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偽りのあなた(1/2)



「透!」


名前を呼べば振り返って、優しい表情をするあなたが好きーーー


「りゅう」


私の名を呼んでくれるあなたの声が好きーーー


「おっと・・・・」


「えへへっ」


我慢しきれずに走ってきた勢いのまま抱き着けば、驚いて少しよろめきながらも、しっかりと抱きとめてくれた。


「あなたは相変わらず・・・・」


目を細めて、優しく笑って頬を、頭を撫でるあなたのその手がなにより大好きーーー


あなたの全てが大好きで、大好きで、愛おしくて何より誰より大切な人ーーー


大切だった人ーーー


安室透ーーーー




「っ・・・・・・」


ハッと気が付いた時、自分の頬へと流れるものに気が付いた。流れた涙をそのままに、ボーっとしていれば、不意にその涙を誰かの指で拭われた。


「・・・また、泣いているんですか?」


「・・・・とおる・・・?」


「いえ、残念ながら」


寝ぼけた頭で聞いたその声は、ただ敬語だと言うだけで透を十分に思い出させる。


「っ・・・・・」


徐々にハッキリしてきた意識で、最初に目に飛び込んだのは困ったように笑う沖矢昴の姿で、慌てて起き上がった。


「大分疲れているようです。まだ寝ていては・・・」


いかがですか?と言おうとした沖矢の言葉を遮ってりゅうは「ごめんっ」とすぐに謝った。


「りゅうさ・・・」


「ごめんっ、私何言って・・・本当にごめん」


寝ていたソファの上で正座してペコッと勢いよく謝った。


「別に謝らなくともいいですよ」


私に遠慮することはないです。と笑顔の彼に漸く下げていた頭を上げたりゅう。そして気まずそうに、オズオズと顔をあげて沖矢を見た。


「そのお言葉に甘えて一つ・・・いいですか?」


「なんでしょう?」


「私と二人だけの時とか、別に必要がない時にその敬語止めてくれません?気持ち悪いんで」


フイッとソッポを向きながら、心底嫌そうな表情をするりゅうに、沖矢は「ふぅ」と溜息を一つ吐いて変声器の電源を落とした。


「気持ち悪いとは随分だな」


「変声器まで切れとは言ってない」


「注文が多い奴だな」


やれやれ、とまた溜息を吐きながら反対のソファへと腰かける沖矢。・・・基、赤井秀一。彼とは同期で最近、江戸川コナンという少年と手を組み、死んだと見せかけて沖矢昴として別人になって生活している。


赤井が死んだと聞かされて涙するジョディやキャメル達とは違い、私は真っ先に「はははっ」と呆れ笑いが出た。


「絶対嘘だな」と思い、調べれば案の定別人に成りすましている事を突き止めたのはつい最近で・・・。それ以来、ボスのジェイムズと赤井の情報交換時に接触が必要な時に綱渡しをする羽目になった為、知らないフリをすれば良かったと後悔したのも記憶に新しい。


今日もジェイムズに言われて赤井へと必要な資料を渡しに来たのだが、全て目を通すまで待っていろ、と言われて残業が決定し、ただジッと待っていたのだが、いつの間にか寝てしまったようでーーー


