明日の未来が見えなくても


「あーあ、また此処か」


写輪眼を使った影響で入院する事になった。
その上、さっきから俺の横に座っている子は何か言いたげなのに何も言わない。
まァ、聞いてやる義理もないんだけどさ。


「………、…」

「ん?」

「…師匠は、どんな人でしたか」


師匠――カイアの事か。
どんな人だったかって言われても見たまんまでしょ。


「意地っ張りだよ」

「え?」

「今も昔もずっとそう。意地っ張りな子だよ」


苦しいくせに、辛いくせに、戻るって選択肢を知らない。
喜怒哀楽がハッキリしていて笑い、怒り、悲しみ、楽しみ、全てを守ろうとする。
だからもっと苦しくなって、絡み取られてしまう。
逃げるって事も、少し前に戻るって事も、何も知らない。
あの子は無理をしてでも前に進むってことしか知らないんだ。


「柔和な思考してるくせにカイアはバカなんだよ」

「それってつまり………どういう事ですか?」


ハハ、師が師なら弟子も弟子、かな。


「そう言うところが好きなんだよ、俺は」

「???」


喜怒哀楽がハッキリしてて、何処か抜けてて……


「…っ、遅いです、…バカ…先生の、バカ…!」


余りにも真っ直ぐで、直ぐ泣く。


「だったら尚更だ…」

「尚更?」

「サスケだって仲間だ!!!」



サクラに復讐するとか言ってみてもどうせ悩み苦しんでるに違いない。
今この世界に生存しているのがあの日、サスケの事を仲間だと苦しそうに叫んだカイアであるなら…な。














「先生、」

「あら?スザクじゃない、どうしたの?」

「………うち、暫く任務休んで良いですか」

「?、どうかしたの?具合が悪そうよ」


具合どころの話じゃない。
色々と考え込みすぎて頭も身体もぐちゃぐちゃだ。
暁に行きたくても、其れをすれば木ノ葉の皆の敵になる。
それは得策じゃないと、うちでも分かるの。
だからと言ってこのまま木ノ葉に残るのも辛くて、苦しい。
どうすればいいのか、全く分からないんだ。
カイアがいれば何時だって彼女が道を示してくれた。


「僕は何も悪くないよ、先に奪ったのはそっちだもん」


でも、何時からかカイアが恐くて仕方がなくて…。
どうしちゃったの?って聞きたかった。
だけど聞いたらきっとカイアを傷つけるって何処かで分かってて、聞けなくて。


「…分かったわ。暫く安静にしてなさい」

「!、ありがとう、ございます」


頭を下げて待機所を去る。
何だかすっごく苦しくて、胸が痛む。


「ただいま…」

「「「「「おかえりースザク」」」」」

「………。」


この家だってカイアと住んでたんだ。
角都と小南姉はTVの前でテレビショッピングを見てた。
デイダラは食パン焼いて食べてたり、粘土を弄ってた。
ゼツはうちの部屋とカイアの部屋の間に観葉植物を飾って、兄ちゃんがデイダラの隣で団子を食べる。
うちは兄ちゃんの前でポテチをボリボリ食べながら雑誌を読んで、飛段がカイアの部屋にジャシン様グッズを飾るんだ。
鬼鮫が冷蔵庫の中を除き見て簡単なおかずを作って、サソリがカイアのベットで眠ってて、リーダーとトビはアンパ○マンについて語り合ってる。
そんな何でもない日常がとっても楽しくて…懐かしくて…、


「寂しい、」

「そうなんスか?」

「……っえ?」

「不思議そうな顔っスねー、スザクさん!」


目の前でトビが『泣きそうっスよ?らしくなーい!』なんておちゃらけている。
え、え、えええっ!!??


「これシリアスシーンの筈じゃん?!何でそんな簡単に出てきちゃうの?!」

「出てこれるから出て来ちゃうんスよ!アハハ!」

「え―――っ!?じゃあ、何?!奪還時からのうちのシリアス何処行っちゃうの?!」

「そんなものまとめてぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に入れれば焼却処理っスよ☆」


『っスよ☆』じゃな――い!!!
何なのこれ、ドッキリとかじゃないよね?!
!、あ…そうだ。
トビに、カイアの事を聞いてみよう。


「あの、さ……その、……サソリが亡くなったって、聞いたの」

「…そっスね…。その所為でカイアさんちょっとやつれてます」

「!」


カイアはサソリが大好きだったからなあ…。
詳しい事は知らないけど、サソリが亡くなったらやつれる事なんて目に見えてた。
カイアの事だから感情的になったんだろうな、って思うけど多分今悩んでる。
サソリを倒したのはサクラ―――元仲間。
カイアは区別をつける事を知らないから、駄目なんだよね。
まあ、うちも割り切れないから人の事…言えないんだけど。


「そうだ、スザクさん」

「何?」

「僕、スザクさんに言いたい事があって此処に来たんスよ」


トビ…?
何か、様子が…変?


「スザクさんは、絶対木ノ葉を裏切っちゃ駄目です」

「どうして…?!」

「どうしてって……そりゃそうっしょ?だって、スザクさんスパイっスもん」


「スザクには"うちは"として木ノ葉内部に戻って貰うだけだよ」
「お前ハ"ウチハ"ノ上ニ、犯罪者デモ何デモナイ普通ノ子供ダ」



あれはそう言う事だったの…?
でも、此処数年連絡も何もなかったのにスパイってどういう事なの?


「ずっと木ノ葉にいてもらわなきゃ、困るんスよ」

「ト、っ!」

「だって、お前が生きていなければカイアは崩壊してしまう」


仮面から覗く赤い瞳と目が合う。
離せ、ない…っ。


「お前はもしもの保障だ。生きろ、スザク。何があっても死ぬ事だけは看過しない」

「っ、あんた…誰、」


ぶわっと噴き出た汗。
得体の知れないこの男が、恐い――…!!


「誰?とは失礼だな。先祖だと言うのに」

「っ?」

「俺はマダラ―――うちはマダラだ」


マ、ダラ…。


「眠れ、スザク。今は未だ知らなくていい。ただ、安らかにその生を謳歌しろ」


赤い瞳が、うちの脳裏に記憶を刻む。
まだ、何も知らないと言う記憶を植えつける。


「っ……、」


お願い、………を助けて、――キバ。


明日の未来が見えなくても


全てが消えた世界での、たった一つの光となる日まで、眠れ―――スザク。



 
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