嫉妬したのは自分自身(1/2)
「りゅう・・・・」
沖矢が声を掛けてもボーっとしたまま外を眺めているりゅう。
そんな彼女の姿を見たまま困ったような表情を浮かべる沖矢。
数日前にポアロでボウヤ達とご飯を食べてからと言うもの、このような調子が続いていた。
ただ前回の様に自身の感情のコントロールが・・と悩んでいるような感じではなかった。
なんだかどこか寂し気に、心ここに非ず。と言わんばかりに無なのだ。
ボウヤの話によればバーボン・・・安室透に会ってから様子がおかしくなったと言う。
知り合いか?それとも・・・
そこまで考えたあと、もう一度名を呼ぶが彼女の耳には届いていない。
「・・・・・・・」
フムっと考え時計を見る。
もう夜中だ。
流石に今訪ねてくる輩など居ないだろうと結論付け、ピリッと変装を取り、首元を開けて変声機を取った。
「りゅう・・・・」
「へ?」
いきなり聞こえてきた声にりゅうは慌てて振り返ってそちらを見れば驚きに目を見開いた。
「は・・・?あかっ・・えっ?」
何してんの!?と言わんばかりにアタフタするりゅうに赤井はゆっくりと近づく。
「あんたねぇ・・;自分の今の立場分かってる?」
何度も言うけど・・・と呆れたように言葉を続けるりゅうに構わずにギュッと抱きしめた。
「わっ・・・・え?赤井?」
「・・・やっと見たな」
赤井の何処か寂しげな声。
「え?」
それに驚くもりゅうには何のことだかちっとも分らなかった。
「ずっとお前を呼んでいたんだがな・・・」
フッと寂し気に笑う赤井。
「えっ!?あ・・ごめん・・・」
気づかなかったと困ったような表情を浮かべるりゅうに、赤井はスゥッと両手で彼女の頬を包んで口づけを落とした。
「っ・・・・」
いきなりの事に、毎度のことながら目を見開いたままのりゅうはすぐに顔を真っ赤に染めた。
口づけを離し、その表情を赤井が見れば満足そうにフッと笑った。
「まぁいいさ。ただ・・・沖矢だとお前は本当に冷たいな」
「あー・・・ごめん・・・?」
「この姿だとすぐに反応するのにな・・・」
ククッと喉を鳴らす赤井に、りゅうは頬を紅く染めてうっさい、と小さく呟いた。
「・・・ねぇ、赤井・・・」
「どうした?」
「・・・・変なこと聞いていい?」
「?」
「もし・・・もしもだよ?今目の前に・・・宮野明美とそっくりな人が現れたら・・・どうする?」
突拍子もない言葉に赤井は少々驚いた様に目を見開いた。
「・・・ごめん、こんな話、するべきじゃ無かったよね・・・」
スッと背を向けて部屋を出て行こうとするりゅうを赤井は背中からギュッと抱きしめた。
「赤井?」
「・・・・そっくりな・・だろ?だったらどうもしないさ。ただ驚くだろうがな」
「・・・そう」
「・・・バーボン・・・」
赤井が呟いた言葉にりゅうはビクッと身体を揺らした。
「・・・やはりな。誰かに似ていたか?」
赤井の言葉に寂し気に顔を俯かせるりゅう。
「・・・・にぃーに・・・」
「ん?」
「白夜っ・・・兄さんに似ててっ・・・似てるなんてもんじゃないっ・・・」
声もっ・・・姿もっ・・・あの笑みもっ・・・何もかもが瓜二つでっ・・・・
顔を両手で覆い、泣き崩れるりゅうに、赤井はやはりな・・・と思い、座り込んだりゅうを抱きしめた。
「・・・そうか・・・」
「ごめんっ・・・・」
謝るりゅうに、赤井は困ったように笑った。
「なぜ謝る?」
「私っ・・・今何も考えられなくてっ・・・にぃー・・・白夜兄さんの事ばかりが頭に浮かんでっ・・・・」
この数日、自分が何をしていたのかも思い出せない。
沖矢の言葉も、殆ど覚えて無いし、多分ずっと無反応だったのだろう・・・
じゃなければ彼が・・・赤井があんなに寂しそうな表情はしないはずだ
独りがどれだけ寂しいか分かっていたのに・・・
私はこの人に独りを感じさせていたのだろう。
本当に一人で感じる孤独なんかより、一緒に居るのに感じる孤独はきっと・・・この人にあんな表情をさせるほど辛い事なんだろう。
赤井の声が・・・姿が・・・私を現実へと呼び寄せてくれた。
でも、沖矢は赤井で・・・そんなことわかって居るのにっ・・・・
「ごめんっ・・・独りにしてごめんっ・・・」
りゅうの言葉に全てを悟った赤井はフッと笑った。
「阿呆・・・そんな事、謝る必要はないさ」
俺だと分かればすぐにお前は反応してくれただろう?と彼は優しい声色で囁き、りゅうの背を優しく撫でた。
小さく縮こまるりゅうをギュッと強く抱きしめた。
「赤井っ・・・・・」
りゅうもギュッと抱きしめ返せば赤井はフッと笑った。
「大丈夫・・・大丈夫だ、りゅう・・・」
俺がいる。ずっとお前の傍で支えるから・・・
「ふっ・・うぅっ・・・・」
ごめんねっ・・ごめんっ・・・・
「もう・・謝るな」
大丈夫だから・・・と赤井はりゅうの額へと口づけて背中を優しく摩る。
暫くすると聞こえてくる小さな寝息に赤井は優しく笑って頬を伝っている涙を拭い、りゅうを抱き上げた。
ベットへと寝かせて、その横に椅子を持ってきて座り優しく頭を撫でる赤井。
手を握れば寝ているりゅうもギュッと握り返してきて・・・・
チュッとその手へと口づける赤井。
「・・あ・・かい・・・・」
小さな寝息と呟かれた言葉。
「・・にぃー・・にっ・・・」
「・・・・・・」
寝言と同時に涙が伝うりゅうの横顔を赤井は複雑そうに見つめた。
「・・・・安室・・透か・・・」
早急に調べる必要があるな・・・と赤井は考えた。
奴が黒にしろ、白にしろ、りゅうの兄に似ている以上、りゅうは安室に対し、敵対しようとはしないだろう。
奴が白であればそこまで心配する必要はない、だが、奴が黒だった場合、それはこいつの命取りになる。
安室が・・バーボンがその事に気がついたとき、こいつを利用するかどうかまでは・・・まだ分からない。
この先、このことがどう転ぶのかはまだ読めないが・・・何があろうとりゅう・・お前だけは・・・俺が必ず・・・
「護り通す・・・・」
ギュッとりゅうの手を握り、コツンとその手を自身の額へと当てた。
「・・・・赤井・・・・」
名を呼ばれてそちらを見れば先ほどよりも幾分か穏やかな表情のまま眠りについているりゅうの姿・・・
「・・・おやすみ、りゅう・・・」
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