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尊敬する人(1/2)







「さぁ、明日は朝から検査があります。今日はもうゆっくり寝て下さい」



身体を起き上がらせて暫く沖矢と話していたりゅうだったが、少し瞼が重くなってきて目を擦れば沖矢がベッドへと横にさせながら布団を掛けた。




「・・・・沖矢さんは?」



「私はここに居ますよ」



迷惑ですか?とどこか悲し気に言う沖矢に「いえっ・・・迷惑ではないですけど・・・」と口篭るりゅうに沖矢は首を傾げた。




「・・・ちゃんと寝ないと沖矢さん、隈出来ますよ?」



そう言って横になったまま、沖矢の顔へと手を伸ばしソッと目の下を撫でるりゅう。



「っ・・・・・」



何処か心配そうなりゅうの表情、そしてその行動にツキンと胸が痛む沖矢。



悲しげな表情をする沖矢に気がつき、慌てて手を引っ込めるようとする。



「あっ・・ごめんなさい、ついっ・・・」



その手をパシッと掴み、そのまま自身の頬へと彼女の手を持っていき、その上から自分の手でしっかりと包んだ。




「・・・・・りゅう」




「沖矢・・・さん?」



目を閉じて、暫くその温もりを確かめた後、「いきなりすみません」と謝りながらりゅうの手を布団の中へと入れ手を離した。



その離れていった手に、温もりに、どこか残念そうな、寂しそうな表情をするりゅうに沖矢はフッと寂し気に笑った。




「・・・そんな顔をするな」



「・・・そんな顔ってどんな顔ですか?今の沖矢さんの様な・・・表情をしていますか?」



沖矢の言葉にりゅうは眉を八の字にして彼を見つめていた。




「・・・さ、今日は寝てください」



彼女の言葉をなかったかのように沖矢は優し気に笑い、頭を撫でた。



りゅうは言葉をなかった事にされ、少し不貞腐れたような表情をしたのだが、その撫でられる感覚に、目を細めてふにゃりと笑った。



まるで本当に猫だな、と沖矢は内心で笑った。いつもの彼女なら、いや、出会った時も思った事だが、ただ「気性の荒い猫」のような彼女、そして今は「甘える子猫」のような表情の彼女。



「・・・沖矢さんも私を知ってるんですか?」



さっきの蘭さん達みたいに・・・と、オズオズと聞いてくるりゅうに沖矢はクスリと笑った。



「・・・さぁ?どうでしょうか」



「えぇー、知ってるか知らないかくらいいいじゃないですか」



「まぁ、その話はいいじゃないですか」



「むぅー・・・沖矢さん意地悪だ」



プクッと少しだけ頬を膨らましながら、ジト目で沖矢を見るりゅうに彼は苦笑いした。




「そうですね、ではこうしましょうか?」



ニコッと笑い人差し指を立てる沖矢にりゅうは小さく首を傾げた。




「?」



「確かに今のあなたは記憶が酷く曖昧だとそれはご自身でもお分かりでしょう?」



「・・・うん、なんか頭の中が霞がかってるような・・・変な感覚なんです」



「無理に思い出そうとすれば頭痛を伴いかねませんし、楽しく思い出す、というのはどうでしょうか?」



「楽しく・・・?」



「あなたが一つ、どんな些細な事でもいいです。一つ思い出すことが出来たら一つ、私の事をお教えしますよ」




「・・・なんかゲーム感覚ですね」



私結構今、不安なんですけど・・・と呟くりゅうに沖矢はクスッと笑った。



「ゲーム感覚で楽しめそうでしょう?それとも、こういうのはお嫌いですか?」



「・・・・結構好き」



「ならいいじゃないですか」



「うーん・・・なんか癪です」



「癪?」



「・・・私がこういう物が好きで、断らないのを承知で言ってきたんでしょう?」



なんか・・・沖矢さんばかり私の事知ってるみたいで癪です。と不機嫌そうな彼女に沖矢は喉を鳴らした。



「もうっ!また笑う!」



やっぱ意地悪です!とりゅうが言えば「失礼」と言ってもう一度頭を撫でる沖矢。



「だったら早く私の事を知るために何でもいいので思い出してくださいね」



「・・・はぁーい」



まだどこか不機嫌そうではあるが、それでも撫でられている事が気持ちいいのか、笑顔で返事が返ってきた。



「さ、本当に今日はもう寝て下さい」



「・・・沖矢さんは?」



「私もしっかり寝るので大丈夫ですよ」




その言葉を聞いてホッとしたような表情をしたりゅうはすぐに眠りについた。






「・・・ゆっくりおやすみ、りゅう」



寝たのを確認した後、額へと小さく口づけた。



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