無言で鯨井を見下ろすりゅうと、完全に怯えきっている鯨井の姿に、服部とコナンはすぐ近くでその様子をずっと見ていた磯貝に「どうしたの?」と問いかけた。


「あの人も随分と馬鹿よね。さっき銀さんに睨まれたにも関わらず、またいらない口を挟んだのよ」


「いらん口?」


「どうせ捕まるのなら道連れに、とでも思ったんじゃないかしら?‘その女も逮捕されるべき人間だろう!?人を殺しても平気そうな顔して生きていける凶悪犯なんだから’とあの鮫崎って元刑事に訴えて、彼女がその言葉に反応して椅子を彼へと向けて蹴り飛ばしたのよ」


「・・・・・・・・」


磯貝から事情を聴いたコナン達はその言葉に顔を顰めながら、りゅうへと視線を向けた。するとそこには蘭達は先ほど見たゾッとするほど冷たい目をしたりゅうの姿があり、服部は初めて見る彼女のその姿に息を飲んだ。


「一度ならず二度も喧嘩売ってるの?」


「ひっ」


「りゅうっ!落ち着け!!」


鯨井へと詰め寄るりゅうを雨宮が必死に止める。しかしそんな彼の制止に聞く耳を持たず、鯨井へと手を振り上げようとした。


「やめておけ、こんな奴殴った所でお前さんの手が傷つくだけだぜ」


振り上げたりゅうの拳を止めたのは鮫崎だった。彼は苦笑いを零しながら静かに言葉を発したが、元刑事の男ということが妙にイラつき、りゅうは大きく舌打ちをした後、掴まれてる腕を乱暴に振り払った。


「おっ・・・と」


「もとはと言えばテメェのせいだろうが。私でも知らない情報を言いふらして・・・昔も今も警察なんて碌なもんじゃない」


ギンっと睨みつけながら鮫崎の胸ぐらを掴めば、雨宮が「落ち着け、りゅうっ・・・」と今度は後ろからりゅうを羽交い絞めするように抑えた。


「・・・悪かったなぁ。一度ならず二度までもお前さんを傷つけちまったようだ・・・」


離してやれ、大輔。と鮫崎が言えば戸惑いながらも雨宮はりゅうから離れた。


「お前さんが少しでも気が晴れるのなら俺を好きなだけ殴れ」


鮫崎は全て受け入れる、と言わんばかりに目を閉じた。


「・・・・・ちっ」


りゅうは舌打ちをしながら胸ぐらを離し背を向けて歩き始めた。


「・・・殴らねぇのか?お前さんを、お前さんの家族の事件に関わってた刑事を。二度もお前さんを傷つけた俺を・・・」


殴られなかったことに鮫崎は苦しそうな表情を浮かべて背を向けたりゅうへと投げかけた。


「・・・私があんたを殴って何になる?ただあんたが、楽になりたいだけだろーが。11年前、自分の罪に気が付きながら警察の威信だけの為に、見て見ぬふりして見捨てたガキから殴られれば、全てを受け止めれば自分自身が許されたように感じるから」


「っ・・・・・・」


「誰がっ・・・テメェを楽にさせる為の手助けなんかするかよっ!どこまでも!いつまでも苦しめばいい!!母さん、父さん、兄さん、おばあちゃんに桜はもう!笑う事も苦しむことも出来ないんだから!!」


それだけ言い残してりゅうは蘭達の前を通り過ぎた。


「りゅう、さん・・・・」


「・・・・・・・」


悲し気な、寂し気な蘭達の表情に気が付かないフリをして、聞こえないフリをして、船内へと向かう。


「りゅう!」


待てって!と雨宮はりゅうを引き留めようと名を呼ぶが、それに苛立ったようにりゅうは壁に掛かっていた鏡を殴りつけた。


パリンッーーーー


「うるせーよ」


「っ・・・・・」


ピリピリとした殺気を纏い、その目はぞっとするほど冷たく、蘭は息を飲み、和葉は怯えたように平次の背へと隠れた。


「・・・・・」


雨宮はそんなりゅうをジッと見た後、また背を向けて去って行こうとするりゅうの肩を掴み無理やり振り向かせた。


「はなっ・・・・」


離せ、と手を振り払おうとしたがそれよりも先に腹へと衝撃が走り大きく目を見開くりゅう。ズルッと体が崩れ落ちそうになる前に雨宮の服を掴み「ふざけ、んな・・・」と悪態吐き気を失った。


力を失い崩れ落ちていくりゅう。服を掴んでいた手もダラン、と重力に従い落ちれば、それを難なく雨宮は受け止めた。


「雨宮さん!?」


蘭が驚き名を呼べば彼は苦笑いを零した。


「落ち着けと言った所で、無理だろ」


ここまで頭に血が上っちまったらな。と呟きながら雨宮はりゅうを抱えた。


「けど、ちーっと乱暴すぎへんか?」


彼の言葉も分かるが、やり方が乱暴な事に服部は呆れながら口を挟んだ。


「強制的に黙らせるって・・・;」


コナンも口元を少し引き攣らせた。


「いいんだよ。このくれーしねぇと、こいつ自身止まれないだろうしな。次、目を覚ました時には沖矢サンが居る時に、が一番いいんだよ」


俺じゃもうこいつを止められねーし、支えるのは俺じゃねぇ。と小さく呟いた後、悲しげに笑い、気を失っているりゅうの額へと小さく口づけを落とした。


「・・・・大輔」


こいつ、寝かせてくるわ。と立ち去ろうとすれば鮫崎が雨宮の背後へと歩み寄ってきた。


「・・・この11年間、こいつは苦しみ続けてきた。全てを一人で・・・家族と親友の死という十字架を背負って、罪悪感と謝罪を繰り返してずっと生きてきたんだ。それはきっとこれからもこいつを苦しめ続ける」


「・・・そうだな」


「ほかの警察の奴らと違って鮫崎さんは十分に苦しんできたのを俺は知ってる。でもこいつにはそれは関係のないことで・・・」


「あぁ、嬢ちゃんの言葉、まさに図星だったぜ」


「鮫崎さん」


蘭やコナンたちもその会話を聞きながら悲しげな表情を浮かべた。


「俺は許されたかったのかもしれねーな。あの時の罪の意識を少しでも楽にしたくて・・・それを当事者だった嬢ちゃんに殴られることで許されるんじゃねーかって心のどこかでそう思っちまったのかもしれねぇ」


「・・・・・・」


「お前の言う通り、嬢ちゃんには関係のない、お門違いな事だ。そんな事で許されるわきゃあねぇ。それが望みなら俺はずっとこの苦しみを背負って生きていかなきゃあならねぇよな」


俺は、今も生きてんだからよ。そう言った鮫崎の表情は苦しげだったが、覚悟を決めた男の顔だった。


「嬢ちゃんが起きたら・・・いや、伝えられる時が来たらでいい。伝えておいてくれねぇか?」


「こいつの機嫌しだいっすね;」


鮫崎の言葉に約束はできませんが、一応聞いておきます、と雨宮は苦笑いを零したのだった。


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