最愛なる厄日


「………」

「いい加減どっかいきましょうよー、足疲れましたー」


足元でギャーギャーとうるさい少女に拳骨を一つ落とせば『うごおおお』と蹲ってしまった。
そんなに強くやった覚えはないけど、ま、いっか。


「あ、れ……お、お前…!」

「!、そうか……もう、十分集まったっつー事かのォ?」


「…はい―――自来也様」


振りかえって微笑めばナルトが驚きに目を見開いた。
そりゃあそうだろう。
3年前里抜けをしたと思っている女が小さな少女を連れ門前に立っていれば仕方ないよね…。


「カイア…何しに来たんだってば」

「帰ってきたの」

「は?」

「帰還したって事」

「元々この娘は裏切ってなどおらんかった」

「……えええええ!!??」


勿論最初は裏切る気だった。
でも、そう出来ない訳が出来たから……。
あーぁ、本当に駄目だなぁ、私。


「じゃあ…行く場所が在るから。行くよ――カルラ」

「カンナです!!!」


あれ、そうだっけ?
でも、初めの自己紹介でカルラって…あれ?
まあいっかと自己完結してカンナを抱きかかえ火影邸へと走る。
綱手様に帰還の報告をしなきゃ、そしてあの人に会いに行こう。
まず一番に会うのはあの人がいいけど、先に帰還の報告をしなきゃあの人が疑われてしまうから。


「失礼します!」

「待ってたよ」

「…はい。闇月カイア、及び白宮カンナ…只今帰還いたしました」

「…その少女がカンナかい?」

「はい。私の―――弟子です」

「弟子ィ?一体何で…」

「あたしの母さんを師匠が治してくれたから。あたしは、師匠の下で医療を学んで自分の故郷で人を助けたいの」


カンナはまだ9歳なのに志だけは立派だ。
だから、連れて歩いて此処まで戻ってきた。
此処まで来たら綱手様に任せてもいいんだけど……愛着湧いちゃったのかな、手放せない。


「そうか。いい医療忍者になれよ!」

「っはい」


にっこりと笑って綱手様に笑いかけたカンナにくすりと笑みを漏らし、シズネさんにカンナを預ける。
此処から先は私だけの時間だ。
あの人を探そう、私を待ってくれているあの人を―――。


「…カイア、ちゃん?」

「!!」


火影邸を出た辺りで名前を呼ばれた。
振り向けばそこには髪を下の方で結んでいるスザクの姿があって……。


「…ただいま」

「っ、おかえりなさい!もー、会いたかったー!!」

「わっ」


ぎゅうと抱き締められる。
もう、記憶を封印されているって言うのに元気だなぁ。
スザクの笑顔は何も変わってない。
変わったといえばちょっと大人びただけ。
イタチが見たら…喜ぶんだろうなぁ…。


「此れから何処に行くの?」

「あの人……カカシ先生を探しに行く」

「ふうん。じゃあうちも行くー!」

「いいよ。じゃあ、行こ?」

「うんっ」


髪伸びたねーとか今までどうしてたのーとか他愛無い話をしながら街を歩く。
二年ぶりの街だけどなんも変わってない。
変わったのは顔ぶれ、かな。


「おいろけの術!!」


…なんか何処かで聞いた事のある術なんだけど。
そろりと道角から除けば其処には黒髪のナイスバディの姿。
ボンという煙と共に現れたのは木ノ葉丸くんだった。
……えー……。


「どうだコレ!かなりのボン!キュッ!ボン!だろ!」

「フフフ…」

「!」

「…木ノ葉丸、俺ってばもうガキじゃないんだぜ。お前もそんな術やってるようじゃ駄目だってばよ…」

「………」


何だか寂しそうな顔をした木ノ葉丸くん。
そりゃあそうだよね。
師でありライバルだと思ってた相手が修行に出てそんな事を―――


「そんな術では生温いってばよ木ノ葉丸!見よ!新開発した俺の新エロ忍術!!いくぞォオオオ!!!」


―――は?


「…このバカ―――!!!」


ドゴ!!とサクラに殴り飛ばされたナルトに哀れと言う感情も浮かんでこなかった。
自業自得だよ、あれは。
何やってるんだか……、バカ?


