十番隊を抜け、十一、十二、十三と隊舎を駆け抜けてやっとの事で十四番隊舎。
日番谷のとこで津姫を使ったのが結構体に堪えてやがる。
でも、始解しねえと勝てる相手でもねえ。
交わすだけなら扇子で十分だが、戦うには始解じゃねえと辛い。
「くそ…、」
もう直ぐ入り口だってのに足が棒みたいに動かねえ。
ああ……蜂陳を先に行かせて正解だった。
「俺もじじぃって事か、」
「そんな外見でジジィとか言ってたら総隊長に怒られますよ」
「!
蜂陳…悪ぃ」
「莫迦ですか、貴方は。始解なんて使わずに逃げれば良かったものを」
「隊長格2人相手に逃げろ?ふざけんな」
追いつかれるに決まってんだろ。
…にしても、誰もいねえなんてどうしてだ?
俺が十四番隊の隊舎に来る事ぐらい山爺なら分かってたはずだろ。
まさか、分かっててみすみす見逃した?
―――有り得ねえ。
「蜂陳、誰もいなかったのか」
「?
はい。可笑しな事に…誰も」
「………一体、この先に何があるって言うんだ」
十四番隊の隊舎には誰も立ち入らない様に俺が結界を張った。
だが、周辺まで影響するようなものじゃなかったはず。
そんな時、ぐにゃりと空間が歪んだ。
「なん…っ…」
ガキィ…ッ!!!
「!!」
俺に向かってきた刃を受け止める。
暗闇から伸びているその刀身は見覚えのあるものだった。
「影殺…?!」
「そうだよ、奏司。久しぶりだね、」
その声と同時に此方を見る冷めた瞳の祐華が現れた。
視界が黒から白へと染まる。
雨が、降り出した。
空が、曇天へと変わっていく。
「ハハ……そういうことかよ、」
十四番隊の席官と守里が俺に向かって斬魄刀を構えていた。
蜂陳や、白鳥までもが光を失った瞳で此方を見ている。
あの日の、あの夜の、繰り返しだ。
護りたいと思ったものを、斬り捨てた俺が……また仲間を斬る。
「ハハ……ハハハ…」
「何が可笑しいの、奏司ちゃん。あ、もしかしてまた守里たちを斬っちゃうって気が狂っちゃったの?」
「大丈夫ですよ、隊長。気が狂って僕らを倒して斬り捨てても僕らは死なない」
「せや。うちらは死なへんから隊長が死なん限り一緒におりますよ?」
「ああ…でも攻撃をしないなんて言ってませんから、防戦一方にならないといけませんね」
「……全部、隊長が望んだ世界……責めてほしいんですよね?痛めつけてほしいんですよね……??」
「110年前、私たちを平気で傷つけた自分を…許せないから」
憎たらしく笑う。
悪魔の囁きの様に俺を責め立てる。
「舞い踊れ」
「落とせ」
「照らし出せ」
「魅せろ」
「焚け」
「写し崩せ」
「降堕ちろ」
全員が解号を唱えた。
そうか、お前らがそのつもりなら俺もそのつもりでいく。
―――…でないとお前らは俺を許さないだろ?
「清め祓…、ッ!」
「言わせると……思ってるんですか?」
翠に手首を蹴られ、あっさりと津姫が遠くへ飛ばされてしまった。
何だ……何かが可笑しい。
気配に気付けなかった?
どういう………、!
「守里…、蜂陳…」
「部下の斬魄刀の能力さえ忘れてたの?酷いなあ…奏司ちゃんは!」
「翠が一歩も動いていない事に遅れて気付くなんて大丈夫ですか?隊長」
さっきの翠は守里の作った幻覚。
あっさりと手首を蹴られたのは俺の神経回路が滅茶苦茶になっているから。
その上、上下左右前後、全てが逆だ。
「本当に厄介だぜ、畜生」
「?かすでまんほ」
「ハハ……駄目だ。言葉まで反対に聞こえてきやがった」
―――畜生…畜生…畜生…!
俺は護りたいと想ったものを護る為に帰って来た筈なのに…どうしようもない。
手も足も出ねえ。
俺、一体何の為に戻ってきたんだよ。
「のなずはいなてんな暇るてえ考?のるてえ考を何」
「うるせえよ、守里」
笑ってんなよ、莫迦。
何言ってんのか反対で分かんねえんだよ。
諦めたように目を閉じた時全員の斬魄刀が俺に突き刺さった。
つう…っと口元から血が伝って空間の中に落ちる。
ポタ…ッ
白の空間に、赤が咲いた。
「守里、祐樹、祐華、未子、蜂陳、翠、白鳥」
「「「「「?」」」」」
「ごめん、な……」
「「「「「!」」」」」
俺の自己満足で……1人にして、ごめんな。
* * *
「一体何があった、奏司。外傷もなくこんなに血が出るとは異常じゃぞ」
奏司の体を抱き上げるとその影は――消えた。
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