死ぬんだな…と朧気に思った瞬間、彼女は何かに包まれた。 「死ぬ気ですか?琉輝」 琉輝「あ………、…亞琉……??」 亞琉「そうです。すみません、折角掴んだ勝利なのに」 琉輝「ほん、と……だ、よ」 琉輝をそっと姫抱きした亞琉がタンク上に現れる。 亞琉の謝罪に苦笑した琉輝は朧気な意識の中でチェルベッロへ手招きした。 チェルベッロ「なんでしょう?」 琉輝「これ……、」 チェルベッロ「!」 琉輝「亞琉、は……守、護…者じゃ……ない、し、…お、れは…… し、っかく…だろ?」 チェルベッロ「確かに。」 琉輝が差し出したリング。 チェルベッロは琉輝の言い分の正当性を認めると妨害行為とした。 それにより、月のリングはヴァリアー側に渡ってしまう。 獄寺はそれに怒りを禁じえないがツナに鎮められた。 あれは自分が頼んだのも同等なのだと、思ったのだ。 亞琉に尋ねられた<勝利>と<生還>。 あれは未来を選ぶ重要な選択だったかもしれない。 ツナは<生還>を選んだが、全く後悔などしていなかった。 寧ろ<それでよかった>と<安堵>すら覚えていたのだ。 ツナ「琉輝さん…っ!!!」 琉輝「………し、…」 ツナ「!、な、なんですか?」 琉輝「……あたし……つなよし、が… ―――すき、だよ………」 その声は掠れていた。 だがツナにははっきりとその声が届く。 琉輝「ご……めん……。 あたしの、こと……えらんで、くれて、 あり、がと…ぅ、」 だんだんと琉輝の瞼が落ちていく。 まるで今の告白が遺言のように聞こえるではないか。 ツナ「やめて、くださいよ……。 俺だって、……俺だってあなたのこと…!!」 亞琉「聞こえてませんよ」 ツナ「……へ?」 琉輝「すぅ……すぅ………」 ツナ「あ゛…っ//」 琉輝は亞琉の腕の中で安らかに寝息を立てている。 相当消耗しているらしく深い眠りについているようだ。 それが永遠の眠りにならなければいいが。 (不吉なこと言うな!!/言わないでください!! by琉輝&ツナ) チェルベッロ「では明晩のリング争奪戦の対戦カードを発表します。 明日の対戦は……嵐の守護者の対決です」 山本「明日は獄寺か」 了平「お前なら大丈夫だな。任せたぞ」 獄寺「あ…ああ (やべぇ…もうかよ…っ まだ技が完成してねーってのに)」 芽埜「(獄くん…?)」 芽埜は獄寺の様子がおかしいような気がしていた。 その帰り。 この前約束した通り自分を<守る>ために送ってくれる獄寺に聞いてみることに。 芽埜「獄くん…?」 獄寺「あ?」 芽埜「その聞き返しはガラ悪いよ……。 ところでさ……修行、うまくいってないの?」 獄寺「!!」 芽埜「…そっか」 獄寺「ち、ちげーよ!!」 <そんなわけないだろ。> 獄寺は芽埜を前にして、そう言いたかった。 けれど彼女があまりにも静かな瞳で自分を見つめるから、優しげな瞳で見るから。 言えなかった。 獄寺「ちくしょう……なにチンタラやってんだ、俺は……」 芽埜「獄くんあのね、芽埜、修行やってて思ったよ」 獄寺「……?」 芽埜「みんな、こうやって強くなっていったんだろうな…って。獄くんも、頑張ってきたんだよね?」 芽埜は修行の休憩時間にシャランから聞いていた。 獄寺は<スモーキン・ボム>と呼ばれた悪童だったという話を。 だからだろうか。 なんとなく、わかったのだ。 芽埜「もう1人じゃないんだもん。みんなで頑張ってるんだもん。 余計、負けたくないって思うよね」 獄寺たちがツナと仲良くなる前、2人が仲違いする前。 芽埜には自信があったのだ。 <ツナを守っているのは自分なのだ>、と。 だが離れている間彼を守ったのは誰でもないリボーンや、獄寺に山本……それに彼にできたたくさんの<仲間>たちだった。 彼女はいつも笑っていたが、幼馴染を包み込む<仲間>に<嫉妬>を禁じえなかった。 仲良くしようと思っても一番初めに出てくるのはその感情で、自分の醜さを思い知ったものだ。 そんな中ヴァリアーとの対戦が決まり、少しだけ<嬉しい>という感情がわいた。 ここで<力>を示せば<ツナを守るに相応しいのは自分だ>とみんなに思わせることが出来ると思ったから。 それすらも醜いとは思うが、どうしてもその位置に戻りたかったのだ。 獄寺「紀本、お前は……」 芽埜「芽埜も負けないよ♪綱吉も獄くんも守れるようにならなきゃって思ったんだから! 焚きつけたんだから、責任とってよね!」 そう言って笑う芽埜に獄寺が呆れたような笑みを漏らす。 そんな時…… ―――グシャ 空き缶の潰される音が響いた。 前方を見れば酔っ払いがうぃ〜いと声を上げながら空き缶を潰していた。 獄寺「下がれ、紀本!!!」 芽埜「(いや――っ!!なんでこんなところに酔っぱらいがいるの〜〜!!?)」 「明日に決まったらしーな、勝負」 獄寺「なっシャマル!」 芽埜「よ、酔っぱらいじゃなかった!!!(お酒飲んでるけど。)」 芽埜たちの前に現れたのはシャマルだった。 