「中身は全く成長しとらんのかィおのれは!!二年ちょいぶりに会って立った二分ちょいで突っ込み入れさせんなコラ!!さっきお前に抱いたキラキラ乙女心は何処へ持ってきゃいいんだァ!!あァ!!なんか少し寂しいわけあるかァア!!」


うんうんもっと言ってやって、サクラ。
木ノ葉丸くんが怯えないくらいの勢いで。


「…自来也…ナルトの奴…この二年ちょいで益々お前に似てきてないか…?」

「(あのキレ具合とあの怪力…見事な綱手二号を育てやがったのォ…コイツ)」

「あ!そういえばカイア帰ってきてるんだってばよ!!サクラちゃん会った?」

「は?カイアは里抜けしたんでしょ?」

「おほん、言い忘れていたがカイアの処分は長期任務扱いにしている」

「ど、どういう事ですか?」


二年前のあの日、私に渡された巻物の中にそのウマが書かれた紙がはいっていた。
私がする事を的確に見通していたらしい。
必ず帰ってくるようにと私の事を長期任務扱いにしてくれたのだ。
私がお婆ちゃんの孫だから…なのかな。
まあ……私が死んだほうが、世界的にはよかったのかもしれないけど……。


「ホラ、そんなとこで除き見してないでこっち来なさいよ」


ちょいちょいと先生に呼ばれた。
うう…見つかってたよ…。


「!、カイア…」

「た、ただい…、っ」

「う、うう…っ」

「!、サクラ……」


抱きついてきたサクラは涙を流していた。
ああ、そっか…心配、かけちゃったんだね。
ごめん、ごめんね……サスケの事を仲間だと言った私は貴方たちの事を捨てたも同然だった。


「心配かけて、ごめん」

「バカ…!」

「ありがとう、サクラ……」

「っ…うん」

「じゃあ、うちも抱きつく――!!!」

「スザクはさっき抱きついたでしょ!このおバカ!!」


ゴンと拳骨を落とせばスザクは涙目になってうずくまった。
ハァ……こういうところは全く変わってないや…。


「おかえり、カイア」

「!!、…っはい」


カカシ先生に笑いかけられて涙が出そうだった。
嗚呼、本当に私は……この人が好きなんだ。


「…よし!懐かしむのはその変で終わりだ。カカシ、」


パタンと十八禁の本を閉じた先生が話しだす。


「いや〜久しぶりだね〜」

「「「……!」」」

「これからお前ら三人はこの俺と同じ任務をこなして行くチームになる。昔と違い今はもう先生でも生徒でもない、対等な木ノ葉の忍だ」


チャリンと目の前に出された3つの鈴に確信する。
今から行われるのは昔と同じサバイバル。
ルールも同じ、殺すつもりでいかないと勝てない……そう言う試験だ。


「どんな手を使ってもいいから俺から鈴を取ればいい。期限は明日の日の出までだ」


演習場へと移動した私たち。
懐かしい場所…なんだけど、昔みたいにナルトを引導したくないなぁ。
まあ、大丈夫だろうけど。


「ああそういや、ここはお前たちの最初の演習の場所だったっけな」

「第七班…」

「四人一組かァ…」

「懐かしいなぁ…」

「…あの時は……サスケもいたっけな…」


……サスケ、か。


「「………。」」

「「……!」」


 ズゥ――ン


「「((汗」」


ブツブツを何かを呟き続けているナルトとサクラに軽く引く。
サスケの名前が禁句になっちゃったよ…。
そんな時先生がパタンと本を閉めた。


「へへ…今度はその本読みながらやらないの?カカシ先生」

「もう読み終わっちゃったんですか?」

「別に読んでてもいいんですよ?余裕でしょう?」

「いや…楽しみは後にとっとこうと思ってね。それに…まァ、今回は何となく…―――」














―――俺も少し本気を出さないといけない雰囲気だしね














その直後、軽く風が吹いてナルトが動き出した。
手裏剣を数枚投げるが軽がると避けられ、反撃される。
初めの一投を避けた直後に襲う二投目。
空中での移動手段に影分身を使って上手く避けたところで風魔手裏剣へと変化させる。
だが、その風魔手裏剣を昔のように首筋に向かって構えられた。


「(へぇ…)」


ナルトも成長しているようで影分身を使い背後で先生の背にクナイを突きつけている。
影分身の使い方もタイミングも凄く上達してるみたい。
二年前私がチャクラ糸で操ってたナルトから随分成長してる。


「ま…せっかちなのは変わりないか…」

「へへ…」

「(成長したな…ナルト)じゃ、スタートだ」

「「「!」」」


言葉と同時に消えた先生。
右、上、左…後ろでも、ない。


「(どこでもないなら…)下ァ!!」


 ドコ!!!!!


