第十一訓 3 「《えー、宇宙ゴキブリの被害にあわれた方から次々とFAXが送られてきています。中には赤ん坊が襲われた、ペットが食べられたなどという恐ろしい情報も……》」 「えー……。なんか食べるらしいですよ、このゴキブリ」 「………」 「《どーですか、皇子?》」 「《ゴキブリは肉食じゃからの〜。皆さん気をつけてたもれ。あと絶対に殺してはいかん。さっき言ったとおり大変なことになるぞ》」 これは厄介だなー。 肉食怪虫ゴキッブーリだなんて。 「殺しちゃダメなんですって」 『殺るところだったZ』 「あはは、ホントですよねー。でも一体何が起こるんでしょー?」 ガタタタッ! 「「………」」 『やっぱり見に行ってみた方が…』 「総悟と副長が喧嘩でもしてんじゃないですか?いつものことですよー」 「うらァァァァ!!」 「死に晒せコノヤロー!!」 近藤さんの叫びが聞こえてから現場に駆けつけたらゴキブリしかいなかった。 近くにあったスリッパとか雑誌とかを掴んでゴキブリを叩く。 こんなゴキブリ早く退治しなきゃ!! 「近藤さんは?」 「見当たりませんね。………まさか、このゴキブリに…?」 「ばっ、バカ言うな。こんなただデカイだけのゴキブリに近藤さんが食べられるわけ…」 ゲホッ… 土方さんがそう言った瞬間、ゴキブリの口からゲロが出てきた。 ゲロと一緒に出てきたのはお妙ちゃんの写真。 お妙ちゃんの写真を持ってる人なんて真選組にはたった1人しか………―――マジで? 「近藤さんんんん!!」 「出しなせェ!!出しやがれってんでィ!! 何味だった!?近藤さんは何味だった!?バナナですかィ!それともリンゴ味かァ!」 「あっ!そういえば最近ザッキーも見てない!!」 「何味だったんでィ!素朴な味か!薄味か!」 「オーイ誰か。あのサディスティック星の王子と姫止めろー」 「楽しんでますし無理じゃないですか」 総悟と一緒になってゴキブリを蹴りまくる。 総悟の方はほとんど悪ふざけだけど、うちは真剣なんだぞ!! 近藤さんとザッキーをどこにやったんだぁぁぁ!! キシャァァァ!! 「チッ、虐め甲斐のねェやつだ。これくらいで泣いちまうとはねィ」 「泣いて済むならうちらみたいな怖いお巡りさんはいらないんですぅー。警部、マジこいつどうしてやりましょーかー?」 「とりあえず取調室に…」 ザザザザザ… えっ、この音なに? 急に聞こえた音に振り返ればあたり一面黒ずくめだった。 え、何これ何これ何これェェェ!!! 「《えー繰り返しお伝えします。ゴキブーリを見ても絶対に殺さないでください。仲間を呼ぶ恐れがあります。絶対に殺さないでください。 しかしバ…皇子、これでは私たちにはゴキブーリに抵抗する手段がありませんね。一体どうすればいいんですか?》」 「《オイ、今バカ皇子って言いそうになったろ》」 「《…あっ中継の方が繋がった模様です。花野アナ!!》」 「《オイ、誤魔化してんじゃねーぞ》」 中継でつながったのはゴキッブーリの被害が最も甚大なかぶき町。 街には巨大なゴキブリが沢山蔓延っていて見るのも嫌な光景だった。 たった一夜であれだけ増えたって言うし、やばくない?アレ。 あのゴキブリの生体も番組内でバカ…ハタ皇子が説明してくれる。 奴らは全て一匹の雌と雄から生まれた兄弟。 まず女王と王が星に巣食いそこで大量の子を産む。 そうしていくつもの星を喰らい尽くしてきた恐るべき種族。 王と女王がいる限り奴らは際限なく増え続け、星を喰らい尽くす。 「《それでは我々が助かる道はその王と女王を退治する他ないと…。そーゆーことですか、バカ》」 「《皇子はつけよう!バカでもせめて皇子はつけよう!》」 「《なにか王と女王を判別する目印のようなものは?》」 「《無理じゃ。奴らの王と女王は普通のゴキブリの大きさと変わらん。……ん、いや待て。ひとつだけ他と違うものがあったな。背中に五月≠ニ五郎≠チて書いてある》」 「《なんですか?その五月と五郎っていうのは》」 「《余がつけた名じゃ。五月と五郎の奴め、あんなにかわいがってやったのにカゴから勝手に逃げおって》」 「《お前今なんつった?》」 「《え?なんか今まずいこと言った……、あ》」 画面にしばらくお待ちください≠フ文字が浮かぶ。 宇宙ゴキブリ地球に持ち込んだやつ判明したよ。 逮捕してやろうか。 『背中に五月と五郎らしいですZ』 「無理でしょー。地球上にゴキブリ何匹いると思ってるんですか」 バタタタタッ 『まだやってるみたいですZ』 「もー知りませんよ、わたしは。