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きっかけはあるワード(1/3)







白鳥の主治医、心療科の風戸先生が到着し、いくつかの質問をした。



「自分が誰だか分かりますか?」



「りゅうといいます」



先生の質問を不思議そうな表情をして答えるりゅう。


その様子を近くで聞いている沖矢と蘭達。コナンや警部たちは少し離れた位置でその様子を見ていて、安室は状況が呑み込めないものの、今すぐ彼女の前から立ち去らなければならない理由はなくなり一番離れた位置で壁に凭れていた。



そう、安室が立ち去ろうとしたのはりゅう自身に「関わるな」と言われたからなのだが、今の彼女から拒絶はなかった。




「今日、何があったか覚えていますか?」



「え?今日・・・?・・・・・・っ!!」



風戸先生の言葉に顎に指をあてて「んと・・・」と考え込んだりゅうだったが突如痛む頭に額へと手を当てて蹲る。



「無理に思い出さなくても大丈夫ですよ。頭が痛むのなら今聞いたことは考えなくて大丈夫です」



先生の言葉通り考えることをやめれば頭痛がなくなり、首を傾げるりゅう。


「違う質問をしてもいいですか?」



「はい」



「今、この病室で知っている人はいますか?」



「お兄ちゃん・・・・と目暮さん・・・?」



「では、アメリカの首都はどこでしょう?」



「ワシントン・・・でしたっけ?」



「合ってますよ。では5×8は?」



「40」



「このボールペンの芯を出してください」



風戸が差し出したボールペンを受け取り、不思議そうに首を傾げながらも芯を出し入れする。



「ありがとうございます」



「いえ・・・っ・・・」



ボールペンを返したりゅうだったが、いきなり眩暈の様なものに襲われた。



「今日はお疲れのようですからゆっくり休んで下さい」



「え?でも私別に・・・」



どこも悪くないのに入院するのか?と聞けば「なに、その眩暈とかさえなくなればすぐに退院できますよ」と風戸が答えた。



ベッドに横になったりゅうはすぐにスゥッと眠りについた。








園子と蘭、妃は心配そうではあったが、家へと帰って行った。



沖矢、コナン、小五郎は別の部屋で風戸からの診察結果を聞く事になった。



その際、沖矢は心配そうにりゅうを見たが、安室に「僕でよかったら見てますよ」と言われて「お願いします」と彼に任せたのだった。



「ただ・・・後で事情を聞いても?」



「あ、でしたら僕の方から言える所までですがお伝えします」



安室の言葉に高木が答えた。



「では、後で風戸先生からの診断結果もお伝えします」



沖矢は部屋を出ていき、安室はりゅうの寝ているベッドの横の椅子に腰かけた。
その横で高木が彼女を起こさない様に気を使いながら小さな声で事の真相を伝え始めた。








ーーーーーーー



「逆向健忘・・・・ですか?」



風戸の診察を聞くために、部屋には沖矢、コナン、小五郎、目暮と白鳥がいた。



「はい、突然の外傷や疾病によって損傷が起こる前の事が思い出せなくなる記憶障害の一つです。彼女の場合、目の前で佐藤刑事が撃たれた為の精神的ショックからだとは思いますが・・・」



