??? 「やれやれだ。君が目指している世界が、かくもつまらないものだとは」 「―――。」 「……なんだって? あっはは。『それに協力しているお前達もつまらない存在』…か。確かに間違いではないね」 「――――――。」 「………、そうだな。君に協力してあげているのは、この身が持ち合わせた優しさの集大成があるから、といったところかな」 「―――――。」 「え?『別の目的があるのか』って?そうだよ。当然じゃないか。―――人はただの偽善なんか行わないさ」 鈴音 「………鈴音、外を見つめてどうしたんですか?」 骸くんがティーカップ片手に近づいてくる。目の前に置かれたカップにはミルクティが入れられていて、いい香りが漂う。 普段は心を落ち着けてくれるような香りだけど、今はどうにも落ち着かない。 ざわざわと胸のあたりで嫌な感じが蠢いているようで気味が悪い。 嫌な予感がどこから来ているか、そんなものはわかっている。 わかっていて、私はこれ以上追求出来ないでいる。 骸くんの背後に潜めいている恐ろしい呪いも、昼間出会った芽埜や隼人くんに降りかかっている悪夢でさえも、私には触れることが出来ない。 「骸くん、目は……痛くない?」 「目、ですか?」 「ええ。 今更だけれど、その目は貴方のものではないでしょう?酷使しすぎるのは、余り良くないわ」 「それは確かにそうでしょうが…、何故急にそのようなことを」 ……確かに急すぎた。 骸くんからされた最初の質問に全く関係ない話を振ってしまった時点でおかしい。 考え事をしすぎて、返事がその考え事の内容になってしまっている。 とはいえその内容は誤魔化すものでもないし骸くんに話してしまっても構わないことだから、正直に話してしまおう。 それが未来で交わした、芽埜(あの子)との約束。 もっと頼ってくれていいと言ってくれたあの子との―――。 「……未来の貴方は言っていたでしょう?『あの大家はとても心配症』って」 「………、ああ。そういえばそのようなことを言った記憶もあるような…」 「その〈大家〉っていうのは、雪と炎の事に違いないと思うの。 今更なことだし余り言いたいことでもないんだけど……。骸くん。私と出会うまでに目が酷く痛んだりしたことはない?」 「!」 軽く驚いたように目を見張った。 それだけで私の言ったことが間違いでないことはわかる。 (やっぱり……、) 「……確かに痛みはありました。ですが君と出会ってからあの様な激痛が起こったことはない。それどころか、この目の効力は強くなったようにも……、! ………まさか」 「私もはっきりとは言えないの。 多分、だけどね?その目は私と近しくなればなるほど効力を発揮するんだと思う。それを手に入れたフェイが望んだことが〈私を守ること〉だったから……」 「………。 だから、どうだと?僕が強くなったのは、フェイ・ストラージアの想いあってこそだとでも?」 「っ、違う!骸くんが強いのは骸くんの想いがあるからで、そこにフェイの干渉はない…っ」 効力を発揮するのは、確かにフェイの想いあってこそだとは思ってる。 だからって骸くんが強くなったのはそんなものをはるかに超えた、彼自身の思いがあるから。 そこにフェイの干渉は一切ない。 私が言いたいことはそういうことじゃないのに、私は周囲に誤解ばかり与えてしまう。 成るべく傷つけないように遠回りな言い方ばかりしてしまうから―――? 「それで、ずっと考えていたことがあって……。私ね?骸くんにお願いがあるの」 「鈴音の頼みなら受け入れますが、内容にもよりますね」 「………っ、もうその目を使わないで。これから先はその目を使った後、どうなるか分からない。私にはどうすることも出来ない」 「………」 「ここ最近毎日感じてるの。雪と炎が、いなくなってしまう。雪と炎と……話が出来ない」 「!」 雪と炎の気配を感じ取れない。 いつも私のそばにいてくれたはずなのに、段々と存在がなくなっていくように薄れていく。 毎日のように話が出来ていたのに今ではそれも出来ない。 ―――声をかけても反応がない。 ―――反応があっても僅かな時間しか話せない。 それがどういうことかなんて理解してる。 ―――雪と炎が、どこかへ行ってしまう。 「雪と炎がいなくなったら骸くんのその目がどうなるか……。だからお願い、もう使わないで」 「………心配してくれるのですね」 「? 何言ってるの。