だいぶお酒を飲んだようで頬は赤い上、まだ飲んでいる。 獄寺「てめー冷やかしに来たのかよ!」 シャマル「バーカ。俺の貴重な5日間を無駄にする気はねーんだよ。 ―――仕上げるぞ」 芽埜・獄寺「!?」 シャマルの言葉に2人が驚く。 芽埜はその意味を理解すると獄寺に向かって微笑んだ。 シャマル「うっ」 芽埜「シャマルさん?!」 シャマル「飲みすぎた……」 獄寺「大丈夫なのかよ!!」 シャマルは飲みすぎでフラフラしている。 本当に大丈夫なのだろうか。 * * * ツナ「琉輝さん………」 その頃ツナは中山外科医院にいた。 視線が見つめる先は点滅した<手術中>というランプ。 リボーンは「早く帰って寝ろ」というが、ツナはどうしてもその気にはなれなかった。 ツナ「(無事、戻ってきてくれますように…!!)」 手を組んで天に祈る。 大切な人が、戻ってくるようにと…… * * * ―――ポンポン 「…ん、ぁ…?」 「無茶をした様だな」 「…あ…?」 暗い闇に青白い月。 その空間の中に白衣を着た女が佇んでいるのを琉輝が視認した。 ぼうっとそれを見つめて「死んだのか」とぼんやり思う。 「(よりにもよってリングと一緒に危機に陥るとは…)はぁ…馬鹿」 琉輝「なっ、馬鹿ぁ?!」 「お前、死ぬぞ」 琉輝「………死んだら…どーなんだろ?ここで死んだら…俺は、」 「……はぁ…」 琉輝「何だよ?」 「私は医者だ」 琉輝「だから?」 「目の前で死にそうな命を放って置くほど非情じゃない。命を救う職業だからな。 (まあ、その裏でいくつもの命を奪っている私が言えた事じゃないが…)」 ふっ、と悲しげに笑った女がどこか鈴音に似ているように思えた。 何かを諦めた様な笑みがそっくりだ。 琉輝「なあ」 「?」 琉輝「俺…生きたい…。 生きて…鈴音等(あいつら)と一緒にいたい…。何も変えられなくても、一緒にいたい」 「!!」 琉輝「綱吉とも一緒にいたい…!!生きてきたい…っ、 いつからなんてわかんないけど…!あいつの事が好きだから…っ、こんなとこで死にたくない…!!」 琉輝の言葉に女は目を見開く。 そして思い出した。 <彼>の言葉を…… 「ケート、俺の守護者になってくれ。 誰よりも前線で戦い、誰よりも人を励まし続けてくれた。 ケートのお陰で救われた命がどれほどあったことか分からない。 そんなお前だからこそ<月>の守護者になってほしい」 ケート「でも私は戦えないから。人を、傷つけることは出来ないから………。 そんな私にお前を守れるはずがない。」 「そんなことはない。お前はずっと俺を守ってくれたさ。 お前は俺の……俺達の心の支えだ、ケート。 ファミリーを明るく照らし輝かせ誰よりも前線で戦う大いなる<月>。それがお前に渡すリングに課せられた使命。 お前はこれからも夜の空から俺たちを見守っていてくれ。 お前が見守ってくれていれば、俺たちは皆健やかに生きていけるんだ」 女…ケートはそっと目を閉じる。 そして琉輝を見て、思った。 ケート「(この少女はきっと、<彼>を………ずっと、支えてくれるだろう) …これっきりだ」 琉輝「え…?」 ケート「ここは生と死の境。もう来るなよ」 ケートの手に持たれた医療器具。 それが触れた先から琉輝の体につけられた傷が癒えていく。 ケート「(お前にはずっと、<彼>を支えてもらわなければならないのだから)」 月の使命 パッと消えた赤いランプ。 時間は3時、よい子はもう深い眠りについているだろう。 ドアが開きディーノの手配した医者が出てくると、ツナに笑いかける。 つまり…… 医者「奇跡が起きました」 ツナ「奇跡…?」 医者「はい。 お話によると彼女は刺された部分をワザと自分で刺した、と聞いていました。話のとおり刺傷は2つあり、それは両方とも内臓を深く抉っていたのです」 ツナ「!!」 医者「腕の傷はそうたいしたものではなかったとはいえ、あの部分からも多量の出血が認められた。 合計三箇所から大量の出血を死ながらも彼女は手術に耐え抜き、無事生還しました」 これから病室に運ばれるのだろう。 運ばれていく琉輝の後ろにツナもついていく。 病室につくと2週間ほど無理は禁止だと念を押された。 ツナ「琉輝さん…、よかった…っ」 琉輝「……、…」 麻酔で眠っている彼女にそっと顔を近づけると、ツナは琉輝の額にキスを落とす。 そして…… ツナ「〜〜〜っ、な…何やってんだよ、俺っ////」 羞恥から、自滅。 琉輝「……あたし……つなよし、が… ―――すき、だよ………」 琉輝「ご……めん……。 あたしの、こと……えらんで、くれて、 あり、がと…ぅ、」 ツナ「(でも……俺たち、アレ、だよね?両思いってヤツで、いいんだよな……?)」 琉輝の口から漏れた告白の言葉。 そして<勝利>よりも<琉輝の命>を選んだことに対しての御礼。 ツナ「お……俺も、好きなんだ。 だから、早く目を覚ましてよ……………、琉輝…」 彼女の頭を撫でたツナの表情は、とても優しいものだった。 戻る |