君と私の物語 放課後になってもつーくんは教室に来なかった。 カバンは更衣室にあるのか、はたまた帰ってしまったからないのかはわからない。 けど万が一学校にいた時の為に暫く学校を探して回ることにして、カバンを手に取る。 入学するときにつーくんとお揃いで買ったキーホルダーが揺れる。 「(おそろい……、ふふ)」 人生でつーくんとお揃いにした回数は少なくない。 寧ろお母さんの趣味で幼い頃の服はお揃いだったり、色違いだったり、ペアルックだったりと沢山のものを共有してきた。 つーくんと同じ場所で同じように生活して、同じ時間を過ごしてきた。 ―――それなのに全然満たされてないのは、どうしてなんだろう…。 「……ここにもいない…」 空き教室、校舎裏、体育館、更衣室(中は見てない)……etc.. つーくんのいそうなところは全部探した。 あとは屋上だけだったから階段を上がっていく。 古びた音を立てるドアを開けばそこには先客がいた。 緩慢な動きでゆるりと振り返ると、私のことを鋭い眼光で捉えて離さない。 「君……なに?」 「………」 声を発した男の人と、静かにこちらを見つめる女の人。 学ランとセーラー服という並中の指定制服ではないそれは〈風紀委員会〉の証だ。 並盛中風紀委員会といえば不良の頂点だという〈雲雀恭弥〉という先輩が委員長をしている怖い委員会だったはず。 こんなところでまずい人たちに遭遇してしまった。 「ねぇ」 「あ、…わ…私っ」 「―――沢田小菜。ぼくのクラスメイトだよ、恭兄」 「ふぅん」 「あ…、え…?」 ―――くらす、めいと? 彼女のようなセーラー服がいたら目立つ。 けれど入学して1度も彼女を教室で見たことがない。 困惑するしかない私を見て、彼女はくすりと笑った。 トン…、シューズの音が響く。 「〈雲雀美亜〉。一応クラスメイトなんだけど、ぼくの名前を聞いたことはないの?」 「雲雀……さん? あ……そういえば。不自然に席がいっこ空いてたり、先生が朝礼の時名前を飛ばしてたり…名簿も1つ飛ばしてかいてあったような…」 「ぼくのことだね。教室には入学して以来行ったことがないから」 「あ…、そ、そうなんです、ね」 「………どうしてそんな話し方をするの?変な子」 くすくす笑う雲雀さんはとても綺麗だった。 その後ろで興味なさげに背を向けた雲雀先輩―――あ、れ? 「雲雀……って」 「ぼくは恭兄の妹だよ。怖い?」 「え…?」 「周囲の人間は〈恭兄の妹だ〉ということだけで怖がるから。君もそうなのかと思って」 「っ……、私は!」 「?」 「私は雲雀さんのこと、綺麗な人だと思っ「っふ」…?」 雲雀さんが破顔した。 子供のようにくすくす笑う彼女を見て雲雀先輩が呆れの混じった表情になる。 私はもっと困惑するばかりで、四方八方に視線をさまよわせるしかなくて。 その様子を見て雲雀先輩は本当に呆れたようにため息をつく。 近づいて来ると雲雀さんの頭をコツンと叩いて、彼女が笑うのをやめさせた。 ―――あ、よく見ると2人って…純日本人みたいな美人さんだ…。 「小菜」 「……っえ?」 「名前で呼ばれるのはいや?ぼくはそう呼びたいんだけど」 「えっ?えっ?」 「名前くらい好きに呼ばせるに決まってるでしょ。なんて呼ぼうが僕らの勝手なんだから」 「でも確認くらいはしたほうがいいと思うよ、恭兄」 「………どうなんだい?沢田小菜」 2つの双眸に見つめられる。 ドクバクとうるさい心音が耳元で聞こえるような気がして、汗をかく。 ここで拒否なんてしたら何をされるかわからない。 ―――で、でも、名前で呼ばれるなんて心臓に悪い〜〜〜っ!! 「……ゃん」 「「?」」 「美亜ちゃんと恭弥くんって、私も呼んでいいなら!」 「「、」」 ………ひゅううう。 屋上に冷たい風が吹きすさぶ。 まだ春だっていうのに冬の木枯らしのような冷たさで身が震える。 どうしよう、私なにかいけないことを言ったんだろうか。 「…ふふ。やっぱり面白いね、君。ぼくは構わないよ」 「……好きにしたら。なんと呼ぼうが君の勝手さ」 「ぼくらが呼ぶのもぼくらの勝手なんだから、君もそうするといいよ」 扉に手をかけた恭弥くんと美亜ちゃんが屋上を出て行く。 どうやら見回り終了らしい。 がくんと膝から力が抜けて座り込めば、自然とへらりとした笑みが浮かんできた。 「ああ、もう」 ―――泣きたい、ものすごく。 「あの弱そうなのに何を見出したの」 「特に何もないよ」 「ふぅん」 「ただ、ぼくのことを〈綺麗だ〉なんて言ってくれたのは彼女だけだな、と思って」 「もう1人いたでしょ。美亜を可愛いだのなんだのいう子が」 「あれはダメだよ。本心じゃない。世渡り上手な計算高い彼女の〈お世辞〉だから」 「そう」 「さ、見回りを再開しよう。 ………ところで小菜はどうして屋上に来たんだろうね。もう放課後なのに」 「さぁね」 |