×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

二人の約束(1/2)



「秀一、お風呂空いたけど…」

 
タオルで濡れた髪を拭きながら、ソファに座ってテレビを観ている赤井に近寄るりゅう。

 
「っ…あ、あぁ、分かった」
 

声を掛けられるまで、後ろにりゅうが居ることに気が付かなかったのか、どこか焦っているようにみえた。
 

「…どうかした?」

 
「いや、ただお前の気配に気が付かなくて驚いただけだ」 

 
「ふーん…」

 
腑に落ちないような気がしたが、赤井はそのままさりげなくテレビを切って立ち上がり、すれ違いざまに、りゅうの頭を撫でていく。
 

「すぐ戻る」

 
「いや、別にお風呂位ゆっくり入ったら?」
 

すぐ戻る必要ないでしょ?と小さく溜息を吐きながらりゅうが言えば赤井はピタリと止まった。その様子に小さく首を傾げるりゅうに気が付いた赤井が「そうだな」とフッと笑いながら去って行った。
 

「…?」

 
どこか様子がおかしい赤井に再度首を傾げながらその背を見送った。

 
「お風呂位ですぐ戻るなんて、いつも言わないのに…」
 

そう口にしながらさりげなく、切っていったテレビのリモコンに手を伸ばした。テレビ自体にあまり興味もないが、いつもならテレビを付けたまま風呂に行く彼が切って行った事に少しひかかった。ピッ、と電源を付ければそこには楽しげな家族の休日が流れていた。
 

「洋画?」

 
金髪の可愛い小さな女の子と、少し大きな男の子が二人で家の庭で遊んでいて、父親が時々兄妹にイタズラをする。そんなイタズラに少し怒りながら兄妹が父親に仕返しをして三人で笑い合っていて、その様子を母親が微笑みながらみている。そんな光景に心が温かくなって小さく笑みが浮かんだ。コトン、とリモコンを起きながらソファに腰掛けた。
 

「…気を遣った、のかな?」

 
自分と同じ家族構成、たまに父親が家に居たときはこんな休日を送っていた時もあった私に、彼は寂しくならないように、見せないようにしたのだろうか?

 
「全く、バカなんだから…」

 
いつもはポーカーフェイスで、態度も、自分の考えてる思考も読ませないくせに、こんな時だけ隠し事が下手だなんて…、なんてー
 

「不器用な人…」

 
そして、なんて優しい人…

 
「だから、すぐ戻る、なのね」
 
 
もしも私がこれを観てしまっても、一人じゃないと、寂しくないと傍に居てくれようとした結果、出た言葉なんだろうなぁ…と思いながらクスッと笑みが零れた。
ジッとその映像を見ていれば、多少懐かしい気持ちや、昔の自分たちの姿を重ねて見てしまう事はあるが、赤井の不器用な優しさのおかげで、寂しさはこれっぽちもなかった。


(お酒でも飲もうかな?でも持ちに行くのも面倒だなぁ…)


そんな事を考えていれば、テーブルにあったウィスキーが目に留まった。


「…」


一瞬考えるが、たまにはウィスキーもいいか、と思いそちらに手を伸ばした。彼が使っていたコップにはまだ丸い氷が残っていたのでそのままそのグラスへと注いだ。一口飲めば、普段飲みなれない香りと味が口の中に広がる。


「…、久々に飲むとキツイなぁ」


そう言いながらもう一口、口に含めば叫び声が聞こえ、テレビへと目を戻した。するとそこには穏やかな幸せそうな家族の姿から一変、少女の前で家族が殺されるという残虐なシーンだった。


ーーーガシャンッ、と手に持っていたコップが床へと落ちた。


「あっ…」


カタカタと身体が震えだした。


「桜…?おば…っ、ちがっ、違う…」


ーーーあぁぁぁぁぁっ!!!


聞こえてくる叫び声は、テレビの音なのか、あの時の自分の声なのか…


「ごめなさっ…ごめんなさい」


その音を、その声を聞きたくなくて耳を両手で塞ぐ。徐々に足にも力が無くなり床へとしゃがみ込みながら謝罪を繰り返すりゅう。



******


「…ふぅ、不自然、だったな」


赤井は風呂に浸かりながら先ほどの自分の行動を思い起こしながら、失敗したかと思い一つ大きな溜息を零した。先ほどの洋画は確か、幸せだった日常が一夜で地獄に変わり、目の前で家族を惨殺されて復讐を誓った少女の物語。内容を思い出した後すぐにチャンネルを変えようとすれば、まさか後ろに彼女が立っていたとは…


「焦ったとはいえ、電源を切ってしまえばりゅうもおかしいと気づくな」


風呂位ゆっくりでいい、との彼女の言葉だったが、どうしても気になってしまい早く上がる事にした。服を着た後、タオルで髪を拭いていれば、ガシャンと何かが割れる音がした。


「りゅうっ…」


赤井はすぐに彼女の元へと向かえば、耳を塞いだまま謝罪を繰り返し身体を震わすりゅうの姿を見つけた。すぐさま近寄り、悲鳴が聞こえるテレビを切り震えるその身体を抱きしめた。


「はっ、はっ…ごめ、なさ…」


「りゅう、大丈夫。大丈夫だ」


テレビが消えてもりゅうはそれに気が付いていないのか、はたまた聞こえるはずのない叫び声が聞こえるのか、耳を抑えたまま目をギュッと瞑っていた。過呼吸を起こしてしまいそうな程浅く呼吸を繰り返すりゅう。


