春(2/2)
「そう言えば、あの時あんた何か言いかけたよね?」
「あの時?」
「泣いても自分が惨めになるだけだって私が言った時・・・」
驚いた感じで小さく目を見開いていたあの時の秀一の表情。ぼやけてハッキリとは分からなかったけれどそれでも「君は・・・」と言ってすぐに違う事を話し始めた。
「ああ、あれは・・・・」
「あれは?」
「・・・・・・・・」
「昴?」
急に黙り込む沖矢にりゅうは小さく首を傾げた。
「さぁ?忘れてしまいましたね」
「はぁ?」
絶対嘘でしょう?と怪訝な表情を浮かべるりゅうに「本当ですよ」と困ったように笑い、桜の花びらを見つめる沖矢。それにつられる様にりゅうも窓の外へと視線を向けた。
「・・・はぐらかされた感じがする」
「気のせいですよ。全く・・・あなたは本当に疑り深いですね」
「記憶力がいいあんたに、忘れたって言われたらね」
「あなたに説明されるまでその話も覚えて無かったくらいですよ?話した内容だったらまだしも、話そうとしていた言葉がなにか、まではさすがに・・・ねぇ?」
「・・・・・・」
苦笑いを零す沖矢をジト目で見つめるりゅう。その顔はまだどこか疑っているようで・・・
「ま、いいけど。なんか喉乾いちゃった」
紅茶でも淹れてこよっと・・・、とキッチンへと向かうりゅうを見て笑みを零した後、沖矢はもう一度窓の外へと視線を向けた。
「・・・ありがとうございます」
花びらが舞うその景色に笑みを浮かべて小さくお礼を口にした沖矢。「昴?コーヒー飲む?」と声が聞こえてきて「はい」と返事をし、ゆっくりとキッチンへと向かった。
「ですが自分で淹れるので大丈夫ですよ」
「・・・薄いか、濃いか定まらなくてすみませんね」
「誰も何も言ってないじゃないですか」
「そーですね」
ワシャワシャとりゅうの頭を撫でる沖矢。「ちょっ、いきなり何?」と怪訝な表情で沖矢を見るりゅう。
「ありがとうございます」
「・・・は?」
何?いきなり・・・、と小さく笑うりゅうと、そんな彼女を優しい表情で見つめる沖矢の姿を、窓の外の桜の花びらが見守っていた。
ーーーこちらこそ、りゅうの傍に居てくれて、惨めに感じる泣き方しか知らないりゅうに泣き場所を与えてくれて、りゅうを愛してくれてありがとう。赤井秀一さん。これからも私の親友をよろしくねーーー
そんな声が沖矢の耳に届いた気がした。
「えぇ、もちろん」
そうだ、思い出した。あの時りゅうへと言おうとした言葉はーーー
<君は・・・会った時から泣いてるように見えるが>
チャンチャン
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