第九訓 1



これは夏の暑い暑い夜の話。
局長に誘われて怪談話を聞くことになってしまったあたしは屯所の一室にいた。

もう何人もの隊士が話を話し終わり、今は隊士のひとりである稲山さんの話に入っていた。






「あれは今日みたいに蚊がたくさん飛んでる暑い夜だったねェ…。俺、友達と一緒に花火やってるうちにいつの間にか辺りは真っ暗になっちゃって。いけね、母ちゃんにぶっ飛ばされるってんで帰ることになったわけ。それでね、散らかった花火片付けて、ふっと寺子屋の方見たの」






そんな時間まで遊んでいては、親御さんが心配するでしょう。
そう言おうとしたら言う前に局長に口元を押さえられた。
むぐっと沈黙することしか出来なくなってしまう。

局長やみんなは継美が口出すと怪談が怪談じゃなくなる、って言うんだ。
あたしは別に邪魔をしている覚えは一切ないのに。






「そしたらさァ、もう真夜中だよ。そんな時間にさァ、寺子屋の窓から赤い着物の女がこっち見てんの。俺、もうギョッとしちゃって。でも気になったんで恐る恐る聞いてみたの。なにやってんの、こんな時間に、って。そしたらその女ニヤッと笑ってさ、」

マヨネーズが足りないんだけどォォ!!

「「「「「ぎゃふァァァァァ!!!!」」」」」






(び、びびび、びっくりしたぁぁ!!!)

思わず手に掴んでいたものをゴッ!と柱にぶつけるほど振り回すくらいには驚いていた。
急に背後から焼きそば持って必死の形相で叫ぶなんて卑怯すぎる。






「副長ォォォォォ!!なんてことするんですかっ、大切なオチをォォ!!」

「知るかァ!マヨネーズが切れたんだよ!買っとけっていっただろ、焼きそば台無しだろーがァ!!」

「もう充分かかってるじゃねーか!なんだよそれ、もはや焼きそばじゃねーよ!黄色いやつ≠セよ!!」






……あれ、そういえばあたし、手に何を持ってたんでしょう。
部屋から着の身着のままにここに来たのでもっていたものなんて何も―――、あ。






「大変だァ!局長がマヨネーズと打撃のWパンチで気絶したぞ!最悪だァァァ!!」






(……ごめんなさい、近藤さん)


泡を吹いて倒れている局長に手を合わせておく。
本当に悪かったと思ってます。
迷わず成仏してください。






「局長まだ生きてるんだけどォォォォ!!!???」






ベルトコンベアにはをつけろ








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