当たり前でしょう?私は骸くんが大事だから……、っ」 腕が伸びてきて華奢ながらも鍛えられている胸元へと誘い込まれる。 硬い胸板に頬を押し付けられるくらい抱きしめられてかあっと頬が熱くなる。 有幻覚の骸くんとは何度も触れ合っていても、こうして生身で触れ合うのは黒曜の件以来。 あれからたくさんの戦いを経てやっと骸くんと会うことが出来た。 私が一番大好きなヒト。 また失ってしまったら、なんてそんなことばかり考えてしまうから危険なことからはなるべく遠ざけておきたいのに。 「…では自己責任ということで」 「え?」 「この目を使って失明しようが、僕が死のうが、それは全て自己責任。鈴音の責任など1mmもありません」 (……ひどい人) 内容にもよると言うから聞いてくれるとは最初から思っていなかったけど、本当に聞いてくれないなんて。 骸くんが失明するだとか、骸くんが死ぬだとか、私が最も望んでいない結果であることくらいわかっているはずなのに。 恐ろしい目に合うかもしれないのに瞳を全く揺らがせないなんて、目は口程に物を言う、なんていうのは骸くんには通じないのかもね。 それだけの覚悟をもって言われてしまったら私は強く引き止められない。 使ってほしくないのは私のエゴでもあるのだから押し付けることも出来ない。 「―――…す………、…鈴音…聞いていますか?」 「……、え?」 「………次はどんな悩みをお抱えで?」 「え?さっき以上の悩みなんて…ないけど」 「どうにも信じ難い話ですがねぇ……。 最近の君は上の空のことが多い。シモンの島から帰ってきてからの君はどこかおかしいように感じます。ローラシア(あの男)に何か言われたのでは?」 「……? ローラシアの事?ローラシアとは何も。説明したでしょう?『行くところがないから泊めてあげる』って。ローラシアとはそれくらいの関係で特にこれといった関係はないの」 確かにシモンの島ではよからぬことを考えていたかもしれないけど、彼は彼なりに終止符を打った。 終止符を打ってまで私のもとを訪ねて来て行くところがないといった彼に家を提供しただけの関係で、彼とは神美だとか守護者だとかそういうしがらみは全くない。 骸くんの危惧するような状況は起こりようも無い関係が今の私とローラシアの関係性。 とはいえ上の空なのは本当だ。 骸くんが私の事を上の空だっていう原因はほかの人物にある。 そのほかの人物も男の人だから〈あの男〉っていう表現は間違ってないけど、指し示すものが間違ってる。 「シモンの島で君に何があったんです」 「………」 シモンとの戦いからまもなく半月が過ぎようとしている。 あれ以来両ファミリーはいい感じの仲を築いていて、友好的になってきたと思う。 あの戦いで両足を失った琉輝や大きく負傷した面々は私がどうにかこうにか回復させた。 藤見エル――改めエルとの戦いや未来での結城さんとの戦いで見せた繭を形作る糸には各属性の炎が流し込まれていて、包まれたものや編み込んだものにはその属性の特徴が宿る。 結城さんを縛った水色の繭は雨、エル戦での黄色の繭は晴といった具合にできている。 それを利用して琉輝の足も黄色の糸で切断された部分を覆ったことで完全に回復した。 とはいえ、治すのが遅れたからなのかじっと見なければわからない程度の跡が残ってしまったのは心残りだ。 …閑話休題。 私は私自身にあの時起きた出来事をまだ誰にも話していない。 リボーンくんにもクローンだとかの説明を求められたけど詳しく話すことはまだできていなくて、記憶がどうだとかの話もしなければならないのに何も出来ていない。 「鈴音、僕にも話せないことですか」 「………」 「鈴音?…………寝てしまいましたか。君は何を考えているんです、」 目を瞑って寝たふりを決め込む。 話さなければいけない。 でもまだ話す勇気が持てない。 お願い。 話すことが出来る日まで、私の抱えている秘密全てを話すことが出来る相手になるまで、もう少し待っていて。 よく聞きなさい。 これはお前の中の記憶の話です。 お前の中の記憶は一部修正され、お前の中に残っています。 それを解く鍵は六道骸が持っているでしょう。 六道骸がその鍵を手渡し記憶を解放させる気があるかどうかは分かりませんが、尋ねてみなさい。 それともう1つ。 修正された記憶にまつわる話ですが私が深く関与しています。 フェイ・ストラージアに成りすまし彼が反対した実験を推し進めたのはこの私です。 