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早くその手をっーーー(1/2)




「りゅう?どうかしましたか?」



朝、ポストを見に行ったきり家の中へと中々戻ってこない彼女を心配して外に出てきた沖矢。



「え!?あ、なんでもないっ・・・」



どこか慌てたように言葉を言うりゅうに、沖矢は何かを隠していると瞬時に見抜くが、彼女の様子からして知られたくないのだろうと結論付け「そうですか」と笑った。



「さ、中に入りましょう。朝ご飯が冷めてしまいますよ」



「うっ、うん・・・・」



絶対気づいたよね、そう思いながらも何も聞いてこない彼に安心してしまった。



朝食を食べている間、いつも通りの沖矢と、どこか落ち着きがないりゅう。



「あ・・のさ・・昴・・・・」



「はい?」



「あのっ・・・・」



何かを言い出そうとしている彼女に、沖矢は静かに待っていた。



「・・・・・やっぱなんでもない」


あははっと苦笑いしながら朝食を食べ始めるりゅうに、沖矢は小さく溜息を吐いた。




「りゅう・・・・・」



彼に名を呼ばれただけでビクゥと肩を跳ねさせるりゅう。



「な・・なに?」



「・・・・何かあったらすぐに言ってくること、いいですね?」




「・・・・昴」



ビクビクとしたまま沖矢を見れば彼は優しく笑って言った。



「あなたが言いたくない事を無理に聞こうとは思いません。そして今あなたが抱えている問題を自分自身で片付けたいと言うのであれば私は何も言わずに見守りましょう」




「・・・・・・・」




「ただ、これだけは覚えておいてくださいね?」




「え?」




「一人で抱え込まない事、一人ではどうしても無理だと思ったら必ず私を頼ってくること・・・・約束できますか?」



「・・・・うん」



優し気に笑う沖矢にりゅうはホワンと心が温かくなって、笑顔で返事を返した。



「よろしい」



「昴・・・・」



「はい?」



「ありがとう・・・・」



「いえ、ただ・・・無茶はしない事、いいですね?」



「うん」




そんな会話をしながら朝食を済ませば、りゅうは出かけてくると昴に声を掛けた。




「一人で大丈夫ですか?」



「んー?いつもの散歩してくるだけ、大丈夫だよ。それに・・・・」



心配そうな彼に笑って言う。



「?」




「さっきの昴の言葉でかなり気が楽になった」




ありがとう、そう呟いてりゅうは小さく手を振って散歩へと出かけて行った。




「・・・・・・・・」



その背を沖矢は心配そうに眺めていた。



「いつも持っていないカバンを持ってましたね」



彼女はいつも散歩に行くときは少しの小銭をポケットに入れてヘッドフォンとiPod、そして携帯しかもっていかないのに、今日はカバンを持って行った事に少し違和感を感じた。




「・・・・何を隠しているんでしょうね・・・」



先ほど、ああは言ったが心配なものは心配で・・・・しかし何も言ってこない所を見ると巻き込みたくないのか、はたまた違う理由なのか・・・それは分からないがとりあえず、何かがあれば頼ってきてくれると信じ、静かに見送った。











