ゼロの名(1/2)
「やはり私も・・・・」
「一人で行けます!ってかちゃんと行くから・・・;」
玄関から出て行こうとするりゅうを見て心配そうに言葉を発する沖矢に呆れながら溜息を吐く。
「しかし・・・」
「あのねぇ・・・病院行くのに付き添いが必要なほど子供じゃないの」
「・・・・・・・」
難しい顔のまま黙り込む沖矢にもう一度溜息を吐くりゅう。
「・・・・・・;病院自体行かなくてもいいけど、行けって言ったのは昴でしょ?」
あまりにもしつこいから漸く行く気になったのに・・・行かないわよ?と言えば彼は渋々頷いた。
「じゃあちょっと行ってくるね」
「えぇ、気を付けて」
何かあったらすぐに連絡してくださいね?と言う沖矢に「分かった分かった」と生返事をして玄関を出た。
最近ベルツリータワーで起こった事件で思いきりガラスに頭を打ち付けて怪我をしたのだが、暫くは家での手当てで済ましていた。だけど数日してもズキズキと痛む傷に沖矢に「いい加減病院で診てもらってください」と言われたのだ。
漸く「分かった」と返事を返し行こうとすれば今度はついていくと言う。
恐らく私が本当に病院に行くかどうか信用していないのだろう。
それでも病院に行くのに子供でもないのに軽症で二人で行くのはちょっと・・・そう思いなんとか断り続けたのだ。
病院に着き、診察してもらえばガラスの破片が少し刺さっていたのが原因だろうとの事で取り除いてもらった。
「これでもう痛みは引くと思います。しかし・・・頭の怪我をした時はすぐに病院に来て頂くことをお勧めしますよ」
今回は大事にはならなかったようですが・・・と言われて「すみません」と一言謝り、診察を終えた。
頭に大袈裟じゃないか?と言うほどの包帯を巻かれて会計を済ましていれば後ろを物凄い勢いで通り過ぎた人物に目をパチパチした。
「・・・毛利さん?」
首を傾げて声を掛けようとするが聞こえていないようで・・・
とりあえず追いかけるか。そう思い彼の後を追った。
「・・・・ってか早くない?」
ある階に着いてすぐに見失ってしまった毛利さんの姿。
確か英理と叫んでいた気がする。だとすると蘭ちゃんのお母さんに何かあった事が分かるので名前で探すことにした。
「妃・・・妃・・・・」
一つ一つの病室のネームプレートを見ていれば「りゅうさん?」と声を掛けられて振り向いた。
「あっ・・・」
思わず後退ってしまったのだが呼んだ本人は困ったような表情をして近づいてきた。
「怪我・・・したんですか?」
近づいてきたのは安室透。この間の出来事以降会っておらず、少し気まずい・・・
そしてなによりこの図はまずいとすぐに警報が鳴る。
「(昴に怒られるっ・・・)」
内心苦笑い&焦りが半端ないのだが、彼はそんな私の心情など知ってか知らずか眉を寄せてどこか悲しそうな表情で私を見た。
その表情がやはり、にぃーにと重なってしまい、ズキッと胸が痛んだ。
スッと頭に置かれた手にビクッと身体を震わせ目をギュッと閉じれば、彼は慌ててその手を引っ込めた。
「あっ、すみません。ついっ・・・」
「いえ・・・・」
申し訳なさそうな安室に顔を俯かせるりゅう。
「・・・・どうしたんですか?」
「あー・・・数日前に騒ぎになった事件があったの知ってます?」
「あぁ、確かベルツリータワーでの狙撃の・・・まさか!?巻き込まれたんですか!?」
「え?あ・・いや、巻き込まれたっていうか自分から首を突っ込んだと言うか・・・」
どこか焦ったような表情をする安室にりゅうは咄嗟に答えてしまった。
「あなたは・・・よく事件に巻き込まれたり自ら突っ込んだり・・・お好きなんですか?」
「・・・・お好きなわけがないでしょう・・・;」
呆れて物を言う安室にりゅうも呆れて言葉を返した。
私だって出来れば関わりたくないのだ。事件然り、あなた然り・・・そんな事を思っていればある部屋から毛利さんとボウヤが追い出される様にして出てきた。
「あれ?毛利先生じゃないですか?」
「ん?」
安室がすぐさま声を掛ければ小五郎は振り向いた。
コナンは驚いた様な表情を浮かべていた。
「こんな所で何してるんですか?」
話し始めた安室に小五郎が答えていればコナンが固まっているのに気がついた。
「ボウヤ?」
「っ!?りゅうさん!?どうしてっ・・・」
りゅうと安室を交互に見るコナンに「たまたま会っただけだから」と言えば「そ・・そうなんだ」とコナンは言った。
「怪我したの?」