貴方の反抗的な性格を消し従順にするための薬を何本も注射したのも私です。 私は神美を蘇らせたいがために貴方の肉体が欲しかった。 それだけの為に貴方をどこまでも傷つけたこと謝りましょう。 ……申し訳、ありませんでした。 これまでの話が今の貴方にどれだけ理解できたことか…。 しかしいずれ分かるでしょう。 そして貴方は辛い記憶を思い出すことになると思います。 私が思う辛い記憶は貴方にとってどのような記憶になるかはわかりませんが、どうかこれだけは約束して欲しい。 私のようなものが何を言うと思うかもしれませんがこれだけは聞いて欲しいのです。 ―――貴方は、恋い慕うものを、信じていてください。 今まで貴方を苦しめたこと、最後の最後まで貴方を傷つけたこと。 今までの非礼全てを詫びます。 そして私のようなものでも祝っても良いのならこれから先の多幸をお祈りしていますよ。 今まで最大限に不幸だった貴方にどこまでも福が降り落ちることを祈っていましょう。 六道骸の握る鍵が貴方の全てに終わりを呼ぶことを祈って最後の言葉としましょうか。 手酷いことは沢山しましたが貴方に出会えて神美の言葉を聞けました。 感謝します、音葉鈴音―――……… 「………」 ふわりと香る匂いに包まれるようにして倒れ込む。 紅に埋もれるようにして空を見上げれば淡い色がたくさん降り落ちてくる。 橙、赤、青、黄、緑、紫、藍、黒、灰、白、金、藤。 濃い色でさえ淡い色と化し降り落ちてきては、紅に触れると水滴となり散っていく。 どうやら寝たふりを決め込むうちに、本当に眠ってしまったらしい。 ザッ…… 「鈴音ちゃん!」 「もう寒くはねーみてーだな」 「………雪、炎…」 「初めて僕らが出会った場所、だね」 「またこの景色が見れてなんつーか…あれだ、嬉しいぜ」 久々に出会った2人の背はすらっとしていて高くて、違和感を覚えた。 小人みたいな姿ばっかり見ていたから大きな姿を見ると変な気持ちがする。 でもそれだけじゃない。 それが2人の元々の姿なのかもしれないけど大きい姿の2人を見るといなくなってしまうんじゃないかっていう不安が強くなる。 小さいままでいてほしいって望んでも2人は困ったように笑うだけで変わってはくれないし、この先には恐怖しかない。 「いつまで寝転んでるつもりなの?」 「外はまだ昼だろー?」 ぐたりと寝転んで彼らを見上げている自分がとても小さく思える。 ゆっくりと身を起こし、視線を下げれば足元には紅いバラの花弁が敷き詰められている。 降ってくる淡い色の中にその花弁も混ざっているように見えた。 淡い色は花弁にあたると水滴となって弾け飛び、地面に染み込まれて消える。 そして新たに色として空から生み出されている。 私の世界は、変わってしまった。 私の世界は、元に戻されている。 「帰ろ、鈴音ちゃん」 「いつまでここにいるつもりだよ。お前はもう外に行けるんだぞ?いっつも籠りやがって……引き籠りかよ」 「………引き籠りでいい。私、ここから出たくない」 「「!」」 「もう何も思い出したくない。私は今の私のままで十分。変わっていこうだなんて思ってない」 これ以上何を知って何を思えばいいのだろう。 思い出せばきっと誰かが言ったように全てが終わる。 けれどその終わりはどちらの終わりなのだろう。 ―――思い出したら過去を断ち切れる? ―――思い出したら私はまた壊れるの? どちらの終わりとも知れない記憶なんか思い出したくない。 ここにいたら雪と炎が守ってくれる。 だから―――。 「雪、炎。私はここから出たくない…。だから帰っていいわ」 「………まずは視線を合わせようか。話はそれからだね」 「、…目なんか合わせなくても声が届けば十分でしょ」 「……………。 俺らがフェイ・ストラージアの目を支配してるも同然だからか。目を合わせれば思い出しちまうから目を合わせないのか」 もう疑問形ですらない。 断定されているそれが図星だからこそ返事を返すこともできず黙り込む。 私はもう何も思い出したくないし変わって行きたくもないのだから、早く帰ってくれないものか。 視線を逸らし続けていたら風が吹いて、淡い色の髪が揺れた。 今一番会いたくないのに雪と炎は何を考えているんだろう。 会いたいと望んだときは会わせてくれないのに会いたくないと望んだときには会わせてくれるなんて。 (フェ、イ……) 「鈴音ちゃん、」 視界の端に映る手に後ずさる。 勿論視線は合わせないし、合わせたら終わりだ。 私が幾ら後ずさろうと向こうの方の手が長いわけで、簡単に捉えられてしまうことは明白だ。 それでも逃げるのは私なりの最後のあがき。 ここであっさり捕らえられたら、私が今まで葛藤してきたものが全部なくなってしまうから―――。 「っ、いや!!触らないで!!……いやだってば……!なっなんで私が嫌がることしようとするの…!」 「鈴音ちゃん、我儘言わないで」 「わ、我儘…?今までならそんなこと言わなかったじゃない。どうして今頃……、っ、近づかないで!ねえったら…!」 「鈴音ちゃん、逃げないで」 「っ、やだ……やめて、よ。思い、出させないでよ……!」 もういやなのに……。 〈寂しい〉のも〈苦しい〉のも〈悲しい〉のも、いやなのに。 私の中の全てが、求めてはいけないものを求めてしまいそうになる。 別れたくないと悲鳴を上げたくなってしまう。 「忘れてはいけませんよ」 「いや……!いや…!」 「きちんとお別れは告げましたよね」 「ダメ、ですよ。もうこちらに来てはいけません」 「幸せになってください。過去の分まで、そして僕の分まで」 「僕は君の側にいますよ。知っていて見ないふりをするのは、もうやめないと」 「………う、…あ…あ…」 「僕の隠した記憶はあの霧戦の日、既に綻びが生じていた。それに対し自己の防衛本能が働き自分自身でそれを修復するように隠した。鈴音ちゃんの心は複雑で分かりにくすぎる」 伸びてきた腕の中に閉じ込められる。 ………そうだ、私は知っていた。 探さなくたって自分で隠した鍵さえ見つけてしまえば開けるのは簡単で、骸くんの手なんか借りなくたって、六道輪廻なんか見なくたって、知れてしまう。 私の探していたモノは自分で隠してしまっただけで、本当は身近にあった。 それを知らないフリして、見えないフリしていたのは私自身。 Dの言っていた記憶だってちゃんと私は覚えてた。 ―――私は怖くて、何もわからないふりをしただけだった。 「………、雪…炎…」 ふと気づいたら目の前にいたのは雪と炎の2人で、2人以外の姿はどこにもなかった。 さっきまで見えていたフェイは幻想だったかのように、私が夢を見ていたかのように、いなくなっている。 「僕らにも、何がいいのか分からない」 「教えてくれよ、鈴音……俺らどうすればいいんだ、」 私にだってそんなことは解らない。 今まで私に何が正しいか教えてくれていた貴方達に何もわからないなら、私にだってわかるはずない。 ただ解るのは、自分の意志だけ。 「もう、痛いのは嫌だ……。帰りたく、ない」 誰かと戦うのは嫌。 身を襲う痛みにはもう耐えたくない。 耐えなければならない痛みは、骸(かれ)に会えないことだけでいい。 向こうに帰ればまた戦いをしなければならない。 向こうに帰ればまた誰かを傷つけてしまう。 向こうに帰ればまた―――誰かを犠牲にする。 「ならば犠牲になるのが君であればいい話ではないか?」 「!?」 突然聞こえた声に振り向けば、男がいた。 変わった風貌でこの世界の中ではとてつもなく浮いている。 「なっ、君……!ここは僕らの領域だぞ!」 「てめぇ、誰の許可得てここに入って来てやがる!」 「そんなものより、君たちの悩みを解決してやろうと言っているんだ。素直に聞いたらどうだね」 「「………」」 私を背に隠して忌々しそうに男をにらみつけた雪と炎。 瞳に宿る殺気を物ともしていない男は余裕そうな表情で私を見た。 「貴方、誰?」 「名乗るほどのものでもない。傷つかず、痛い思いもせず、誰も犠牲としない、生き方を教えてあげに来た」 「……?」 「君が犠牲となればいい。君は私の求めている力を全て手にしている上に、彼らといる限り死なないとても貴重な体を持っている。これほど見事な対象者は初めて見るくらいだ。君が本気さえ出せば君の大事な人間たちを見逃してあげないこともない」 「どういう、」 「これを見たまえ。これが君のおかげで救われるであろう人間たちだよ」 「―――!!!」 「てめぇ……良い度胸じゃねぇか……」 「そんなものを見せたら鈴音ちゃんは……!!」 ふっと映し出されるホログラムたち。 誰も彼もみたことがある人ばかりで、私が男に従わなかったら何かの犠牲になることは明白だった。 もし私が彼に従えば、誰も犠牲にならないで済むのなら、それが一番いい方法だ。 