「・・・・昴、ごめんね」



言えなくてごめん。



心配させてごめん。



りゅうはトボトボとヘッドフォンをしたまま歩きながら小さく息を吐いた。



今朝ポストにあったものを見てすぐに頭に過ったのは11年前の出来事。



りゅうはギュッと拳を握りしめた。



昴はきっと、内容までは知らない。



ただいつでも頼って来いと、私に逃げ道を作ってくれた。



そんな優しい彼を、巻き込むわけにはいかない。




助けを求めるな。



縋るな。



これはーーーー



「私の問題だっ・・・・」



昴を巻き込むなっ・・・・・



そう必死に自分を言い聞かせてカバンからあるものを取り出した。



それは封筒ーーー



宛先も、差出人も書いていない真っ黒な封筒。



一瞬組織の奴らを連想させたその封筒だったが、中身を見た瞬間息を呑んだ。




そこにはーーーーー




「・・・・これって昨日の私の服装よね・・・・」



その中身は沢山の写真だった。



りゅうの姿ばかりが撮られている写真。



そして中には沖矢との写真もあったが、その写真は彼の顔だけカッターか何かの刃でズタズタに切り裂いたものでーーー



すぐに分かった。



組織じゃなく、これは‘奴’と同じ行為ーーー



ストーカーだと・・・・・




「どうしてっ・・・・」



今更になってこんなことが起こるのかっ・・・



外では冷たく接し、出来るだけ人とは関わらず、笑わずに過ごしてきた。



それは‘奴’に言われた言葉ーーー



≪どうして・・・私なの・・・?≫



≪ふふっ・・あははっ・・それは君だけだったから・・・・≫



≪え・・・・?≫



≪世の中の奴らって酷いよね〜・・・他人には厳しい癖に、顔がいいだけでっ・・僕とは違う扱いを受けるやつっ・・・・・≫



≪・・・・は?≫



≪君だけは違った・・・僕にも優しく接してくれたよね・・・笑ってくれたよねっ・・・ハンカチだって差し出して・・・こっ・・ここに絆創膏はってくれてっ・・・・君は僕の事がす・・好きなんだろう・・・?≫



≪あんたっ・・・何言ってんのッ・・・?≫



≪ふっ・・ふふっ・・あははっ・・・りゅうちゃーん?いいこと教えてあげるね・・・君がそうやって良かれと思ってる優しさは・・時には残酷なんだよー?だから僕はっ・・・僕以外にも優しい君をっ・・・しっ・・・躾けなきゃっ・・・あはっ・・あははっ≫






「・・・・・・・・・」



それから私は漸く気がついたんだーーー



あいつが私にしつこく付き纏ってたのは、私が‘奴’に勘違いさせたから・・・・



母から言われた言葉ーーー



ーーー優しくありなさいーーー



その言葉を胸にずっと生きてきたあの頃ーーー



誰に対しても、決して見返りを求めず、常に心を穏やかに、優しくあれーーー



母がいつも繰り返し、私とにぃーにに言ってきた言葉だった。



まさかそれが‘奴’に勘違いさせるとも知らずに・・・・




全てを失ったの時、‘奴’を呼び出し、問い詰めた時のあの言葉ーーー



私は笑う事を止めたーーー


常に心を穏やかに、人に優しくあれと言ってきた母の言葉を裏切ることになろうともーーー



「私はっ・・・もう誰もっ・・・失いたくないっ・・・・」



‘奴’に勘違いさせた自分が大嫌いーーー


‘奴’のタイプだと言われたこの顔が大嫌いーーー


あの時、優しくありたいと思い、誰に対しても平等に接していた自分が大嫌いっーーー



ズルズルとその場に座り込み、写真を握りしめて一筋の涙を零すりゅう。



ジャリっと聞こえてくる足音にビクッと肩を震わせ慌てて立ち上がった。



「っ・・・・・」


徐々にこちらへと近づいてくる足音に震える身体。



りゅうはその場を走り出した。




「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」



どの位走り続けただろう?



