嘘か本当か・・・(1/2)
病院から家へと帰る道のりでりゅうは窓の外、流れる景色を見ていた。
「・・・そういやあんた、足大丈夫なの?」
「ああ、そう言えばそうでしたね」
「・・・・・;」
「あまり深くないですし、血なら止まってますので大丈夫です」
「家帰ったら診せて」
「はい、お願いします」
そんな会話をした後、もう一度視線を窓の外へと向けようとしたら沖矢が「そういえば・・・」と言葉を発した彼を見た。
「何?」
「安室さんは・・・」
「安室さん?あぁ、そういえばトロピカルランドで後姿見たけど・・・ってかなんでトロピカルランドに居たの?」
「なんでって、あなたの記憶を戻す為に・・・」
「記憶を戻すため?」
沖矢の言葉に不思議そうに首を傾げた。
「・・・・・・お前、全部思い出したんじゃあ・・・」
「佐藤を撃った犯人の顔は思い出したよ。ただ・・・」
「ただ?」
「あのホテルで佐藤が撃たれてから・・・なんで私トロピカルランドまで記憶が飛んでるんだろ?」
「記憶喪失だったんですよ・・・」
「記憶喪失?」
「目の前で佐藤刑事が自分のせいで撃たれたことがあなたには相当堪えたんでしょうね」
「・・・・・・」
「記憶を失っている間の記憶がないという事はよくある事です。そんなに気負う必要はないですよ」
「うん・・・・(ごめんね、昴)」
「さぁ、着きましたよ」
工藤邸へと着けばすぐに車を降りた沖矢は助手席へと回った。
「大丈夫ですか?」
車から降りる際、沖矢がスッとりゅうへと手を差し出した。
「ん。ありがとう」
その手を取り車から降りれば肩を抱かれて家の中へと入っていった。
お風呂に入ってくると言ってりゅうは浴室へと行けばリビングに残った沖矢は考え込むように口元に手を置いた。
「・・・・・・・」
少し考えた末、ある人物へと電話を掛け始めた。
≪もしもし≫
「怪我の方は大丈夫ですか?撃たれたとお聞きしましたが・・・」
≪肩を掠めた程度ですよ。大した怪我じゃありませんから・・・あなたも怪我を負ったそうですが・・・≫
「私も掠った程度ですので問題ありません」
≪・・・りゅうに怪我はないですか?≫
「えぇ、彼女は無傷ですよ」
≪そうですか。それは良かった≫
「安室さん・・・」
≪・・・記憶、ないんでしょう?≫
「え?」
≪りゅう・・・記憶が無くなっている間の記憶がないんでしょう?≫
「・・・・分かってたんですか?」
≪なんとなく・・・なんとなくですけどね。トロピカルランドで目が合った時の感じで・・・≫
「そうですか」
≪・・・呼んでくれたんです≫
「え?」
≪りゅう・・・昔呼んでくれたみたいに僕の名前を呼んでくれたんです。白夜じゃなくて・・僕だって分かってたみたいでっ・・・≫
安室の声は何処か震えているようだった。
「・・・雨宮さんに聞いたんですが・・・」
≪雨宮って・・・この前の・・・いや、あなたは知ってるんですよね。知らないフリをする必要はないですね。大輔のことですか?≫
「えぇ、白夜さんと、あなたとでは呼び方が違ったらしいですよ」
≪え?≫
「やはり知りませんでしたね。白夜さんの事は‘にぃーに’あなたの事は・・・・」
≪お兄ちゃん・・・?≫
「えぇ・・・・」
≪っ・・・(あいつは初めからっ・・・俺だと分かってっ・・・)≫
「あなただと分かって彼女は笑ってましたよ。あなたがこれ以上自分を責める必要はないのではありませんか?」
≪っ・・・・あなたに何がッ・・・≫
「確かに、分かりません。ただひとつだけ分かりますよ」
≪・・・・・≫
「彼女は笑ってくれますよ。あなたを責めてなんていない」
≪何でそんな事がッ・・・≫
「笑ってくれましたよ」
≪え?≫
「記憶が戻ってもりゅうは私に笑ってくれましたよ」
≪・・・そういえばそう言ってましたね。記憶が戻ったとしても笑ってくれると・・・≫
「えぇ・・・」
≪あなたと僕とでは違いますよ。僕が望んだことですから・・・≫
「あなたが望んだ?」
≪僕の事は忘れて欲しい、そう白夜にお願いしてりゅうの前で僕の話をしないようにしてました≫
「・・・なるほど、だから彼女はあなたの事を覚えていなかった」
≪えぇ、小さい時に僕と白夜の見分けがつかなかったくらいですから・・・≫
「双子の兄弟がいると知らなかったりゅうだから・・・あなたの事を話さずにいれば幼い記憶からは徐々に薄れていった・・・という事ですか」
≪えぇ≫
「ですがあなたは見つけられなかったと父親が・・・」
≪双子でしたから・・・白夜とだけは会えたんですよ、偶然に何度もね・・・≫
不思議なもんですけどね、と安室は苦笑いを零したようだった。
「・・・もう一度だけ聞いてもいいですか?」
≪・・・・断ったとしても聞くんでしょう?≫
「えぇ・・まあ。・・・本当にこのままでいいんですか?」
りゅうに忘れられたままで・・・
≪・・・はい。僕を・・・俺の事を‘俺’として見て‘兄’と呼んでくれた。もうそれだけで十分です≫
ですから僕の記憶が無い以上、彼女に言われた通り今度こそもう二度と・・・彼女の前には姿を見せるつもりはありません。と安室はそれだけ言って沖矢の返事を聞く前に電話を切った。
「・・・・・・・」
ツーツーと無機質な音が聞こえてくる携帯を一つ溜息を吐きながら見ていれば「昴?」という声と共に扉を開けるりゅう。
「ああ、出ましたか」
「うん。・・・どうかした?」
「いいえ。では私も入ってきますね」
「うん」
沖矢が浴室へと向かう後姿を見送った後、りゅうは携帯を手に取った。
ピッピッ・・・と操作して出てきた名前は「安室」の名前。
「・・・・・・・」
その表示を出したまま暫くボーっとしていれば結構な時間が経っていたようで赤井が「りゅう?」と声を掛けるまで気がつかなかった。
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