「でも、りゅうさんは目暮警部のことは覚えてたよ?」



「極めて稀な症状ですが・・・確かお兄さんの事も覚えているようでしたよね?」



「だが・・・安室はりゅうちゃんのお兄さんに似ているだけで兄では・・・」



風戸の言葉に小五郎が答えれば「恐らく記憶障害が起こった出来事で錯覚しているんでしょう」と答えた。



「・・しかし、矛盾があります。りゅうが安室さんを兄だと思っているという事は、少なくてもお兄さんが生きている時の記憶があるという事ですよね?」




「そのお兄さんは亡くなっているんですか?」



沖矢の言葉に風戸は少し驚いたような表情をした。



「はい」



「・・・だとしたら、極稀なケースではありますが、記憶が退行した・・ということが考えられますね」



「記憶が・・・退行?」



「はい、辛かった事が全て一本に繋がってしまった場合、その一本全てを忘れ、その辛かった記憶以外の過去、幸せだった時の事だけを憶えているのかもしれません」



「幸せっだ時の記憶だけ・・・なるほど」



沖矢がなぜ、彼女の笑みにあんなにも違和感を覚えたのか。それはきっと無邪気な笑みを知らなかったから・・・


幸せな時・・・彼女の闇が深くない時の笑みがあの見たことのない笑みに繋がったのだろう。と納得するように頷いた。




「けれど・・私の事を憶えているというのはどうにも・・・私が彼女と会ったのは少なくても幸せな時とはギリギリで・・・」



目暮の言葉に風戸は難しい表情をした。



「・・・だとすれば彼女の記憶が戻るのは早いかもしれませんね」



「と言いますと?」



小五郎が怪訝そうに聞き返した。




「彼女の記憶が混濁しているとすれば、いずれその記憶の矛盾に彼女自身が気が付くでしょう。自分自身の記憶の曖昧さに・・・」



そこからある‘ワード’にたどり着けば恐らく・・・・と呟く風戸に沖矢が「ワード?」と聞き返した。




「なんでも以前から少し記憶が曖昧だったとかなんとか・・・」



「えぇ、昔の出来事で思い出せる部分と思い出せない部分があるらしく・・・」



風戸がりゅうの過去のカルテを見ながら言えば沖矢が頷いた。



「だとすれば、ある言葉、もしくは想いが彼女の記憶の障害を起こしているきっかけだと思います」



「そっ・・そのワードッていうのはっ・・・」




小五郎が聞けば風戸は「それは個人個人違いますのでなんとも・・・」と困ったような表情をした。




そして数日様子を見るために入院しましょう。と風戸からの話が終わった。



それから風戸がその部屋を去っていった。



沖矢はジッと何かを考え込むように黙り込んだ。




「昴さん・・・・」



「・・・コナン君も疑問に思いますか?」



「うん。りゅうさんが、知り合いの佐藤さんが目の前で撃たれたからといって記憶を失くすほど・・・」



「・・・えぇ。きっとそれ以外に何かあったのでしょうね。風戸先生の言葉の‘ワード’のようなものが・・・」



彼女の心を、傷を抉るような何かが・・・




そんな事を考えていれば、風戸と入れ違いに千葉刑事が部屋へと入ってきた。



「佐藤さんの手術、終わりました。弾は全て取り除いたそうなんですが、助かるかどうかは・・・」



そう言って顔を俯かせる千葉に、目暮が「微妙な所か・・・」と重く口を開いた。



「警部殿!!こんな事になってもまだ話してくれないんすか!!?」



小五郎が怒鳴り、目暮は難しい表情をした。



「白鳥!!お前は何か知ってんだろ!?教えろ!!」



「・・・犯人は我々の手で必ず逮捕します・・・」



小五郎の怒鳴り声に白鳥は顔を伏せながら言葉を発した。



「今、そのような言葉を聞きたいのではないんですがね」



「っ・・・・・」




今まで黙っていた沖矢がゆっくりと立ち上がりながら目暮達の方へと体を向けた。



その表情はいつものような笑みはなく、雰囲気も怒っているような、そしてピリピリと殺気染みたものさえ感じ、その場にいた者たちは静かに息を飲んだ。




「・・・ねぇ、千葉刑事、あの場に落ちてた懐中電灯の指紋は調べたの?」



コナンがオズオズと口を開けば千葉が「ああ、調べたよ」とすぐさま返した。



「でも・・・りゅうさんの指紋しか見つからなかったよ」



「えっ!?」



千葉の言葉に驚きの声を上げるコナンと小五郎。沖矢は顔を顰めていた。



「僕たちはてっきり懐中電灯を取ったのは佐藤さんだと思ってたけど、実はりゅうさんだったようです・・・」




「・・・なるほど、先ほど風戸先生が言っていた‘ワード’が何か、大体見当は付きました」




「ほっ・・・本当かね!?」



沖矢の言葉に目暮が聞き返した。



「・・・りゅうさんが懐中電灯を取ったのなら恐らく・・・」



「‘自分のせい’で佐藤刑事が撃たれたと自分を責めたんでしょう。あの事件と同じように、‘自分のせい’で亡くなったと未だ責め続けている彼女ですから、その罪悪感に苛まれてーーー」



「じゃあ…そのショックのためか。りゅうちゃんの記憶が抜け落ちちまったのは・・・」



小五郎も顔を伏せて呟けば目暮はグッと拳を握りしめた。




「・・・全て話そう」



目暮の言葉に顔を上げる沖矢やコナンたち。



「しかしっ・・警部っ・・・それは」



白鳥が驚きの表情を浮かべるが目暮は「なぁに、クビになったら毛利君のように探偵事務所でも開くさ」と言った。そして沖矢へと顔を向けた。



「・・・もう彼女に警察関係のことで傷ついてほしくないからな・・・。巻き込んでしまった以上、君も引くに引けないんだろう?」




「ありがとうございます」



目暮の言葉に沖矢はフッと笑いお礼を述べた。



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