継美に怒られればいいんじゃないんですかー?」 「こっち来んじゃねェ!!一体どーなってんだ、コレ!」 「ゴキブリの逆襲!?逆襲なんですか!?」 「おい、コラ総悟、亜希!お前ら寝てる場合じゃ…」 「あはは……ゴキブリが3びき、ゴキブリが4ひき…」 「ゴキブリが5匹…ゴキブリが6匹…」 「総悟!!?やめろ!!そんなもん数えながら寝たら夢に出てくんぞ!!」 「亜希も!!そんなもの数えてないで現実見てください!!」 何とかかんとか近藤さんの部屋の押入れに逃げられたけど、足元はゴキブリだらけ。 気持ち悪くて相手にもしたくない。 殺虫剤はゴキブリの海の中に落ちていて取りに行くこともままならない。 「あ?壁にゴキブリが…………、オイ山田。コレ、なんだと思う?」 「ハイ?……? そんなのただのゴキブリでしょう。そんなゴキブリより巨大ゴキブリの方が大事件です。適当に逃がしてもいいんじゃないですか」 「そーか。じゃあな五月、達者でやれよ」 五月なんて名前が書かれてるだけでただのゴキブリじゃないですか。 そんなの気にしてたら巨大ゴキブリは殲滅できませんよ。 それにしても妙なものです。 普段は見ただけで鳥肌が立つくらいやなのにこの状況だと可愛くみえるだなんて。 あのゴキブリは運がいい。 副長の手によってポイっと放逐されたゴキブリを見送る。 逃がしてあげたんですからきっちり逃げ切ってくださいね。 「……で?この状況どうすんだ」 「みんな寝起きなんで携帯とか武器持ってないですよねぇ…」 総悟くんと亜希はあまりの衝撃に現実逃避中だし役に立つかわからない。 さてどうしてくれようか。 ………………………、どれだけ考えたらこんな状況を打破できるんですか。 ここに誰か助っ人が来れば…… ドカッ ………、えっ? 助っ人のことを考えた瞬間、目の前でゴキブリたちが派手に吹き飛ぶ。 (………まさか) 「ぬおおおおお!!お前たちィィィ、今戻ったぞォォォ!!」 「こっ近藤さん!生きてたのか!」 「お妙さんの写真がやられちまったんで、焼き回ししてきた!!」 「バカですかあなたァァ!!そんなことする前に超強力な殺虫剤買ってこいやァァァ!!!」 何やらかしてくれてんですか。 こちとら巨大ゴキブリに囲まれて危機だってのに呑気にお妙ちゃんの写真をコピーしてただなんて。 許すまじですよコノヤロー!! 「そんなことより、」 「そんなことで済むほどの状況ですかコレェェ!!」 「外がエライ事になってるんだ!」 ハイ? 「街中マヨネーズゴキブリがウジャウジャでもう大騒ぎでな!なんか変な噂まで流れてたぞ。こいつらが宇宙から地球を乗っ取るためにやってきた人喰いゴキブリだとか、背中に五月と五郎って書かれたゴキブリを殺さないと地球は滅ぶとか、勝手に話が大きくなってて…」 「「………」」 「近藤さん、もっぺん言ってくれ」 「? 背中に五月と五郎って書かれたゴキブリ殺さないと地球が滅ぶらしい。笑っちゃうよなァ」 「………ハ、ハハハ……そ、そりゃあ笑える話だ」 「あは、ははは…わ、笑っちゃいますね」 … … … 。 あ、あたしたち、地球を滅ぼしちゃいましたよ。 地球を滅ぼした魔王の一軍に入っちゃいましたよ。 もう笑うしかないですよねぇ……あは、あははは。 「近藤さん、俺ァもうダメだ。逃がしちまったよ俺ァ…」 「み、見たのか!どっちだ!どっちがいたんだァァ!!」 「地球滅ぼしちゃいましたよ…あたし…アッハッハ」 「どこいったの!?ねぇどこいったの!?早く見つけないと…」 「「無理無理。もうどっか行っちゃったって」」 「それよりカツ丼土方スペシャル食いに行こうぜ。死ぬ前に土方スペシャルが食いたい」 「あたしはケーキ屋さんに行って糖尿寸前までケーキ食べてきます……死ぬ前に好きなだけ甘いものが食べたい」 「ちょ、しっかりしてくんない!!?ねェ!!トシ!?継美!?」 「「アッハッハッハ」」 「ちょっとォォォォォ!!!」 「………ん?」 台所でお茶を入れていたら足元をゴキブリが這っていた。 屯所内にゴキブリが出ることなんか珍しくない。 台所に置いてあるハエたたきを手に取って、 バチンッ ゴキブリを叩く。 あとはティッシュにくるんでゴミ箱にポイするだけ。 ゴキブリ退治のためにゴキブリコロリでも買ってくるべきか。 「……にしても、五月って…。このゴキブリ名前があるのか……」 ← ×
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