「りゅう、大丈夫だ。俺が分かるか?」


ギュッと耳を抑えているりゅうの両手の上から赤井がソッと手を添えれば漸くゆっくりと目が開かれた。


「っ!!!」


りゅうが目を開けた事で、赤井はホッとしたのだがすぐにその異変に気が付いた。


「りゅう?」


その目には怯えの色があった。


ーーーりゅうちゃぁん〜?ーーー


「いやぁぁぁぁあああっ!!!」


包むように重ねられている手を必死に振りほどこうと、赤井の腕の中で暴れるりゅうの爪が、ガリッと何かを引っ掻いた。


「っ・・・」


小さな痛みが走り、片目を瞑る赤井の頬には一筋の血が流れた。その事でりゅうは彼の腕の中から逃れ、トサッとその場に座り込んだ。


「はっ、はっ、はっ・・・」


徐々に浅くなっていく呼吸に、赤井は顔を顰めた。


「(このままでは本当に過呼吸になる)りゅう・・・、大丈夫だ。俺だ」


「はっ、はっ・・・やっ、いやっ・・・」


出来るだけ優しい声色で、敵意がないというように両手を見える位置に差し出しながら、ゆっくりと歩みよる赤井。だが、彼女の目には、耳にはもう当時の出来事しか映っていないようで、座り込んだまま首を横に振り後退るりゅう。


ーーーりゅうちゃぁーん?な、なんで逃げ、逃げるのぉ〜?ーーー


親友と祖母の返り血を浴びて真っ赤に染まった奴が、自分を真っすぐ見下ろし、気持ちの悪い笑みを浮かべて、名を呼んでくる。


「りゅう」


ーーーりゅうちゃぁーん?ーーー


「違っ・・・違う!!」


アイツの声じゃない、今私の名を、呼んでいるのはアイツじゃない!私は知ってる、この声を、優しくて温かくて、安心するこの声をーーー


「違う!!違う!!」


分かっているのに、頭では分かっているのに、感情が付いて行かない。身体の震えも、逃げようとする行動も、こんなことしたくないって思ってるのに、自由が利かない。


「りゅうっ・・・」


自分を呼ぶ声は、先ほどと違って苦しそうな声。この声を私は知ってるのにーーー


「はっ、はっ」


私は何で、この人にこんなものを向けてるのーーー?


ポタっ…ポタっ…と、りゅうの手からは、血が流れていた。その理由は先ほど割れてしまったコップの欠片を握りしめていたから…


「りゅう、落ち着くんだ」


「はっ、はっ…ぃで、来ないで!!」


その手に持っている物を離させたくて、赤井はゆっくりとりゅうへと近づこうとしたが、更に欠片を握りしめて近づかせないように振り回す彼女に、その足を止めた。


「分かった、だったら俺はこれ以上近づかない。約束する」


だから、その手に持っている物を離してくれ、お前が傷つくのを見たくないんだ。と眉を下げ、悲し気な声の赤井へとゆっくりと目を向けた。


「違っ…わた、私っ、分かって…」


「あぁ、言わなくても分かってるさ。お前は俺をちゃんと分かってる」


フッと笑う赤井の顔を見て、りゅうの目にはジワリと涙が浮かんだ。


「はっ、はっ…」


「大丈夫、大丈夫だ。りゅう」


「声がっ、声が聞こえるの!あいつの声がっ…怖い、怖いのっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」


ガタガタと震えながら欠片を握りしめて、赤井へと向けている腕を降ろさずに涙ながらに伝えれば、赤井はどこか苦しそうに目を閉じた。


「っ・・・(俺は、お前に何をしてやれる?)」


「分かってるのに、あなたを分かってるのにっ…秀一っ」


秀一、とりゅうが名を呼んでくれた事で、赤井は苦しげな表情を消し、強い眼差しでりゅうを見た。


「りゅう、お前が俺を呼んでくれるのなら、お前が俺を必要としてくれるのなら、俺はお前の為に強くなれる」


「はっ、はっ…しゅぅ…」


「りゅう、約束したな。俺からはもう近づかない。だからお前から来い」


両手を広げて赤井が優しく微笑めば、りゅうはカラン、と欠片をその手から落とした。


「強くなるっ?…私があなたを…?」


「あぁ、お前が俺を強くしてくれる」


「秀一っ」


震えも、逃げようとする身体も全然いう事は聞いてくれないけれど、りゅうはゆっくりと赤井へと近づいていく。


逃げちゃダメ、ここで逃げたら私は自分で言った言葉を曲げる事になる。そもそも、なんでこの人だって分かっているのに、逃げる必要がある?


徐々に冷静になっていく頭と、落ち着いてくる呼吸。りゅうは両手を広げている赤井へと倒れ込むようにして抱き着いた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(秀一っ)
(りゅう…)
(…独りじゃない、私も強くなる。そう、約束したよね)
(そうだったな)
(…ごめんね)
(なぜ謝る?)
(私、全然強くなってない。あなた一人、強くさせてる)
(フッ、そんな事はないさ)
(…秀一って、私に甘いよね?)
(?そうか?)
((無自覚…))
(まぁ、お前を甘やかしたいとは思ってはいるがな)
(っ…、あっそ)




ミリ様!大変遅くなってしまい申し訳ありません><
まだ当サイトへ遊びに来てくれているかは分かりませんが、リクエストを下さってありがとうございました!かなりお待たせしてしまい、この出来って・・・orz
甘やかすという部分がこう…全面的に出てない感じですが;気にいって頂けたら幸いです!もしも違うお話がいいな、という事でしたらミリ様のみ!書き直し&手直しを承りますのでお気軽に一報くださいませ!
夢主の方が過呼吸っぽくって、連載でのまんまですね;今度書けたら赤井さんが弱ってるお話を書きたいな、と思いました!(短編でいつかUPしますね!)
大変お待たせしてしまいましたが、楽しく書かせて頂きました!本当にありがとうございました!



           おまけ→

next


back