コナンの言葉に「あぁ、これ?」と言えば頷くボウヤに説明した。
あのベルツリータワーの事件で頭を打ってた事、数日してもまだ痛むので昴に煩い程に言われて渋々病院にきて、結果は小さな破片が刺さっていたという事。今はもう大丈夫な事を言えばボウヤはホッとした表情をした。
「バーボンとは・・・」
コソッと言葉を話すボウヤに「さっき会ったばかり」と呟けば警戒しているような様子のボウヤ。
「お前は何でここに?」
一番聞きたい事を小五郎が聞いてくれて、ボウヤ共々耳を澄ませた。
「知り合いが入院してるって聞いて来たんですが・・・いつの間にか居なくなったみたいで・・・」
コナンとりゅうが視線を合わせてお互いに「楠田陸道の事か・・・?」と更に警戒する。
安室がコナンとりゅうの方に目を向けた。
コナンと視線を合わせるために屈んでいるりゅうとコナンに視線を合わせる様に腰を曲げる安室。
「コナン君は前にもここに来たことがあるって看護師さんが言ってたけど・・・知ってるかな?」
「え?」
「楠田陸道って男・・・・」
フッと笑みを浮かべる安室にキョトンとするコナン。
「だぁれ?それ・・・知らないよ」
ばか・・・・;ボウヤの言葉に咄嗟に蹴りたくなったがグッと堪えた。
「実は前にお金を貸してて返して欲しいんだけど本当に知らないかい?」
「うん」
即答するコナンに笑みを深める安室。
「・・・・・・・」
その様子を隣で見ていたりゅうはスッと立ち上がり壁に背を預けた。
「凄いね、君は・・・・」
「え?」
安室の言葉に首を傾げるコナン。安室はそのままスッと姿勢を戻しりゅうへと目を向けた。
「りゅうさんは知ってますか?楠田陸道っていう入院患者を・・・」
「・・・・知らないし興味がない」
「あははっ、あなたならそう答えると思ってました」
例え知ってても・・・ね。と答える安室にりゅうは回りくどい。と言い放った。
「はい?」
「普通ならどんな人か聞き返すのに・・・と言いたいんでしょうけど・・・ボウヤの記憶力がいいのは安室さんも知ってるでしょう?」
「・・・そうですね」
りゅうの言葉に安室はニコッと笑い同意した。
「ガキのいう事真に受けるなよ。子供なんざ名前を知らないなんてザラにある、あだ名とかで呼ぶ場合も・・・」
小五郎が安室に呆れたように言えばエレベータの方で数を数えている子供の声・・・
「サン・・・ニー・・・イチ・・・・ゼロ!!!」
「っ!!!」
子供の声に何故か驚き、後ろを振り返る安室の姿にコナンとりゅうは眉を顰めた。
「ん?どうかしたのか?」
・・・・小五郎さんは本当に私たちには聞けない事をサラリと聞いてくれる。ありがたいことだ・・・
「え?あー、いえ。僕のあだ名も‘ゼロ’だったので呼ばれたのかと・・・・」
小五郎の言葉に慌てて振り返り笑顔で返す安室。
「あ・・?なんでゼロ?確か名前は透だったよな?」
「透けてるって事は何もないって事。だからゼロ・・・子供がつけるあだ名の法則なんて・・・そんなもんですよ」
「ゼロ・・・?何もない・・・?」
安室の言葉に頭に霧の様な靄が掛かった。
微かに痛む頭に手を置くりゅう。
「りゅうさん?」
顔を俯かせているりゅうを心配そうに見つめる安室。
そんな彼を凝視するように顔を上げて安室の頬を両手で包んだ。
「え・・・?」
頬に置かれた手を見る安室。
「・・・ゼロ・・・?要らない・・数字?」
りゅうの言葉にビクッと肩を震わせる安室。
「っ・・・・」
バッと身体を後ろに引き、りゅうとの距離を空ける安室。
「りゅうさん・・・?安室さん・・・?」
コナンが不思議そうな表情をして二人を見た。
「・・・・・っ」
頭を抱えて座り込むりゅうに、安室はハッとし、近づいた。
小五郎も心配そうにしゃがみ声を掛ければ「大丈夫」と返すりゅう。
「りゅうさん・・・顔色悪いよ?昴さん呼んだ方が・・・」
コナンの言葉に恐らくこの場に居る安室の事も気にしているのだろうとすぐに分かった。
「ん・・・そうしようかな。安室さん、いきなりすみませんでした」
立ち上がり小さく頭を下げるりゅうに安室は「いえ・・」と返し手を貸した。
丁度良く携帯が鳴り、番号を見て見れば昴で・・・キョロッと辺りを見渡せば「この辺りでの携帯の使用は大丈夫みたいですよ」と安室に言われて電話を取った。
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