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春(1/2)



去年の桜が舞う季節ーーー


私は何をしてたんだっけ?


ーーーパサッと何かを掛けられた気配がして、沈んでいた意識が浮上した。


「・・・・・」


「起こしてしまいましたか?」


「・・・昴?」


声が聞こえて、そちらを見上げれば困ったような表情を浮かべて笑う沖矢の姿。身体に掛けた覚えがない毛布が掛けられていて、先ほど感じたのはこれか、とすぐに察した。


「掛けてくれたんだね。ありがとう」


「いえ、起こしてしまうかな?とは思ったんですが、春とはいえまだ少し肌寒いですからね」


「ありがと」


掛けてくれた毛布を膝に掛けながら座ってさっきまで見ていた窓の外を見つめた。


「桜・・・ですか」


「うん。寝るつもりなかったんだけど、眺めてたらいつのまにか寝てたよ」


窓の外にはハラハラと桜の花びらが舞い、いつもの景色に薄紅色を彩っていてーーー


沖矢はそれを見つめながら「綺麗ですね」と小さく呟きながらりゅうの隣へと腰かけた。


「夢、見てた気がする」


「夢ですか?」


どんな?と首を傾げながらりゅうを見る。


「うーん・・・、ねぇ私たち、あのバスで会う前に一度、会ってない?」


「あのバスで会う前に・・・?」


はて?と首を傾げる沖矢にクスッと小さく笑みを零した。


「記憶力がいいあなたが覚えていないのなら、気のせいかな?」


「その話、詳しく聞いても?」


「そうだな・・・、私も大して覚えてるわけじゃないんだけどね。去年の春、こんな風に桜の花びらが舞う時期にーーー」


トンッーーと、沖矢の肩へと頭を寄せれば、彼もそれに応えるように肩を抱き寄せてくれる。


瞳を閉じてゆっくりと語りだすりゅうの言葉を聞き逃さないように、沖矢は耳を彼女の声に傾けた。



1年前の夜ーーー


生きているのか、死んでいるのか・・・


前に進んでいるのか、立ち止まってしまっているのか・・・


息をしてるのか、していないのかさえたまに分からなくなっていたあの頃ーーー


「今年も、会いに来たよ・・・・桜」


親友が好きだった、親友の名前と同じ「桜」。


あの子が生きていた時はよくこの桜並木を一緒に歩いていた。


数ある桜の中でも一回り大きな桜の木にトンッ、と額をつけて「桜」に話しかけていた。


「・・・今の私を見たら、あなたはどう思うのかな?」


やっぱり、悲しむのだろうか?それともーーー


「仇を取ってくれって・・・いうわけないか」


桜は優しい子だったから、あの子が私にそんな事を望まないっていうのも分かっている。


「でも、ごめんね。私にはこうすることでしか生きる意味が見つからないの」


仇を討つ、それが望まれないことでも、間違っていようとも、私にはそれでしか生きる理由がない。


「・・・私もあなたたちの所に、連れて行ってよ」


桜への手を置き、瞳を閉じて静かに告げた言葉。次の瞬間ーーー


ブワッーーーと風が吹き、桜の花びらが舞う。


「わっ・・・・」


いきなりの事に目を瞑り、風が止んだ頃ゆっくりと目を開けた。


「あ・・・・」


ポケットに入っていたはずのハンカチがいつの間にか道端に落ちていてーーー


慌ててそちらへと向かった。拾おうと手を伸ばした時、誰かの手と重なった。


「え?」


先ほどまでは誰もいなかったはずなのに、それに人の気配だって全然気が付かなかった。咄嗟に顔を上げようとした瞬間、またも風が吹いた。


「っ・・・・」


その際に目に砂が入って慌てて抑えて蹲る。


「大丈夫か?」


こんな夜中に、人がいることに驚き、警戒をしたのだがその声色が妙に優しくて、なぜか警戒心が薄れた。


「あ、はい。ちょっと今の風で目に砂が・・・」


「・・・失礼」


「え?」


その人物が、蹲っているりゅうに合わすようにしゃがんだのが気配で分かった。するといきなり、クイッと顎を持たれて上を向かされた。


「あの・・・」


目が開けられずにいれば「少し我慢しろ」と言われて「へ?」と間の抜けた声が出た。


ポタッーと両目に何か水滴を落とされ、一瞬ビクッとしたがそれが目薬だとすぐに分かった。


「少し砂が入っただけなら涙を流せばすぐに取れるだろうが、泣かすわけにもいかなそうなんでな」


フッと笑みを零したのが気配で分かった。少しだけ目を開ければボンヤリと見えたのは黒い帽子を被っている長髪の男性の姿。ただ顔まではハッキリとは分からなかった。


「・・・泣きませんよ、泣いたって自分が惨めになるだけですから」


「君は・・・・」


「え?」


「いや、なんでもないさ。あと少ししたら目も開ける事ができるだろう。こんな夜中に女性一人を残していくのは些か心配ではあるが」


「・・・ご心配なく、いつもの散歩コースなので」


「いつもこんな遅くに散歩を?」


「・・・寝れない時によく、ただ今日は桜を見に」


「桜、か。確かに綺麗だ」


ピリリリリッーーーと着信音が聞こえてきてそれを取る男性。「すぐに戻る」と聞こえて、そういえば時間がなさそうだったな・・・。


「桜が綺麗で見惚れるのは分かるが、早く家に帰ったほうがいい。最近は物騒だからな」


「・・・えぇ、そうですね」


色々とご迷惑をおかけしました。と頭を下げれば「いや」と一言かえってきた。


少しだけ目を擦れば先ほどの痛みがなくなっていて、目を開ければそこにはもう誰もいなくて、ハラハラと舞う桜だけがその様子を見ていた。


「・・・ねぇ、桜。さっきの風のタイミング、あんた怒ってるの?」


私にまだ死ぬなって?


「・・・そうだね、私はまだ死ねないよ。全てを終わらせないと」


だから、もう少しだけ生きてみようと思います。


桜の木に背を向けて歩き出したりゅう。さっきまで見ていた桜の木の枝に一人の少女が腰かけて、困ったような表情で笑っていた。


ーーーしょうがないなぁ、りゅうは・・・、死ぬなって怒った事は確かにあってるけど理由が違うわよ。ばか・・・。幸せになっていいんだよ。りゅう。運命の人との出会いはいずれ、思いがけない再会を生むーーー


ニコッと笑った少女は「私にはできないこと、任すわね。あの子を、りゅうを救って・・・赤井秀一」と呟き消えたーーー




・・・・・・・・・・・・・・・
(・・・そう言えば、そんな事があったな。あれはお前だったのか・・・)
(やっぱあれ、秀一だったんだ。あの時なんであんなところに?)
(どうしてだったかな。・・・あぁ、そうだ。呼ばれた気がしたんだ)
(呼ばれた?誰に?)
(・・・さぁ?誰だったか)
(変な秀一)
(春と言えば、桜だな)
(そうだね。春には桜を思い出すよ)






ゆき様!この度はリクエスト企画にご参加いただきありがとうございました!
題名で「春」とのリクエストで、春が終わる前には書きたいお題だな・・・と思いました^^時期的にも丁度いいお題、ありがとうございました!桜は大分散ってしまいましたが・・・
どこまでご期待の添えたかは分かりませんが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しく思います!もしも違うお話がいいなどの事でしたら遠慮なくいってください^^ゆき様のみ!書き直し依頼をお受けいたします!
赤井さん好きのサイトとしてこれからも更新頑張っていきますのでまたぜひ!遊びに来てくださいね!本当にありがとうございました!



       →おまけ

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