Death&strawberry


とある夜。
拾われてから数年後、黒崎家にて。




「なぁ、一護遅くないか?」

「どうせいつもの徐霊だよ。てか遊子、奏兄のご飯つぎすぎ」

「!
いっけない!」




茶碗にてんこ盛りになっていたご飯をせっせと炊飯器に戻して行く。
そんな遊子の後姿を見ながら欠伸を零す。
俺が今黒崎家に身を寄せているのには理由がある。
とある理由により尸魂界から逃げてきた俺は数年(?)の放浪の後行き倒れたのだ。
で、それを救ってくれたのが一心だったという訳である。


喜助とも連絡取ってるには取ってるが……ハァ…。




「(こんなもの使う日なんて来ねーよ)」




記換神機なんて何に使うんだ?
他にも色々と義魂丸やらなんやらをこっちの金で払わされて無一文。
元々行き倒れる理由になったのは喜助の奴がいらん物まで売って来たからだ。


―――責任取れよ、喜助…!


まあそんなこんなで喜助の家に居候になっても良かったが、あいつのとこには世話になりたくなかった。
髪切られたし(この前髪がパッツンなのもあいつのせいだ)、変な実験に付き合わされたりもしたし(あの日のことはは忘れない)、変な薬(なんで俺が女になんだよ!?)を飲まされたこともある。
喜助は友達ではあるが、性転換剤とか新義魂丸とか義骸の試作品を作るとか言って俺で実験したりする危ないヤツだ。




「(あーッ!思い出すだけで腹が立つ!!)」




こんなとこで腹立てても仕方ないのは分かってるが、どうしてもムカムカが収まらない。
何時もの事だと割り切れる時期は当に過ぎ去っているのだから、そうやって割り切ることも出来ないしな…、クソ。




「ただいまァ」

「!お?」




一護のヤツやっと帰ってきたな…。
そう思いながらダダッと駆けていく後姿を見送れば見事に一心の飛び蹴りが決まった。


―――…アホか…。


そこからくだらない喧嘩の始まりだ。
付き合ってらねーっつーか…ハァ…。




「大体この家はな!ルールがキツすぎなんだよ!!どこの世界に健全な男子高校生を毎日7時に帰宅させる家が…「あ。」あ?」

「一護……、お前…」

「おにいちゃん、もう新しい人ついてるよ」

「ああッ!こいつ!いつのまに!!」




首に縄つけた中年のおっさんの姿が後ろに浮かび上がっている。
自殺でもしたのか?
一護の奴は生まれてこの方見える、触れる、喋れる上に超A級霊媒体質らしい。


―――…可哀想に。




「奏司おにいちゃんも見えてるんでしょ?」

「ん?あぁ…まあ、見えるけど」




前ははっきり見えてたが最近薄ぼんやりとしか見えねぇ。


―――目、悪くなったかな……。


義骸が悪いのか?
喜助に見てもらうしかないな。




「ちょっと羨ましいよねぇ、お兄ちゃん達。あたしなんてボンヤリとしか見えないもん」




ハッキリ見たいよ、という好奇心満々の遊子には悪いが見えてもいいものじゃない。
世の中には見えないほうがいい物だってあるしな。
整(プラス)ならまだしも虚なんか見てもいいことなんかひとつもないだろう。




「べつに―――。あたし幽霊とかそういうの信じてないから」

「え――っ、でも夏梨ちゃんだって見えてるでしょ?」

「バカ。見えようが何しようが信じてなけりゃいないのと同じ




夏梨の辛辣な言葉に魂魄が涙を流した。
可哀想だとは思うが、同情はしてやらない。
その内成仏(といっても死神による魂葬だが、細かいことはどうでもいい)出来るだろう魂魄に言える事はただひとつ。
向こうでいい人見つけて幸せになれ、ということだけだ。
多分自殺したんだろうし、なんか辛いことがあったんだろうからな。
そんな事を思いながら食べ終えた食器を片付け財布を尻ポケットに入れ、靴を履く。




「一心さ――ん、俺ちょっと出かけてきま――す」

「気を付けるんだぞー!」




はいはいっと。
全く……襲われるほど弱くない事知ってるくせによく言うぜ。


それから歩いて歩いて浦原商店へと辿り着いた。
相変わらず義骸は歩きにくい……が、仕方ないか。




「喜助ー」

「はいはいっと。来るのは分かってましたよ」

「相変わらず変態っぽい面だな」

「相変わらず辛辣っスねぇ……」

「褒めてんだぜ?」

「変態っぽい面のどこが褒め言葉なんだか……。ささ、早く出てください」




えいっ、と杖で額を小突かれた。
それと同時に黒と白の装束が揺れる。
久しぶりに見たな―――死覇装。
俺の義骸をせっせせっせと直している喜助を横目に猫を抱きかかえる。
放さんか!、と足蹴りにされたが…まあ、猫だからな。




「猫キックってあんまり痛くないな」

「爪で抉ってほしかったのか?」

「それは勘弁だ、夜一」




勘弁、と両手を上げればするすると膝の上に乗られた。
そしてそこで丸くなった夜一に溜息を吐き出し、されるがままになっていればポツリと一言呟かれる。




「相変わらず十四を背負っておるのか」

「ん?まあ……な」

「儂なら重くてすぐさま辞めておるぞ」

「はは、夜一らしい」




夜一はおちゃらけた態度取ることもあるがそんな軽い奴じゃない。
そんな夜一でも重いと感じるほどだ。
確かに十四は……重い。

本当に………




「…重かった…」

「!
すまん……思い出させたか」

「構うもんか」




夜一、お前には世話になったからな。
それに重かった記憶でも思い出すことは楽しいことばかりだ。
何時だって俺は思い出してる気がする。
あの過去の思い出は俺にとって本当に大切なものだから。




「さて…と………喜助!出来………あ?何処行った、アイツ」




―――せめて俺の義骸残してから行けよ…。

諦めて座り直し、夜一を撫で続けて俺は自分から意識を落とした。
喜助が帰ってくるまで付き合ってらんねーからな。




―――――――――――


――――――――


―――














「…ん…、…」




薄っすらと差し込む光に目を開けば薄暗い部屋の中、目の前に整った顔があった。


―――わ、わわわ、私は一体何をしていたのだ!!??