大分息が上がってきて、足も限界にきていた。



しかし後ろから迫ってくる足音は未だに聞こえてきていて・・・・



「っ・・・・・・」



どうしてっ・・・・



なんでっ・・・・・


いつもの様に、組織を相手するように撃退すればいい。


ストーカーと言っても追ってくる‘奴’はほぼ一般人に過ぎないだろうから。


実力の差で言えば明らかに自分が有利なのに。



それなのに震える身体、勝手に逃げようと足が動く。


頭は真っ白でーーー


もうどうして逃げているのかさえ分からなくなってきたーーー



走っていた足が、徐々にゆっくりとなり、最後にはピタリとその場に止まってしまう。






ゆっくりと近づいてくる足音に、身体が震える、けれどもう足が動きそうになくてーーー



ポンッと肩に置かれた手にビクッとして振り向きざまに出た手をパシッといとも簡単に受け止められてーーーー



「っ・・・・・」



「ちょっ、りゅうっ!私です、落ち着いて」



聞こえてきた声に見えていなかった視界に色が戻ってきた。



「・・・・す・・ばる?」



「えぇ」



受け止めた手に小さく口づけを落とし、ニコリと笑うのは沖矢の姿で。



彼だと分かった瞬間、フッと力が抜けてその場に座り込むりゅう。



「ぅ・・・うぅっ・・・・・」



カタカタと震える身体にあふれる涙。



沖矢は座り込んだ彼女と視線を合わせる様にしゃがみ、その涙を拭った。



「りゅう、すいません」



申し訳なさそうな沖矢の表情にりゅうは泣きながら彼を見つめた。



「なっ・・んでっ、昴がっ・・うっ・・謝るのっ・・・?」



「あなたが頼ってくるまで待つと言いながら・・・心配で追いかけてきたことを・・ですかね?」



沖矢の言葉にりゅうはピタッと止まる。



「りゅう?」



「追いかけてきた?・・・え?じゃあさっきから私を追いかけてきたのは・・・・」



「私がきたのは今今ですよ、GPSを見ていたら急にりゅうの移動速度も、いつもの散歩コースも外れてましたから」



沖矢の言葉に、先ほどまで追いかけてきていたのは別の奴でーーーー



身体が再度カタカタと震え始めた。



そんなりゅうをギュッと抱きしめて彼はこう言った。



「りゅう・・・早く言え」




「・・・え?」




「大丈夫、俺は絶対にお前の前から消えたりしない」




その言葉にりゅうは止まっていた涙がまた溢れだしてきた。



ポロポロと涙を流すりゅうに沖矢は抱きしめている腕に力を更に込めた。




「手を伸ばせ、俺が必ずその手を取ってやる」



「うっ・・・ふっ・・・・」



「助けを求めろ、俺が必ず助けてやる」



「っ・・・・・・」



「俺に縋れ、お前が縋ってくれるのなら俺は絶対にお前の前から消えたりしないと誓う」



「すば・・・・秀一っ・・・・・」



沖矢の言葉に、りゅうはギュッと抱きしめ返して涙を流した。



「秀一っ・・・・私っ・・・怖くてっ・・・身体が動かないのっ・・・お願いっ・・・」




「りゅう・・・・」




「助けてっ・・・・・」




初めてりゅうから言われた言葉、初めて彼女自身から手を伸ばしてくれた出来事ーーー



沖矢は涙を流すりゅうの頬にチュッと小さく口づけを落とした後、「秀一っ・・・」と‘自分’の名を呼ぶ彼女の口に口づけを落とした。




「んっ・・・・・・」



直ぐに放されたその口づけ、沖矢はコツンとりゅうの頭に自分の額を付けて笑顔で言った。




「あぁ、当たり前だ」



後は俺に任せろ、彼はそう言ってりゅうを抱き上げ、近くに停めてある車の助手席にりゅうを座らせて扉を閉めた。




待ってろ、と一言残し、鍵をしっかり閉めて沖矢はその場から居なくなった。




彼が戻ってきたのはそれからすぐでーーー



運転席に乗り込む沖矢の頬に血が付いていて、一瞬息を飲むりゅう。



慌ててハンカチを取り出してソッと頬へと置けば、沖矢はその手を優しく包んで笑った。




「大丈夫だ、怪我はしてない」



俺が怪我をするはずがないだろう?と彼は余裕そうな表情を浮かべ、りゅうは安心したようにフワリと笑った。




「ありがとうーーーー」






・・・・・・・・・・・・・・・・
(・・・ねぇ、昴、一つ聞いていい?)
(はい?)
(怪我・・・してないって言ったよね?)
(はい)
(・・・何をしたかは知らないけど・・・向こうも反撃がきたんじゃないの?)
(まぁ、そりゃあ反撃はしてくるでしょうね)
(・・・一発ももらってないの?)
(えぇ)
(・・・・・・じゃぁその服の返り血って・・・)
(相手のですよ?)
(・・・・あぁ、そう(そんなに笑顔で言われても・・・;))





歌雫様!5万HIT&映画記念リクエスト企画にご参加頂きましてありがとうございます!
ストーカーされて必死に隠すが結局は赤井さん(沖矢さん)に助けてもらう・・・とのリクでしたがこのような仕上がりになってしまいましたが・・・よろしかったでしょうか?><
楽しんで頂けたら嬉しいです!
ですが違うお話がいいなとの事でしたら、歌雫様のみ!書き直し依頼をお受けいたします!

楽しく書かせて頂きました!
またぜひ!遊びに来てくださいね!
本当にありがとうございました!









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