「い゛―――や゛ぁ゛ぁ゛―――!!!」

「うるさい」

「むごごご!!」




ズザーッとものすごい勢いで滑り落ちていく影。
口元を覆う大きな成人の手の平を退けて大きく息を吸えば埃っぽい空気が気道に入りむせる。
ゲッホゴッホと咳をする小さな影の口元を再び抑えた手の平を退けようとはしなかった。




「本当にここであっているのか………」

「だってこっちから声するんだもん…。っていうかこんな滑り台みたいなの作ったの誰!?なにここ!!」

「知らん」

「むー……ローラシアさん秘密主義ー」

ローラシア「置いていくぞ」

「わー!待ってー!こんな暗いとこに芽埜1人おいていかないでー!」














*     *     *















鈴音「あ……、」


「勝敗は決した」


鈴音「!!」




現れた復讐者は亞琉とアルト、両者の首に輪をかけ、鎖を絡みつかせた。
グン…と首を引かれて薄らと目を開いた2人の体の傷はアカヤシという特性上血は止まっている為怪我に対する心配は特にないだろう。
亞琉の内臓破裂もそう長い時間はかからず治るだろう。
2人の体はそういうふうに出来ている。




復讐者「両者同時ダウンにつき両者共に敗者とし牢獄に連れてゆく。ではこれよりジョットとコザァートより預かった第5の鍵≠授ける」

獄寺「第5の鍵≠ヘ……」

琉輝「本……?」

復讐者「ボンゴレとシモンの過去へ誘え」














*     *     *















「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。」




言葉と共にチェスの駒が乱雑に倒されていく。
暗闇の中に浮かび上がる縹色の長髪の男性の瞳は暗く濁りながらチェス盤を睨みつけていた。
夢も希望もない人を恨み続けるばかりの生活を送っている男の名前は―――。




「ローラシア様、ご客人でございます」

「客ぅ?俺に客だって……?帰せよ、じゃねーとお前を呪ってコロス」

「ひっ!!……で、ですが…」

「もう入ってきてるアルね」

「!!??」

「暗い気配ホントにあったヨ!」

「なん、だ……お前、」

「ローラシアいうネ、お前?私は神美。李神美。お前、救いにきたヨー!」




にっこり。
笑った神美に恐れ戦いたか、ガタン!と音を立てて椅子を倒す。
ローラシアはそんな己に舌打ちを零すと近くにあった本を手にとった。
それこそ復讐者が鍵として提示した本そのもので、それはローラシアの呪術本であった。

そこから溢れ出す黒い呪術は神美の前に為すすべもなく軽々と解かれていく。
黒く強大な呪いですら神美の前ではひれ伏し倒れる。
目を閉じながらも自身の術すべてを打ちのめす神美を目の前にして、為す術がなくなるのは時間の問題だった。

呪術が役に立たないと知るやいなや立て掛けられた剣を手に取ると神美へと斬りかかる。
しかしそれすらも見切られていたかのように防がれてしまったのだ。
彼女の操る式神によって。




「なん、で……」

「ローラシア、恨んで生きるのも人生、楽しんで生きるのも人生アル。どうせなら楽しんで生きたほうが人生お得ヨ」

「俺にはっ……楽しく生きる術などないッ……!人間など地位名誉なければ寄り付かないゲスの生き物だ…!貴様もそうだろうッ…」

「私は、目が見えないからわからないネ。地位名誉なんか目に見えないし、その価値もわからないヨ」

「………クソ、」

「ローラシア、私と一緒に来るヨロシ!私と楽しく生きようじゃねーかヨ!」




伸ばされた手と眩しいばかりの笑顔。
呪術本をドサリと床に落とした彼は、神美の後ろに後光が差したかのように見え、ゆっくりとその手を取った。














*     *     *















芽埜「ローラシア、今、記憶が見えた。………貴方の、」

ローラシア「そうか」

芽埜「呪術は捨てたの…?」

ローラシア「……さぁな」




自分の前を歩くローラシアの視線に左側を指させば、その方向へと曲がる。
ローラシアの表情から読み取れることは何もない。
芽埜の心直感はなんの反応も示さなかった。














*     *     *















ランボ「こらーツナ、遊ばんかー!!しーんとしててつまらんぞー!!」

獄寺「コラアホ牛!!静かにしやがれ!!」




洋館を出た一行は再び歩き続けていた。
呆然と歩き続けるツナの後ろで獄寺が琉輝を背負い、鈴音がランボを抱いて肩にリボーンを乗せる。
島に来た当初からすればだいぶ人数が減ってしまったものだ。

ツナは炎真との戦いが終わった後から一言も話すことなく、リボーンも黙り込んでしまった。
リボーンは1人考え込むようにして顎に手を当てており、とてもじゃないが話しかけられる様子ではない。
獄寺、鈴音、琉輝の3人は気まずいまま、黙って足を動かすしかない。



その時―――。




バララララ…


「「「!」」」

「!?」

「おっヘリコプターだもんね!!」




音を立てて島の上空を通り抜けたヘリコプターはツナ達の上空で少時間止まっていたように見えた。
しかし暫くすると発進してしまい詳しいことを知ることは出来ない。
誰かがこちらを見下ろしていたような気もしたが確証もなく、獄寺は『気にしてたってしょうがない』とツナに話しかけた。