バッと慌てて起き上がれば傷も癒えており、義骸に入っている事が分かる。
一体誰がこんな事を………。




「まさかこの男、か……?」




前髪に隠された顔は全体を見なくても整っている事が分かる。




「(この男…一体…)」




―――私は浦原に助けて貰ったはずだが………。

そう思っていれば襖が開き帽子をかぶった男が顔をのぞかせる。
腕には湯気を上げる器が乗った盆が持たれていた。




「おやぁ?…お早いお目覚めっスねぇ…朽木サン」

「!
浦原…こやつは誰だ」

「あ、忘れてましたぁ。



ホラ、起きてください!朝っスよ!」




滅茶苦茶ではないのかという程無理矢理に体を揺すって起こした。
その上まだ朝ではないだろう、嘘を付くな!




「あー……き、すけ…??」




長い前髪を抑えながら起き上がった男の視線が私へと向く。


―――この、方は…!!!




「見て?ルキアちゃん」

「何だ?」

「これ。この人が私の隊長、大好きな人なの」





「………勾宮…隊長…?」

「!
……あー…」




何故、この様な方が現世におられるのだ…!
有り得ぬ、向こうでは…もうお亡くなりになったと…っ!!!




「朽木、」

「何でしょうか」

「十四番隊の事は知っているかい?」

「…はい。今や隊員は1人だけで……残りはお亡くなりになったと」

「その隊員なんだが、卯ノ花隊長から頼まれてな……」





―――君と話しがしたいそうだ。


浮竹隊長からそう聞いた時は幻聴ではないのかと疑った。
まさか私なんかと話がしたいと言うとは思いもしなかったからだ。
どうして、そんな重いが胸中を渦巻く中私はその人に会った。




「あ、あの……は、初めまして」




白鳥八席。
知られている十四番隊で最も弱い方(実力ではない、体のほうだ、勘違いするな!)だった。
彼女は偶然私の姿を見つけなにやらビビッと来たらしく語ってみたいと申し出たのだと私に教えてくれた。
それからというもの会う度に色々なことを話してくれた。


十四番隊の仲間の事、
今までやって来た任務の事、
書類整理をする度に隊長が逃げて副隊長もそれに参戦していて三席が一番苦労していた事、
三席と四席は本当に仲のいい鴛鴦夫婦だったという事、
七席席と歳が一番近く霊術院時代から仲が良かった事、
五席六席は基本傍観しているが面白そうな事には首を突っ込んで厄介事にしてしまう事、


中でも隊長の話しをする時だけは本当に嬉しそうに、元気そうに話していた。
勾宮奏司という1人の死神を本当に尊敬し、敬愛し、純粋に慕っているのが何一つ知らない私に伝わってくるほどだったのだ。


―――そんな人が、お亡くなりになって白鳥はどれほど悲しんだか…!!!




「貴様は分かっていない!!!」




ガッ!




「「!」」

「生きているならどうして報告をしない!生きているならどうして会いに行ってやらなかった!貴様は白鳥を裏切ったのだ…!!!」

「!」




「隊長は……わ、私の命を、助けて…くれた…、」




白鳥は流魂街で殺されそうになった所を隊長に救ってもらったのだと嬉しそうだった。




「隊長は…私の、お…おにいちゃん、みたいな…人なの」




白鳥は隊長の事を真の兄だと思い慕っていると言っていた。




「…隊長に………もう、会えないの、」




涙を零した白鳥の気持ちが貴様に分かってたまるか…っ!!
元隊長だとかそんな事はどうでもよいのだ。




「白鳥の友人として、私は…!」

「友人……」

「そうだ、友人だ。白鳥と私は友人だ」

「白鳥の為に、怒って泣いてくれるのか」

「そうだ。貴様に出来ないことだ、っ」

「…そうだな。
…………白鳥は、病弱だろ?」

「……?」

「だから昔っから引きこもりがちで友達が出来た事がねーんだ。そうか……」




―――友達か…。


そう呟き嬉しそうに微笑んだ勾宮隊長は心の底から白鳥の事を想っているらしかった。
私は少し、言い過ぎたかもしれない…。




「っ、申し訳御座いません…勾宮隊長」

「十四番隊は実質壊滅状態だろ。俺も隊長の座を剥奪されてる」




―――奏司でいい。
そう言った彼が浦原商店を出て行く。
言い過ぎてしまった。
私は嫌われてしまっただろうか。
これからどうすれば…。




「大丈夫スよ。あの人は面倒が嫌いなんで基本すぐ忘れます」

「何?」

「次会ったときにはけろっとしてるのがオチっス」




浦原がそう笑った次の瞬間、奏司殿が中に入ってこられる。
恐る恐る顔色を伺えば本当にけろっとしていた。




「そういえばお前の名前聞いてなかったな」

「あ…ルキア、です」

「ルキア……」

「朽木ルキアと申します」

「朽木……ねぇ。(あの坊主、元気にしてっかな……。)
つーか堅いな……お前。敬語も何も要らない、普通に話せ」




ポンと私の頭を撫でた奏司ど……いや奏司が笑う。
白鳥の言うようにどこか人を安心させるような笑みだった。




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