その間にみた夢で気分が急降下した。その夢は昔の恋人の夢。いや違うか・・・恋人だと思っていた人の夢ーーー


「・・・・・・」


「敬語が嫌だというのはただ、俺が話すと聞きなれないから・・・というだけの理由ではないだろう?」


「・・・・何が言いたい?」


「とおる、と寝言で言っていたな」


「・・・・・・・・」


「安室くんの事を思い出すから敬語で話すな、というんだろう?」


あまり思い出したくない名を言われて、小さく赤井を睨みつけた。


「おっと、失言だったか?」


「失言だと思うのならその笑み止めろ」


「元がこういう顔なんだ。気にするな」


「本気でその顔殴りたくなる」


「有希子さんに言うんだな」


あー、もう!と頭を抱えて蹲れば赤井がゆっくりと口を開いた。


「安室君と別れた理由は確か組織の人間だから、だったな」


「・・・・・・・」


「そう睨むな。別にお前の傷口に塩をぬるつもりで言ったんじゃない」


「だったら何が言いたいのよ?」


赤井のいう通り、安室透・・・彼と付き合っていて別れたのは、赤井が潜入していた組織の人間だという事に気が付いたから・・・。


彼に自分がFBIだと知らせる前に、静かに別れを告げたのだ。彼に別れを告げた時、彼は「どうして・・・?」と傷ついた表情をした。その顔は一番望んでいなかった顔。見たくなかった顔・・・・でも、その時は裏切られた気持ちが上回っていてーーー


どうしてあなたがそんな顔をするの?


裏切られたのは私ーーー


安室透なんて、存在しないーーー


彼はずっと私を騙していたのだーーー


好きだなんて嘘。愛してるなんて嘘。あなたの存在自体が嘘。全てが偽りのあなただから、恋人だと思っていた時、大好きだった私に見せていたあの人の表情も、態度も全部全部嘘だったんだ―――


「りゅう、聞け」


「うるさい!うるさいっ!もう彼の話はしないでよ!!!」


静かに何かを話そうとする赤井に、もう何も聞きたくないと両手で耳を塞ぎ目をギュッと閉じた。


「りゅう!」


いつの間にか目の前に居て塞いでいた両手をガシッと赤井に掴まれた。まるで無理やり聞けと言わんばかりに・・・・


「離して!」


「りゅう!聞くんだ!」


「嫌よ!聞きたくない!」


もう何も聞きたくないの!!と赤井の腕を振り払って、カバンを手に持ち帰ろうと部屋を出て行こうとした。


部屋の扉を開けようとすれば、それより先に赤井の腕が開けさせまいとしっかりと抑えた。男と女では力が全然違う。彼が開けさせまいとすれば、りゅうにはその扉を開けるのは不可能でーーー


そこから抜け出すにも、扉と逆を向けばすぐ近くに赤井が居て、腕で行く手を阻まれれば逃げ場なんてどこにもなく、ただ最後の抵抗と言わんばかりに絶対に赤井の方を向くもんかと、扉を前に俯いた。


「りゅう」


「嘘だったのよ・・・」


「・・・ん?」


「透のいう事は全て嘘だった。言う事だけじゃない!態度も、あの表情もっ・・・私の名前を呼ぶ声も、安室透という存在自体もっ!!」


「りゅう、それは・・・」


「つもりだったのよ・・・」


「つもり?」


「恋人だった、つもり・・・付き合ってたつもり。全部、仮初だったっ・・・・」


ドンッ!!と扉を叩きつけて、ズルズルとその場にしゃがみ込むりゅう。そんな彼女に合わせて赤井もしゃがみ、ソッと優しく抱きしめた。


「りゅう・・・・」


「離しっ・・・」


いきなりの事に驚き、りゅうは赤井の腕の中で暴れようとした。だけど、次に発した赤井の言葉に、ピタリと抵抗を止めた。


「そんなに辛いのなら、俺にしないか?」


「・・・・え?」


「俺を選べ、りゅう。俺を選んだのなら、お前の中から安室君を消してやる」


「・・・・ふっ、何それ」


気障ッ、とりゅうは笑った。その笑みはどこか弱弱しかったが、少し落ち着いたようだった。


「どんだけ自信満々なのよ、あんた」


バカじゃないの?と何処か呆れたように振り返ったりゅうを、腕から解放してポンポンと頭を撫でた。


「りゅう・・・・」


「・・・聞きたくない」


「りゅう」


「って言っても、聞くまで開放してくれなんでしょう。何?」


渋々ながら聞こうとするりゅうの頬に手を置き、真っすぐに見つめる赤井。


「な、なにっ・・・?」


ゆっくりと近づいてくる赤井の顔にりゅうは焦りながらも、意味が分からず・・・鼻と鼻がぶつかりそうな距離で堪らず目をギュッと閉じた。その様子を見て赤井は、悲し気にフッと笑った後、耳元へと口を近づけてこう囁いた。


