第七訓 1



「隊長〜、書類に印鑑………あのー、前かがみで何してるんですか?」

「………」






カッと目を見開いて前かがみになっている隊長。
まさかこんな時間から致していたわけでもあるまい。
そう思いながら一歩踏み出せば、手のひらを差し向けられた。

(止まれ、ってこと…?)


素直に止まれば隊長は安堵したようだった。
暫くの間息を整えて、ノートに何かを書き出す。






「………………」


スッ…


「えーと……『私の洗濯物の上にこんなものが置いてあったのですが、誰のものか分からずに困っていたところですZ。わかるのであれば是非、森田さんの手で返して頂けませんか』…?」






最後になるにつれて線が細くなっている文字。
隊長は迷いに迷って書いたんだろうなぁ。

そのあとに、恐る恐るといった様子で差し出されたものがひらりと畳の上に落ちる。
瞬間隊長は立ち上がって厠へと行ってしまった。
落ちたものは女性物の下着だ。
これを自分が持っていたことで自分が下着ドロをしたと思われたらどうしよう、上司が変態だと思われたらどうしよう、これからの関係が悪化したらどうしよう、周囲に言いふらされたらどうしよう、とかいろいろ考えてお腹ゆるくなったのかな……。






「うーん…?」






隊長が落としたパンツを手に取ってみる。
純白レースのパンツなんてわたしは持っていないし、他の3人も持ってないはずだ。

あれ、そういえば女性物の下着といえば最近ヘンな泥棒がいたような気がするぞ。






「あっいた!里美、今夜あたしと一緒にお妙ちゃんに加勢してください!」

「加勢?なんの?…っていうか、今はそれどころじゃ」

「お妙ちゃんが下着を盗まれたらしくて。丁度いい機会だから怪盗ふんどし仮面を捕まえるの!」






(怪盗…ふんどし、仮面……?)

そういえばそんなものがいたっけ。
最近巷を騒がしているコソ泥で、真っ赤な褌を頭にかぶってブリーフ一丁で綺麗な娘の下着ばかりを掻っ攫い、それをモテない男たちにばらまいてるっていう………。


ん?下着を盗んでばらまく?
じゃあこのパンツはまさか………、嘘でしょ。






「………たっ、隊長が…いくらシャイのあんちきしょうで、小心者で、デリケートでコミュ障でアフロだからって…」

「え、里美?それ悪口じゃあ…」






わたしの尊敬しているかわいいかわいい愛しの隊長に対して、こんなものを送りつけてくるなんて。
その上それをわたしに渡すという試練を隊長に課して、わたしと隊長の仲を裂こうだなんて、なんと恐ろしい相手なの。

おのれ、ふんどし仮面め。
ようやっと漕ぎ着けた隊長との関係にヒビを入れるようなことをしたのだ。
許してなるものか。


大体、世の中のモテない男に下着を配っているだけならまだしも、わたしの隊長に対してモテない≠ニいうレッテルを勝手に貼り付けたことを後悔させてやらないと気がすまない。






「こんなものを……こんなものを隊長に寄越すなんて!!隊長がモテないとでもいうのかァァァ!!」


ビリィッ


「えっ何叫んでるんですか!?ていうかそのパンツ…、まさか終くんにまで被害が!!?」






絶対っ、捕まえてやる!!!






ああ やっぱり我が家が一番だわ








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