君と私の物語



俺、沢田綱吉は入学以来テストは全部赤点、スポーツは俺のいるチームはいつも負け。
そんなこんなでついたあだ名は〈ダメツナ〉。
人生で唯一他人に羨ましがられることは妹が並中のマドンナ笹川京子同様にモテている沢田小菜だってことだけ。




「つーくーん」




当の本人は全く気付いてる様子もないし、学校じゃ俺にべったりだから彼氏ができる様子もないんだけどね。
俺はそれがちょっと嬉しかったりするわけだけど、これは絶対に本人には言ってやんない。
絶対調子に乗るから。




「また体育で負けて掃除押し付けられちゃったんでしょ?私も手伝うからね!」

「ん、サンキュ」

「ううん。つーくんのためだもん」




そう言いながら掃除用具入れからモップをとってきたちいが床を掃除し始める。
倣うようにしてモップをかけていけばいつもと同じように半分の時間で終わった。
1人でやるより2人でやったほうが早いのは目に見えてるんだけど、やっぱり気分が違う。
疲労感の問題かもしれないけど本当に助かった。




「っふう。やっと終わったねー」

「…サンキュ、ちい。こんなダメ兄貴でごめん…」

「なんで謝るの?つーくん。私達家族なんだから当然でしょ?」




にこにこ笑うちいにほだされていく。
俺はこの笑顔に救われてる。




「あとでなんか奢ってやりたいけど、俺金欠なんだよなー…」

「ふふっ。何もいらないよ、つーくんが私のそばにいてくれればジューブン♪」




包み込まれた右手と、まっすぐに見つめてくる双眸。
母さんに似てるのかちいには優しく包み込んでくれそうな包容感がある。
左手で頭をぐしゃりと撫でてやればちいは嬉しそうに破顔した。




「あっ……。
ちい、もういいぞ。教室帰れよ」

「でも……」

「お前まだ着替えてないだろ?それにもうすぐHRも始まるし」

「う、うん…。つーくんも早く着替えて教室来てよ?待ってるからね」




高い位置で結った髪の毛を揺らしてかけていくちいの背を見送り、座り込む。

こんな落ちこぼれの俺が学校に来てるのなんて〈笹川京子を見るため〉以外に何があるんだか。
何をしたって楽しみは感じられないし、何をしたってうまくできないし、何をするにしたってやる気が出ない。
そんな俺が唯一夢中になっているものが笹川京子という女子生徒。




「(今日も可愛いよなぁ…、)」




体育館の窓から見える彼女は親友の黒川花と一緒に歩いていて、楽しくおしゃべりをしている様子だった。
ぼうっと見とれて、京子ちゃんが俺の彼女になったらどんなに幸せかを考える。
何よりもあの無邪気な笑顔を向けられるなんてサイコーな気分になれるだろう。




「俺なんか、見向きもされないだろうけど」




呟いた言葉はだだっ広い体育館に反響することなく消える。
俺もこんな存在なんだろうな。
漫画で言うところの〈モブ〉ってやつかも、―――なんて。




「………あれ?」




暫く彼女を見ていたら彼女の名前を呼びながら走ってくる1人の男子生徒がいた。
黒川はそれを見てイタズラに笑って去っていくし、その様子を見ればどんな鈍い奴でもわかるだろう。


―――やっぱり剣道部主将の持田先輩と、付き合ってたんだ……。




「もー学校来る意味ないじゃん。……帰ろっと」




ちいには悪いけど、今から教室行ってさようならなんてする気分じゃない。
人生初の失恋ってやつなんだから俺の傷心具合は半端ないはずだ。
そうに決まってる。




「………でもさほど傷ついてないんだよなぁ…」




そんなに本気じゃなかったってことか。
俺ってやっぱりなんにも本気になれないんだな……。



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