「うわぁ!(……え?)」


目が文字通り丸くなる。
バカみたいに開いた口が塞がらない。
え……ええ…?
じ、地面が陥没した…??


「見ぃつけた!」


最大チャクラを一気に体内で練り上げ瞬時に拳に全集中……相当緻密なチャクラコントロールがなきゃ出来ない技だ。
医療忍術に怪力って……いや、私もやろうと思えば出来るんだろうけど……流石に…。
…っと、ボーッとしてるわけにはいかないよね。


「じゃあ、私もやろうかな!」


あの日壊れた雪化粧をバージョンアップさせた人傀儡―――湯音(ユノン)を巻物から出す。
これは完全私のオリジナル傀儡だ。
サソリさんとは2年くらい文通しかしてないしね……。
よし、ここはあの掛け声で行こう…!


「…ソォラァ!!!!」

「!!!」


――千手操武!!!


サソリさん程ではないけれど湯音の腕につけた札から無数の腕が出現する。
後はそれを伸ばして先生を捕らえれば終わり。
毒についてだけど、今回は勿論抜いてある。
殺しちゃったら駄目だしね。


「…っと、危ないね…」

「っちぇ…」


やっぱ捉えきれない、か。
私もまだ未熟だなぁ……ロープつきクナイはやっぱつけとくべきだった。
それに痺れ毒くらいは仕込んどくべきだったかも。
闇袮(あんねい)・光袮(こうねい)……は禁傀儡だから、駄目…だもんね。


「よし今度は俺の方からも行きますか」


―――――――――――――――


―――――――――


―――


「ハアハア……分かってはいたけどやっぱ写輪眼ってとんでもない代物ね…。けどそれ以上に先生の印を結ぶスピード…速すぎて近付けもしない…とりあえずあの両手をどうにかしないと鈴どころじゃないわね」

「ああ…カカシ先生ってばやっぱムチャクチャ強えーってばよ」


シカマル以上の頭、キバ以上の嗅覚、サスケ以上の写輪眼、リー以上の体術。
でも、必ず弱点は有るはずだよね。
それから3人でじっと考えた。
先生の弱点弱点弱点………何だろう。
考えれば考えるほど分からなくなるこの感じは!!!


「あっ…!あった…弱点…!」

「ウソ?!」

「ほ…ほんとにィ…!?」

「フフフ…サクラちゃん、カイア!今までのカカシ先生を思い出せば分かるってばよ…」

「勿体つけなくていいから…弱点って何よ、ナルト!」

「ニシシ…それってばね…」


ナルトから弱点を聞いた私達はナイスな案だと思いこっちから仕掛ける事にした。
ナルトの案なら耳も目も塞げるし、そのスキをつけば…いける!!
いや、別に正攻法で取れない事もないけどチームワークが邪魔をして……ハァ…。
サソリさんとデイダラとならうまくいくのになあ…なんて思っても仕方ないか!


 ガサ…、


「!(ナメられたもんだ。真っ直ぐ突っ込んでくるなんてな…)」

「今よナルト!」

「行くぞ、カカシ先生ェ!」

「!」

「イチャイチャタクティクスの最後のオチはァ!実は、主人公がァ…」

「!!!(な…なにィ!!あ…あぶない!!)」


バッと耳を塞いだ先生だったが写輪眼の所為で口の動きが読めてしまったらしい。
同時に目を閉じた先生の腰から簡単に鈴を奪う事が出来た。
ナルトとサクラに鈴を渡したときチリィ〜ンと鈴の音が鳴る。


「あっ」

「へへ…忍者は裏の裏を読むべし」

「ねっ、先生!」

「一対一だったら…毒薬で倒れさせて取る事出来たんですけどね」

「「「………。」」」


あれ、何でそんな目で見るの?
ねえ、何で二人で先生を慰めてるの?
え、ええ…??


最愛なる厄日


俺、危うく殺されるところだった…。



 
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