やっと言えるーーー(1/3)
「新しく幹部になった‘ライ’だ。お前が面倒見ろ」
部屋でゴロゴロとしていればノックもなしに入ってきたジンにギロッと睨みつけた。
「・・・毎回毎回、ノックしろって言ってんでしょーが。新しく幹部になった?面倒見ろ?知るか。私は寝たいのよ」
出てけと低い声で言えばジンも「あぁ?」と睨みつけてきた。
「大体あんたが頼まれた事なんじゃないの?それを面倒だからって私に回してんじゃないわよ」
「俺はお前と違って忙しーんだよ」
ジンが言った言葉にピキッと青筋を立てるりゅう。
「あんたが私に仕事回しすぎなのよっ!自分の仕事もこっちに回しやがってっ・・・おかげでこの1週間の就寝時間が合計で1時間よ!1時間!!平均じゃなく合計で!!!」
「フン、だから前回仕事失敗したと言いたげだな」
「言いたげじゃなくてそう言いたいのよ!ってか!失敗してない!!一発ちょっと外しただけだっつーの!!」
「その一発外しただけが標的の隣りに居た俺に当たったと?」
「んなの、避けないあんたが悪いんでしょうが!」
「後方から味方に撃たれるとは思ってもいなかったんでな」
カチャッとジン愛用のベレッタをいきなり構えられる。
「ちょっ・・・なんでそんなもん私に向けんのよ!?」
「一発お前に撃たれたことを思い出した。結果俺だけというのはどうにも癪だからな」
え・・・?だからお互い様という事で一発撃たれろと・・・?
「いやいやいや、馬鹿なの?」
嫌に決まってるじゃん!と必死にどなるが引き金に手を掛けるジン。
「っ・・・分かった!分かったわよっ!!そいつ!ライ・・だっけ?私が見ればいいんでしょう!!?」
「くくっ・・・最初からそう言えばいいんだよ」
りゅうが言った言葉に満足そうに笑い、ベレッタを引っ込めるジン。
「・・・毎回毎回、人に銃を向けて脅すの止めてくれる・・・?」
一気に疲れる、と呟けばジンは喉を鳴らした。
「だったら素直にいう事を聞くんだな」
「それは癪なので嫌です」
そう言えばジンは喉をもう一度鳴らし、部屋を出て行った。
「・・・・・・・」
パタンとしまった扉をライと呼ばれた男は無言で見ていた。
「・・・・・じゃあ、私寝るから」
「・・・・仕事は?」
「・・・私に過労死しろと?」
「・・・・・・・」
りゅうの言葉に無言でこちらを見つめるライ。
ハァーっと溜息を一つ吐いた
「そんなに仕事したい訳・・・?あ、じゃあこうしよう」
いい事を思いついた、と言わんばかりに手を叩くりゅうにライは首を傾げた。
「あんたの最初の仕事、私の安眠を守る事」
「・・・・・は?」
りゅうの言葉に間の抜けた声を出すライ。
しかし、そんな事をお構いなしに「じゃあおやすみー」と布団を被ってすぐに寝息を立て始めるりゅう。
「・・・・随分と寝つきがいい女だな」
ライは呆れたような表情を浮かべて溜息を一つ吐いた。
小さく寝息を立てている女に近づいて顔を覗き込む。
その寝顔は先ほどジンと言い合いしていたような難しい表情ではなくて、あどけない寝顔だった。
起きる気配もなし。随分とお気楽なようだとまた溜息を吐いたが次にフッと笑いが漏れた。
「・・・変な女だ」
「んっ・・・・・」
モゾッと身動きをしてゆっくりと起き上がった。
暫くボーっとした後、「んーーーー」と伸びをした。
「はぁ・・・・良く寝た・・・寝た・・かな?」
「そりゃあ16時間も寝ればよく寝ただろうな」
「16時間も寝てたの?わーお。久々に良く寝たわ。ってかよくジンが何も言わなかったな」
「そのジンからの伝言だ」
「んー?」
「起きたら覚えておけ。だそうだ」
「・・・はっ!?」
一瞬言われた言葉が分からずに間を置いてしまった。