ツナ「………………俺…自分が正しいことをしてるのかわからなくなってきた…」

獄寺・琉輝「!!」

ツナ「炎真たちのやり方が正しいとは思わないけど、でも…もし自分が炎真と同じ立場にいたら同じことをしてしまうかもしれない…。自分の家族を殺した奴の子供が目の前にいたら、黙って見ていられないんじゃないかって!!」

獄寺「ですが十代目!!まだ古里炎真の言ったことが真実かはわかりません!!」

ツナ「炎真は嘘を言ってない気がする…」

獄寺「え?」

ツナ「初めて同じレベルで戦えるようになって、拳から炎真の悲しみが伝わって来るのがわかったんだ…」

獄寺「…そ…そんな…」

リボーン「確かに俺もあれが演技だとは思えねえ。だが炎真は嘘は言ってねーとして、これが本当に炎真たちの望んだシナリオだと思うか?」

ツナ「え…?」

リボーン「あのタイミングで我を忘れた炎真が飛び出してきたってのがどうも引っかかる。それに知花があの場に来なかったこともおかしいとは思わねーか?俺はシモンの背後に〈なにかドス黒い影〉があるような気がしてならねえ」














*     *     *















「準備は出来ましたか?クローム」

クローム「…はい…D様…」

D「まったくもってよく似合う。早くお前のマインドコントロールを慣らしたい。常にそばにいてもらおう。


ヌフッ♪要するにデートねvほ〜らっ、ピタッとムギュッと寄り添って〜v」

クローム「…はい…」














*     *     *















獄寺「リボーンさん、さっき言ってたドス黒い影ってのが気になるんスけど…」

リボーン「なんの確証もねーが、どーもしっくりこねーんだ。ツナも言っていたがシモンファミリーの1人1人の純粋さと集団としてのひどいやり方にズレを感じる。奴らは一枚岩じゃねーのかもしれない。俺はそう思い始めてる」


「ふざけたことをいうな!!」


鈴音「!」

「シモンは一つに団結している!!」

獄寺「きやがったか」




行く手を阻むように木の陰から現れたのはアーデルハイト。
炎真との戦いの際に『次に会うときは私が相手だ』『そのときは復讐者の掟に従い誇りをかけて勝負する』と宣言したとおり、アーデルハイトは現れた。




アーデルハイト「約束通り決闘を申し込む!!」

獄寺「よし!俺が相手になってやる」

リボーン「やめとけ。お前はSHITT・P!戦で炎を使い切ってガス欠だ。V.Gが使えねえはずだ」

獄寺「うっ…」

リボーン「アホ牛が運良く勝てる相手とも思えねーしツナもあの調子だ…。琉輝も怪我で戦えねえ…」

獄寺「と、なると……」

鈴音「!」




獄寺の視線が向く先は自ずと限られる。
今この時点で無傷で戦えるのは鈴音しかいない。
獄寺の視線から逃れるかのようにランボを抱きしめた鈴音の体はよく見れば小刻みに震えている。

それだけで理解するのは容易い。




獄寺「お、まえ……何怖気づいてんだ!!今この場にはお前しかいねーんだぞ!!」

鈴音「っ、でも、私には……出来ない。


了平くんみたいにまっすぐぶつかる強さも、
琉輝みたいに相手を正せる心の強さも、
隼人くんみたいに考えながら戦う能力も、
亞琉みたいな特殊な力や技術も、


……私には、ない…」




ランボを抱きしめたまま俯いた鈴音に舌打ちをこぼす。
その様子を見ていたアーデルハイトは鈴音から視線を逸らすとツナを真っ直ぐに射抜く。




アーデルハイト「復讐者の掟に従い互の誇りをかけて勝敗を決する。沢田綱吉、貴様の誇りを言え!!」

ツナ「…え…?誇り…!」

アーデルハイト「迷うことなどないはずだ。貴様の体に流れる残虐な血こそが貴様の誇りだろう!!」

ツナ「!!」

獄寺「てめっ言わせておけば!!」

琉輝「なんてこと言いやがる!!」




獄寺が噛みつこうとすれば、再びあの音が聞こえてきた。
バララララ…というヘリコプターの駆動音だ。

ヘリコプターはツナ達の後ろに現れものすごい風圧をかけると少し離れたところへと浮かび上がる。




アーデルハイト「何者だ!」


「では、ご武運を祈ります」

「うん」




カン…とかすかな音をさせてヘリコプターから現れたのは見慣れた漆黒を羽織る男の姿。




黒い影




鈴音「あれは………」




漆黒の上着が風でぶわりと膨らむ。
鈴音の脳裏にはある記憶が浮かび上がっていた。




「何、」

「これ、壊すなり好きにして」

「!
ないんでしょ。そんなもの」

「!
ふふふ、ふふふふ。
ああ、やっぱり貴方はワザと乗ってくれたのね」

「今なくても、君ならやりかねないと思ったからね」

「やらないわよ、そんなこと。
貴方が彼女を大事にしているのは、目に見えて明らかだもの」





鈴音「    」




彼女の口は、確かに彼の名前を紡いだ。




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