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それぞれの護り方(1/3)






「りゅう、大丈夫ですか?」



「うん、大丈夫ー」



あれからすぐに目を覚ましたりゅうは何も覚えていなかった。



医師の診断でも特に異常はないとのこと。彼女がいない所で医師に、倒れる前の出来事を憶えていないのは?と聞けば一時的なものだろうという。




もしくは何か思い出したくないと、自分の中で思い出さないようにセーブしているのかもしれない。ただその記憶が酷く曖昧で他の事を憶えているということは、何かをきっかけに全て思い出す可能性があるとの事。



その思い出された時、彼女自身がどうなるかは・・・彼女の精神の強さ次第だ、と言われた。




沖矢は退院の準備をするりゅうと、休みだという事で手伝いに来ていたユウナをじっと見ながら深く考えていた。




精神の強さ次第・・・彼女自身、どこまで何を覚えていて、何を覚えていないのかが分からない。



昨日、雨宮に聞いた話と、その前にりゅう自身が話していたことからして、母親に虐待を受け、捨てられた事は覚えているらしが、そこまで覚えているなら、思い出された時のショックは少ないとは思うが・・・



「・・・・・(やはりただ、頭を強打したことが何度もあることを踏まえてただ、その前後のことが抜けているだけか・・・?)」



怪我のせいで忘れただけで、精神的ストレスからという事は・・・恐らくないだろう。



もしもそれで自己防衛が働き記憶障害を起こしているのなら、例の事件の事など忘れているはずだ。



彼女は弱そうに見えて強い。恐らく医者が言うような最悪な事態にはならないだろうとは思うが・・・



何かのきっかけで彼女自身が壊れてしまいそうなほど儚いのは確か・・・



「・・・暫くは目を離せませんね」




「何が?」




ボソッと呟いた沖矢の顔をヒョイっと覗き込むりゅう。



「りゅう・・・支度は終わったんですか?」



「え?うん・・。とっくに・・・」



そう言いながら後ろを振り向くりゅう。その視線の先にはベッドに纏めてある荷物と一緒に座っているユウナが首を傾げながら笑っていた。




「深くなーに考えてたの?沖矢さん」




「・・・もしかして私待ちでしたか?」




「なんか考えてたみたいだから邪魔しちゃ悪いかと思って・・・どうかした?」




「いえ、なんでもありません。すみません、お待たせしてしまって」



さて帰りますか。と言う沖矢にユウナも立ち上がり荷物を持った。



沖矢が残りの荷物を持てば、りゅうが慌てて持とうとするが、やんわりと断られた。




「あ、お昼ご飯食べるでしょう?」



マトリの仕事手伝ってもらったお礼と、二日間りゅうを連絡なしに借りちゃったお詫びに何か奢るよ。とユウナが言えばりゅうがビクッと肩を揺らした。




「りゅう?」




「・・・いや、ナンデモナイ」




「そういえば、少しゴタゴタしてしまってそのことに関して忘れてましたね」



冷や汗を掻くりゅうに、沖矢が「そういえば・・・」と言わんばかりに顎に手を置いた。



「ユウナっ!余計なこと言って思い出させないでよっ・・・・」



「えっ・・えぇ?」



「・・・・りゅう」



ユウナへと詰め寄っていた彼女の名を呼べば肩を揺らすりゅう。



そしてゆっくりと振り向く彼女の顔には「怒られる」という怯えの表情。




「・・・・・・」



「・・・・今回の事はしょうがなかったと言う事で」



「・・・はい、すみませ・・・え?」



怒られると思っていたりゅうは謝ろうとしたが、予想外の言葉に顔をあげて沖矢を見た。



すると彼は困ったような表情を浮かべていた。



「あなたは私をどんだけ心が狭いと思ってるんですか?」



「え?結構せま・・・嘘嘘っ」



無言で腕を掴んでくる沖矢に咄嗟に謝れば溜息を吐かれた。



「今回の事はユウナさんが携帯を壊してしまい、連絡がつかず、潜入捜査中のため連絡を取らせない事情も分かりました」



それに、私もあなたの言葉を信じてはいましたが、待ち切れず動いてしまいましたので、フィフティ・フィフティという事で。と苦笑いされた。




「昴・・・・」



「ただ、もう二度とごめんですよ?二日間も何をしてるか連絡も取れないのは・・・」



「ごめんなさーい」



沖矢の言葉にバッと後ろからりゅうに抱き着きながらユウナが言えばりゅうが「重いっ・・・」と呟いた。




「クスッ、今回はユウナさんに免じて、何も言いませんよ」



「ありがとー、沖矢さん!」



ニコッと笑うユウナに沖矢は「いえ」と笑い返した。



「ただ携帯代だけは弁償してくださいね」



ニッコリと笑い言う沖矢だったが、その笑顔が妙に怖かった。



「・・・ですよねー」



ガクッと項垂れるユウナ。ブツブツと「経費で落ちないかなー」なんて言いながら車に乗り込んだ。



「ねぇ、あんたの彼氏ってもんよね」



沖矢がりゅうの荷物をトランクに入れた後、運転席に乗り込むまでの間にユウナがコソッと耳打ちした。



「どういう意味で?;」



「見た目は大人で穏やかで優しそうなのに・・・こう怒らせたら怖そうっていうか、容赦なさそうっていうか・・・」



ユウナの言葉に心の中で「正解」と呟いた。




「でも、まぁあんたにはちょうどいいかもね」




「何が?」




「優しいだけじゃなくて多少腹黒そうな方が・・・・」




「誰のことですか?」



ユウナがニコッと笑いりゅうへといった言葉は途中で遮られた。



ビクゥッ!!と肩を揺らすユウナに、我関せずと言わんばかりに外を見るりゅう。



「私何も言ってないから」



「ちょっ・・・!?いや、違う!沖矢さんの事じゃなくてっ・・・」




「ホォー?食事しながらゆっくりとそのお話し聞かせて頂けますか?」



運転席から後ろを振り返りながらニコッと笑う沖矢にユウナが「あ・・・今日やっぱ用事が・・・お食事はまた今度、大輔が居る時にでも奢るんで職場に送ってください・・・」とビクビクしながら言うユウナに「それは残念ですね」と言いながら前へと向き直った。



「・・・・っ(りゅうっ!沖矢さん怖い!)」




「・・・・ばーか」





そんなユウナに、呆れたように言い捨てた後、フッと笑みが零れた。



沖矢も沖矢で楽し気に喉を鳴らしていたが、バックミラーでりゅうの優しげな笑みを見てフッと微笑んだ。



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