第八訓 6



綺麗な花火が空に打ち上がって、民衆は皆空を見上げてうっとりしてた。
でも、そんなまったりした場は一瞬にして覆される。


平賀さんの作っていたカラクリ、三郎があたしたちの方へとその砲門を向けたから。






「ごほっ……これ、は…?」

「こいつァ煙幕か?混乱に乗じて将軍狙うつもりだな!
てめーらァ、櫓の周りを固めろォ!!ねずみ一匹寄せ付けるんじゃねーぞ!!」






そう叫んだ副長の言葉を皮切りに、緋桜を抜き放つ。
この機に乗じて将軍様をやろうったってそうはさせない。
誰もここには近づけ―――何?


急に頭上が暗くなって、巨大な影があたしを包み込む。
移動する影は向こうにある電飾の光さえ見えなくなるほど至近距離まで近づいていた。


(これ、は、)






「かっ…カラクリだァァ!!」






あたしが協力して完成させた平賀さんのカラクリ集団……!!?

どうして平賀さんのカラクリがこんなところに?
どうして平賀さんが将軍様の首を狙っているの?
どうしてこんな事態になってしまったんだろう。






「継美!こっちは俺たちがやるから民衆を逃がしてやってくれ!」

「!
局長……、分かりました!」






局長の指示なら仕方ない。
縦横無尽に逃げ惑う民衆たちの統率をとってなるべく安全な場所へと避難させるのが優先だ。






「ここは危険です!向こうの方へ…… 「………んだ…」 …?」






逃げていく民衆を避難させていたら、その波の中から声が聞こえた。
この非常事態の真っ只中だというのに落ち着いた声で妙におかしい。
なんだ、とその方へ視線を向けたらそこには銀さんがいて、後ろから刀を突きつけられていた。



後ろにいるのは―――。





「銀さん!!」

「!!
ッ…バカ、お前……!こっちに来んじゃねェ!」

「でもっ」






(あなたに刀を突きつけているのは、っ)






「ククッ、お前の女か、銀時」

「違ェよ。
おい、継美。いい子だからゴリラんトコいって大人しくしてろ。てめーも余計な怪我はしたくねェだろ」






(は?)

……何を言ってるんですか、この人。
あたしは仮にも武装警察真選組の局長補佐官ですよ?
あなたの背後に居る大物のテロリストを目の前にさっさと逃げろ、と?






「……余計な怪我なんて上等じゃないですか」

「「!!」」

「あたしは真選組局長補佐官、山田継美。犯罪者を目の前にして逃がすなんてもっての他。一般市民を危険な人物の前に残してくなんて警察のすることじゃありません」






緋桜を構えれば、高杉は面白可笑しそうに笑った。
狂気とも言っていい感情の宿った瞳が歪にゆがむ。






「いい女じゃねェか、なァ?」

「………」

「だが、コイツのことをただの一般市民だとか言ってるようじゃまだまだだな」

「?
なにが、ですか」

「コイツはな、」

「っ!!
高杉、それ以上言うんじゃ」






ドクリ、

嫌な汗が頬を伝って落ちていく。
これから先は聞いていいことなんだろうか。
聞いたら元には戻れないし、後戻り出来ない気がする。






「―――オイ」



チャキ……



「「「!」」」

「継美を傷つけるような事を言うなら、その首今すぐ掻っ切るぞ」

「………」






逆手に握り締めたクナイを背後から突きつけた里美。
その気配は全く感じ取れずに高杉の背後までとってしまった。

里美は強い。
時々あたしですら敵わないんじゃないかって怖くなるほど強い。

流石の高杉も分が悪いと思ったのか刀を鞘に収めて、口を閉じた。
高杉は里美の手からするりと逃れると人ごみに紛れて消えてしまう。
瞬間どっと疲れが出てきて緋桜を地面に刺して杖がわりにした。






「里美……助かりました、」

「…高杉ってのも無用心なんだねー。わたしみたいなドジに背後取られるなんて」

「里美が強いだけのことでしょう」






それでうまく話をはぐらかしたつもりですか、全く。






「銀さん、」

「、…ぁあ。なんだ?」

「高杉との関係は、今は見逃しましょう。銀さんがいずれ、話してくれる時まで」

「!!!」

「詮索もしません。でも、その日が早く来ることだけは祈っていますから」






今は聞けない。
聞いちゃいけないんじゃないかって、思ったから。

今は聞かないからいつか、あたしに本当のことを話してくれる日を待ってますね。








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