「降谷零、彼の本当の名だ」


「えっ・・・・?」


閉じていた目を見開き、驚いたような表情で赤井の顔を凝視するりゅう。


「確かに彼は、嘘だらけだったかもしれない。安室透なんて人物は存在しない。だが、彼がお前を想う気持ちは、お前にだけ見せる表情は、安室透であって、素顔の降谷零だったと俺は思う」


「安室透は嘘で・・・私には素顔の降谷零だった・・・?」


だめだ、こいつが何を言っているかがさっぱり分からず、顔を顰めた。そもそも、降谷零?それが彼の本名だったところでそれがなんだろうか?


別に彼の本名を知りたかった訳じゃない。私はただ、彼に・・・彼に何を望んでいたの・・・・?


「彼は確かに組織の人間だ。だが、それは俺と同じ・・・」


「赤井と、同じ・・・?っ・・・それって!?」


「あぁ、彼は公安の人間だ」


ポロポロと先ほどまで流す事のなかった涙があふれ出した。


「う、そ・・・?」


「本当の事だ・・・泣くな」


「ふっ、うっ・・・・・」


「安室、いや、降谷君は組織を潰す為に潜入しているノックだ。お前が諦める必要なんてどこにもないんだ」


「でもっ、彼がノックだったとしてもそれと私との事は関係ないかもしれないっ」


「今更、何を・・・・」


「だってっ・・・私にはずっと、彼は安室透だったっ・・・・・」


潜入中とはいえ、組織の人間として私と付き合っていた事は変わらない事実。


「一度、彼と向き合ってはどうだ?」


「・・・え?」


「安室透じゃない、降谷零君と」


「・・・・・・」


「あれからずっと、彼からの電話を拒否しているだろう?彼が本当の事を話そうと、ずっと思っていたがその機会をお前が与えなかっただけじゃないのか?」


「っ・・・・・・」


赤井の言葉に、胸がツキンと痛んだ。


「話してからでも遅くはないだろう?」


フッと優しく笑う赤井にりゅうは気まずくなって悪態を吐くのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(・・・なんかムカつく)
(お前は・・・;)
(男は男同士庇い合いですか?私が心狭いみたいな・・・)
(別にそんな事は言っていないだろう?だが、お前も彼に言っていない事があるだろう?)
(うっ・・・、わ、私は言おうとしてて機会がなかっただけでッ・・・)
(それは彼も同じじゃないのか?)
(・・・・随分、彼の肩を持つのね)
(別にそういうわけじゃないさ。ただお前たちを見ているとじれったいのは確かだな)
(は?じれったい?)
(お互いがまだお互いに想い合っているのに話すらできないのは彼が可哀想だからな)
(・・・やっぱ肩持ってるじゃん)
(俺はお前の事を思って言っているんだがな)
(は?)
(早く元サヤに戻ってくれ。じゃないと俺も諦めがつかん)
(は?)





せいら様!この度はリクエスト企画にご参加頂きありがとうございます!
安室さん相手のリクエストでしたが、もう赤井さんしか出ていないっていう・・・orz
この後のおまけページでは安室さんとのお話をしっかり描かせて頂きます!
どこまでせいら様のリクエストに沿えたか心配ではありますが、楽しんで頂けたら嬉しく思います!ですが、違うお話が言い、などの事でしたら、ご遠慮なく言ってください!
せいら様のみ!書き直し依頼を承ります!
この様なサイトではありますが、また遊びに来て頂けたら嬉しいです!本当にありがとうございました!


         
             おまけ→

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