「・・・・ってかあんた何でいるの?」
そう言えば私は誰と話していたんだろう?と疑問に思い、声がする方へと向けばそこには扉の近くで本を読んでいるライの姿があった。
「・・・・あなたが言ったんでしょう」
パタンと本を閉じながら呆れたように溜息を吐くライ。
「・・・私なんか言ったけ?」
あまりに眠すぎて覚えていないと言えば、ライはハァーっと大きくもう一度溜息を吐いた。
「最初の仕事がまさか、あなたの安眠を守るという仕事になるとはな」
「・・・あー、そう言えばそんなこと言ったな・・・ってかずっとそこに居たの?」
「・・・あなたがそう命じたんでしょうが」
なんだか疲れたような表情を浮かべるライにりゅうはキョトンとした後、ふはっ、と吹き出した。
「あはははっ、あんた見かけによらず律儀なのねっ・・・ははっ・・・やば、お腹痛いっ・・あははっ・・・」
お腹を抱えて笑い出したりゅうに、ライはやれやれと、小さく溜息を吐いた。
「笑いすぎです」
「あははっ・・・ごめんごめんっ・・・」
りゅうに近寄り、ある資料を手渡した。
「なにこれ?」
をれを受け取りながらライを見れば「ジンからです」と言われてパラパラとその資料を見た。
「・・・これ全部?」
「その様ですね」
中は俺も見させてもらいました。と小さく呟きながらりゅうが座っているベッドの隣で立っている。
「座れば?」
そう言うとライはベッドへと腰かけた。
「そういや言ってたねー、起きたら覚えておけって・・・何、起きた早々30件ほど仕事を一気に回すって何?」
その資料は全て仕事内容で・・・全部で30件ほどあった。
「お前が寝ている間に溜まった仕事だ、と言ってましたが・・・」
「ちょっ・・はぁ!?この量を私が起きてたらやらせてたって事!?馬鹿じゃないの!?」
私に本当に過労死しろと!?とキィー!と発狂しだすりゅう。
「・・・・・・・」
「・・・・こんな事ならあの時一発と言わずに二発食らわせればよかったっ・・・」
くそーーっと言いながら出た彼女の言葉にライはキョトンとした。
「・・・さっき言っていた言葉、あれはわざとですか?」
「あったり前でしょー?少しッ位嫌がらせしないとやってらんないわよ、あの鬼畜男っ・・・って、あっ」
やばっ、と口を慌てて抑えてライを見るりゅう。
「くくっ・・・」
しかし、顔を俯かせて肩を震わせているライの姿があった。
「・・・・言っちゃだめよ?」
「了解っ・・・」
くくっと未だに笑い声が聞こえてきて、りゅうもなんだか釣られてしまい、一緒に笑い出した。
「シンフォニー、それが私のコードネームよ」
これからよろしく、と手を差し出せばライも「あぁ」と言って手を出してきた。
「見て分かると思うけど、私の負担が多すぎるの、早く育って私の仕事こなしてね」
「・・・・丸投げはしないでくださいよ?」
「えー・・・ジンが私に丸投げするから育ったらライに丸投げしようと思ってたのにー」
ライの言葉に不満気に言えば彼はフッと笑った。
「それで俺の睡眠時間が減ったら、間違えて上司に当ててしまうかもしれませんよ?」
「あ、それは勘弁;」
うん、一緒に仕事しようーねー、とコロッと態度を変えればライは更に喉を鳴らした。
「後、私に敬語使わなくていいわよ?あんた敬語、似合わないし・・・」
「酷いいいようだな」
りゅうの言葉にライは苦笑いして早速敬語を外してきた。
「うん、そっちの方があんたらしいよ」
ズイッと彼に顔を近づけて目の前でニコッと笑えばライもふっと笑った。
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