賢い後輩であれ。
『捗ってるかー?』
「…。」
『おーい。どう?良い感じ?後輩君』
「…捗ってますよ」
宜しい、と笑い交じりの声が頭上から聞こえてくる。
顔を上げれば紛い黒髪を揺らした女性の背中が見えた。
彼女は自分と同じく数少ないFBIの日本人捜査官。
そして立場的には先輩である。
「またりゅうに絡まれたの?シュウ」
「あぁ。…別に毎回の事だから構わないがな」
「ちなみに言っておくと彼女、さっき貴方の机の隅に資料を置いて行ったわよ」
「気付いてる。」
机の側に無造作に置かれた資料にため息を吐く。
先輩とは言っても資料を扱う作業に対しては見習う部分は皆無。
しかし彼女が凄腕である事は自分が1番知っている。
何故なら、
「りゅう!シュウ!奴等が…!」
『OK.すぐに行く』
「りゅうさん。上着」
『持って来て』
目付きの変わった彼女に息を吐いて上着を抱える。
そうして彼女の後ろをついて行けば1台の車に辿り着いた。
これも毎回の事だ。奴等の捜査には基本的に赤井が彼女に同行する。
『ジョディ、場所は?』
「思ったよりも近場。場所は……」
『……。分かった。秀一』
「ええ」
ハンドルを切り物凄い勢いで道を走って行く。
りゅうは運転している赤井の隣で拳銃の弾の有無を確認していた。
その横顔はやはり別人の様に真剣で、思わず見とれてしまう。
『前見て運転してよ?』
「!」
『此処で事故ったら反省文どころじゃ済まさないからねえ』
「…急にまともな事を言わないでください」
再び前方に意識を戻し目的地に向かう。
隣で着々と準備をするりゅうは赤井の分の銃も準備して彼の膝の上に置いた。
準備を終えた彼女は指先で拳銃をクルクルと回し口笛を吹く。
その様子を横目に少し笑った。
『あ、今笑った?』
「ええまあ」
『なんでさ。何かおかしい?』
背凭れに深く凭れ掛かり片足を上げるりゅう。
さっきまでの真剣さは何処へ?
そう冗談めかして言った赤井に今度はりゅうが笑う。
『オンオフぐらいちゃんとしないとしんどいじゃん』
「今から殺し合いになるかもしれないのに?」
『そう言う時程緩く行くんだよ。』
終いには欠伸を漏らす彼女にため息を吐いて目的地に到着する。
2人で気配を絶ち奥に入り込んだ。
中を覗き込めば組織の人間と思われる男同士が何やら取引をしている。
目を合わせた2人は一気に突入した。
「っ!?」
「何だお前等!」
『迂闊に声を出す。はいポンコツ決定。』
「ぐっ」
手前の男を拘束し赤井に目を向ける。
赤井も無事に男を確保したらしくりゅうに目を向けて小さく微笑んだ。
腕を押さえつけてうめき声を上げる男の上に跨る。
『…ふーん。拳銃は1丁だけか。しかも結構安物だね、性能悪いし中古?』
「銃を眺めてないでしっかり抑えといてくださいよ」
『分かってるって。…ね、君コードネームないでしょ』
りゅうに掴まっている男の額に青筋が浮かんだ。
その様子に目を細め気だるげに目を逸らす。
なんだ、本当に無いのか。
興味を削がれた様に言ったりゅうに赤井が目を向けると同時にFBIの仲間達が入って来た。
『んじゃあ後はお願いね。』
「…りゅうさん」
『私は家に帰るわ』
「は?」
後は頼んだ。後輩君。
パチッとウインクをして颯爽と歩いて行くりゅうにため息を吐いた。
いつもの事だ。犯人確保などの身体を使う仕事は乗り気の癖に報告となると逃げる。
しかも今回の様なやる気を見せるのは奴等、組織を追う時のみである。
「…。」
『?…何、なんで引き留めるの』
「仕事してください。先輩」
『は、ちょ』
我々は本部に帰ります。
そう仲間に伝えて歩き始める赤井。
彼によって車に乗せられりゅうも本部に帰る事となった。
『あ゙ー…。だーるーいー』
「…」
『何とか言え後輩ー。お前の所為で』
「秀一じゃないんですか?」
赤井の言葉にりゅうの細められた目がついと向いた。
俺は赤井秀一。後輩じゃないです。
そう言った赤井に薄く笑って「後輩だよ」と言った。
そんな言葉にチラリと彼女に目を向ける。
「そんなに後輩が欲しいですか?」
『!…なんだ、ジョディから聞いた?』
「ええ。…組織を執拗に追うのは潜入した後輩を殺されたから、ですよね」
『…まーねぇ。結構可愛がってたのよ』
煙草を取り出し火を付ける。
窓を開けて煙を吐いたりゅうは笑って言った。
『だから可愛い後輩がほしーんだよ』
「…」
『君みたいに強い、…殺されない後輩がさ』
皆私みたいに要領良く息抜きすりゃ良いのに。
唐突に言った彼女に目を向けた。
君も案外真面目だからねえ。
気だるげに言った彼女に目を前に向ける。
「後輩の俺が真面目にやらないと仕事が回らないでしょう」
『…はは、言えてる。…でもさぁ』
「?」
『怠くなったらやめて良いよ?まだジョディとかいっぱい居るし』
あっけらかんと言った彼女に眉を下げた。
少しぐらいは資料の方も仕事してください。
そう言った赤井にりゅうがまた煙を吐いた。
『私はこういう仕事に特化してるからさぁ』
「そんな事を言われましてもね」
即答した赤井にくっと笑う。
そして彼に目を向けてりゅうは気だるげに言った。
頑張れ、後輩。 (彼女の為に良い後輩であろうと思った)
(しかし彼女のかつての後輩の様に潜入捜査を命じられたのは)
(そう思った次の日で。)
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紫様より頂きました!リクエストして書いてもらった小説を頂いちゃいました!
快くOKを頂きありがとうございます!
始終敬語の赤井さんいいですよね!あと敬語にもかかわらず「俺」も!紫様のツボ!物凄く分かります!カッコイイ!
おお!紫様も赤井さん一家のお話、サンデーで読まれましたか!あれいいですよね!
もう大好きで、そのサンデー三冊とも未だに取ってあります(笑)いつもはサンデー買わないのに・・・
と、長々失礼しました。
本当に素敵な小説をありがとうございました!
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