あぁ、軋む音が聞こえる、
ある日俺は夢を見た。
沈むだけの夢。
ずっとずっと暗闇の中を落ち続ける。
悲しかった、
苦しかった、
辛かった、
痛かった、
怖かった、
暗かった、
助けて、欲しかった――…。
今までのどんな言葉より、傷より、何よりも恐ろしい夢だった。
そこから見えたのは、月明かりだけ。
其れを頼りに手を伸ばしたら、誰かの手が伸びて来てそっと俺を引き摺り上げたんだ。
「あっ、起きた!!!!」
「、スザク…?」
「うん。ベンチで眠って魘されてて、手を伸ばされたから掴んだの」
スザクは『そうしたら起きたんだよー』と笑った。
「……なぁ、スザク」
「…ん?」
「お前は、カイアの友達なんだろ?サソリとの関係とか、知らねェか?カイアの事も助けてやりてーんだ」
サクラちゃんに復讐するとか言ってたカイアの目は何処か苦しそうで、辛そうで…。
「いいんだよ…ナルト。コレが、私の…望んだ、道だ」
「…ハァ…ハァ……私は、自分から独りになる事を望んだ…それだけだ」自分から孤独になろうとしてる。
カイアにはサスケとは違ってもっと暗い…でも、俺に近い何かがあって…。
エロ仙人なら何か知ってるんじゃないかと思ったけど、訊けねェし…訊いちゃいけねー気がした。
だからばあちゃんに訊こうかと思ったけど、ばあちゃんも何処か辛そうで訊けなくて…どうすればいいのか、もう訳分かんねーんだ。
そんな事思いながら寝転んだら、あんな夢を見て…スザクに起こされちまった。
「カイア…、ちゃんの事はうちもあんまり知らないよ。ただ、……カイアちゃんは家族を大事にする子だから、うん…」
「…スザク…?」
何か、スザクも変だってばよ。
何か思い詰めてるみたいな…。
「それくらいしか、分からないや。っじゃあね、ナルト!」
地面を蹴って近くの屋根に飛び乗ったスザクが直ぐに見えなくなる。
カイアもスザクも、一体何を思ってるのか俺には全く分からねェ。
……あーぁ!考えたって無駄だってばよ!
「大体俺は体動かすほうが得意だっての」
頭使うのは苦手だ!
どっちにしろ腕ずくで止めりゃあ良いだけだろ!
やってやる!
「…、…」
「お前は、カイアの友達なんだろ?サソリとの関係とか、知らねェか?カイアの事も助けてやりてーんだ」知ってるよ……、知ってる。
カイアにとってのサソリがどれだけ大事か、知ってるよ。
サソリも含めて暁全員がカイアの家族なんだって分かってる。
だから、だからうちは余計どうすればいいのか分からなくなるんだ。
「カイアにはとある場所に行ってもらって、スザクには暁を出て貰う」
「……ハイ?」
「スザクには"うちは"として木ノ葉内部に戻って貰うだけだよ」
「お前ハ"ウチハ"ノ上ニ、犯罪者デモ何デモナイ普通ノ子供ダ」
「で、でも、うちだって…!」
「俺たちと一緒にいたいのは分かる。だが、お前はもう来るな、スザク」
「に、兄、さん…?」このままじゃあ、カイアの敵になる。
その上、兄さんとも戦わなきゃいけない。
「お前を見てると…苦しいんだ…。どうしようもなく…。胸元がきゅっと締め付けられるように…」
「にい、さ「苦しくてしょうがない」…何で?」
「お前がいつまでも純粋すぎるからだ」
「うち、純粋…なんかじゃ…っ」
「お前は汚れを知らない…。この世の汚れを知らないからこそ俺はお前が好きだ」
「兄さん…。うちは、汚れてるっ!!父さんや母さんやサスケがこんなになっても…うちは…っ…全然苦しくないもの…。非情なんだよ…ッ。うちは、結局…この一族をこの家族を愛してなどいなかったんだ…!!!」
「…俺もか…?」
「兄さんの事はね…好き…大好き…。ごめんね…ごめん、ね…こんな、汚れた奴で…」兄さんが言う通りなら、うちは犯罪組織なんかにいたら汚れてしまうのかな。
ううん、それでいい。
違う、それがいいの。
だってうちは元々汚れてる。
「おい、スザク!!!」
「キ、バ……ごめ、ん…」
「っおい!!!!!!」兄さんがいてくれるなら、カイアや皆がいてくれるなら……うちは、それがいいって、思ったんだもん。
苦しくて、苦しくて、苦しくて…!!!
「会いたいよぉ…ッ」
でも、一人里を抜けて無事に皆の元までいける自信がない。
どうすれば、どうすれば、いいの、
「助け、て、カイア……、」
分かんないよ、分かんないよ。
うちはどうすればいいの、ねえ―――…。
「とうっ!!」
ズザァッ!!
「ひ、酷いっスよ、カイアさ〜ん!」
「後ろから飛びかかってくるそっちが性格悪いからでしょ」
「ほう?」
……ほら、性格悪いじゃないか。
「ねえ、」
「何だ」
「もう、全部を知ったから……私はサソリさんの娘としては生きられないんだね」
大蛇兄の元で全部を知った。
闇月一族壊滅の真相。
そして、封威眼開眼者の……知られざる真実。
サソリさんが亡くなって、全てを教えられた。
私の中にいる物の正体。
私がどれほど重要なのか。
恐ろしくはなかった。
ただ家族の為に身を差し出せるなら、今迄生きてきた意味があったんだって思うから。
「いいか、カイア」
背後から抱かれ、そろりと頬を撫でられた。
「絶望しろ。失望しろ。絶念しろ。悲観しろ。自棄しろ。」
「………。」
「世界は優しくなどない。自身ですら優しくなどない。聡いお前なら分かるだろう?」
ぐちゅりと嫌な音がする。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、
目から止め処なく溢れだす鮮血が頬を伝い衣服を汚し、地面を穢す。
「世界に、全てをぶちまけろ。この現実に残すに値するものは何も「あるよ」…?」
仮面から除く赤い瞳に流れ落ちる鮮紅と、封威眼の紋様が映った。
「サソリさんにデイダラ、飛段に角都、イタチに鬼鮫、小南姉にリーダー、ゼツ、スザク、そして……貴方」
手を伸ばし仮面に触れればその上から手が重なった。
「私の事は好きに使っていいよ。私は、もう生きる意味を失ったから。これからもきっと、失い続けるだけだから、」
ほら、だから嫌だったんだ。
「オビト!」ほら、だから嫌だったんだ。
「トビー!」二つの笑顔が重なる。
酷似した、でもやはり違う笑み。
どちらも、大切だった。
だから、世界は存在する意味などない。
この世界に残す物など存在しない。
「カイア…、」
「…?、どうしたの?泣きそうだよ?」
柔らかい笑みが、だんだんと傷つき廃れ消えて行く。
夢の世界なら、リンもカイアも傷つかず笑ってくれる。
そこに、あいつの存在があろうとも二人は――…!
「カイア、お前だけは必ず守り通す」
「?、よく分からないけどありがとう―――オビト」
小さく微笑んだカイアの笑みが、一つ記憶に増えて行く。
あぁ、軋む音が聞こえる、
(壊れて、いく、――何かが、)昔の明るい面影を失くして――…。
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