「君は戦わなくてもいい。ただ見ているだけで、それは務まる。君に求めるものはそれだけだ」 「………分か 「「ダメだ!!」」 !!」 「あの男の言うことを信じないで、鈴音ちゃん…!あの男はっ……、きゃ!?」 「そうだ!あの男のしていることはお前が想像する以上にっ……、ぐっ!!」 (………!!?) 「音葉鈴音、全てが終わるまでこの2名は預かっておこう」 「雪!炎!」 ふっと消えてしまった2人の気配が感じ取れなくなる。 力自体は残っているのに気配だけなくなるなんて、そんなこと今までなかった。 2人を預かるだなんてことが出来る人がいるなんて………どうすればいいの? 不安になっていれば、男は私の心境を察してか否か頬を掬い上げて不敵に笑む。 「君が従うのなら悪いようにはしない。勿論、君の事もだよ」 「………、…………」 「出来れば返事は今すぐ聞きたい。こちらとしても準備がある」 「…私、は―――」 琉輝 「―――っ!!!」 「うわっ!!」 「……!?」 鈴音にカルト集団の事を聞きたくて、家に帰ってきた。 そしたらリビングにあるソファの上で鈴音が魘されてて、駆け寄ったらカッと目を見開いて起きるもんだから尻餅をついた。 「琉輝…?帰ってたの……?」 「いつつ……。まぁ今さっき、」 ドタタッ… ギィ…バタン 「………?なんだか騒がしいみたいだけど」 あたしの声に驚いたらしい綱吉が慌てて走ってくる声もして、今帰ってきたらしい亞琉の「沢田さん?」という声がする。 一緒にうちに来たのか芽埜とか獄寺の声も響く。 バンッ! 「琉輝…ッ!!」 慌てて開かれた扉の向こうには綱吉や、声の聞こえた面々が勢ぞろい。 鈴音は突然のことにきょとりと目を瞬かせていた。 「……あれ?何も、ない?」 「あ〜…ゴメン。さっきの叫び、驚いただけで特に何もなくて…だな…」 「全く、騒がしいものね。少しは大人しくしてもらいたいものだわ」 「す、すいません…」 「………。 いいわ、別に。貴方達がそうやって騒がしくしているのを見るのは嫌いじゃないから」 鈴音の機嫌が悪そうな声に綱吉は慌てて謝った。 いつも通りぐちぐち小言が飛びそうな雰囲気になって、止めに入ろうとしたけど鈴音はそうしなかった。 小さく笑い、まぶしいものでも見るかのように目を細めて、優しい声で言う。 (……、…鈴音…?) 違和感しか感じなくて、でもその違和感をどう口にしたものか悩む。 「それで?今度は何が訊きたいの?」 何も見えていなかった日 ガヤガヤガヤガヤ。 話が終わってもう夜も遅いから泊まって行けと、彼らを泊めることにした。 瞬間屋敷の中は騒がしくなる。 この騒がしさは嫌いではない。 「鈴音ちゃん、これ一緒に食べよ♪」 「なに?それ」 「じゃじゃーん!」 「……! 紀本、それは僕が大事にとっておいたチョコレートです。返しなさい」 「如月くんが食べていいって」 「如月、貴様…ッ!」 「主様のお口に消えるのですから、六道さんに食べられるより、チョコレートも本望でしょう」 「あーあー!お前らそんなくだらないことで喧嘩すんな!」 「ちょ、琉輝!?仲裁も良いけど、鍋!鍋見てて!?」 「お任せください十代目!料理くらい俺が!」 「え、ちょ、待っ…(獄寺くん料理下手でしょー!!)」 「(………骸様と亞琉、なんだか少し楽しそう……?)」 ……私の大事な人たち。 決して失いたくない、失えない、私の―――。 私は今の貴方たちを呪いから救ってあげられないし、その呪い自体に触れることも出来ない。 そんな私でも何かできることがあるのならやりたいと思うし、してあげたい。 「君が従うのなら悪いようにはしない。勿論、君の事もだよ」 「………、…………」 「出来れば返事は今すぐ聞きたい。こちらとしても準備がある」 「…私、は―――………何をすればいいか分からない、」 「ああ、そうだろうとも」 「それは…私に出来る事?もう痛い思いも、苦しい思いも、誰かを犠牲にすることもない道になる?」 「勿論。それどころか君は彼らの役に立てる。 どうだい?私の提案は未来(さき)の見えない君の人生にとって有意義な時間の使い方だと思うのだが」 「………、分かった。貴方の力になりましょう」 「………ごめんなさい、雪、炎。私、引き受けちゃった…」 「(………主様?)」 私に出来る事ならしてあげたい。 それがどれだけ過酷な道だったとしても―――。 戻る |