第四訓 3 スナイパーにより放たれた銃弾は局長の肩を打ち抜いた。 縁側に座っていたと思われた里美は一瞬で姿を消し、スナイパーを仕留めようと動く。 スナイパーの方は任せても問題なさそうだ。 「近藤さん、しっかり!!」 「ねぇ近藤さんっ!!」 肩を打ち抜かれて廊下に倒れている局長の周囲に人が集まる。 総悟くんと亜希は局長に声をかけるけど、局長は目を開けない。 「フン、サルでも盾代わりにはなったようだな」 その場に響いた声にあたしたちはカッとなる。 自分を護るために銃弾に撃たれた局長を見て、言うことはそれだけ? あたしたちにあなたを護る義務なんてこれっぽっちもないのに、局長は体を張ったんだ。 その人に対して『盾代わり』だって? (あなたはっ……) 「止めとけ。瞳孔、開いてんぞ」 「亜希ちゃんも…だよ」 沸々と燃え上がる怒りは同じだろうに副長と真由は2人を止めた。 今にも刀を抜いて斬りかかりそうだった2人。 そんなことをしては真選組の今後に関わってしまうのは目に見えて分かっている。 でも、あたしは2人と同じことをしようとしてた。 局長はそんなこと、望んでないのに。 「ホシは廻天党≠ニ呼ばれる攘夷派浪士集団。桂たちとは別の組織ですが負けず劣らず過激な連中です」 その後適切な傷の処置をしてもらった局長は床に伏せていた。 山崎さんの調べでは相手は攘夷派浪士集団。 やはり禽夜様を狙っている連中の仕業だった。 里美がとっ捕まえてきたのも廻天党の攘夷浪士の1人。 今は屯所の牢屋の中にぶち込んであるって言ってた。 「副長、あのガマが言ったこと聞いたかよ!あんなこと言われてまだ奴を守るってのか!?野郎は俺たちのことをゴミみてーにしか思っちゃいねー。自分をかばった近藤さんにも何も感じちゃいねーんだ」 「副長、勝手ですがこの屋敷色々調べてみました。倉庫からどっさりこいつが…」 山崎さんの持っているものは麻薬の入った袋。 あの天人はもう間違いなくクロで、春雨との関係があったと言い切っていい。 そんな相手を護れなんて幕府はどうかしている。 もう、人のためになんか機能してない。 そんなことはこちらに足を踏み入れる前からわかってる。 「てめーらの剣は何のためにある?幕府護るためか?将軍護るためか?―――俺は違う。覚えてるか。あの頃学もねェ、居場所もねェ剣しか能のないゴロツキの俺たちをきったねー芋道場に迎え入れてくれたのは誰か。廃刀令で剣を失い、道場さえも失いながらそれでも俺たち見捨てなかったのは誰か。失くした剣をもう一度取り戻してくれたのは誰か。 …幕府でも将軍でもねェ。俺たちの大将はあの頃から近藤(こいつ)だけだよ」 「あの、ぼくもそう、です。失うしかなかったものを、失わせまいとぼくらのために必死になってくれた。無条件でぼくらを受け入れてくれて、ここまで一緒にいてくれた。どれだけの事があろうとも、どれだけの事をしようとも、ぼくらを見捨てずにいてくれた。 ぼくが大将と認めるのは幕府なんかじゃない……近藤さん(このひと)だけです」 ………そうだ。 あたしが失いかけたものを、大事な緋桜を取り戻してくれたのは……この人だ。 だからあたしはこの人を失うわけにはいかない。 その大きな手を離すわけには行かない。 「大将が護るって言ったんなら仕方ねェ。俺ぁそいつがどんな奴だろーと護るだけだよ。気に食わねーってんなら帰れ。俺ァ止めねーよ」 そう言って出て行く副長の後ろに続く真由。 真由の目もしっかり前を見据えていて、自分の意思を固めたらしいことはよくわかる。 あたしは―――。 ぼくは副長の後ろに続いて外に出てきた。 このまま警備を続けるのだと思っていたらパチパチという何かが燃えるような音が聞こえてきた。 ぼんやりと明るい光を発しているのは、火。 周囲を照らしている光を生み出しているのは、総悟くんと亜希ちゃん。 何を燃やしているのかと思えば十字にされた木にくくりつけられた禽夜様がいた。 (えっ、えええ!?) 「何してんのォォォォォ!!」 「亜希ちゃぁぁぁん!!?」 「大丈夫大丈夫、死んでませんぜ」 「真由さん、顔真っ青だよー?あははっ」 そりゃあ顔も真っ青になるよ。 幕府の高官相手に何をしているんだこの2人は。 護衛対象を火炙りなんて笑えない冗談だ。 「要は護ればいいんでしょ?これで敵おびき出してパパッと一掃。攻めの護りでさァ」 「この人はそのためのオトリってやつね!あったまいーでしょー!?」 「貴様らァ、こんなことしてタダで済むと…もぺ!」 その口に薪を突っ込んだ総悟くんと亜希ちゃん。 際限なく次々と突っ込んでいくものだから禽夜様の口はリスのように膨らんでいる。 「土方さん、真由さん。俺らもアンタらと同じでさァ。早い話、真選組(ここ)にいるのは近藤さんが好きだからでしてねぇ。でも何分あの人ァ人が良すぎらァ。他人のイイところ見つけるのは得意だが悪いところを見ようとしねェ」 「うちも近藤さんだーい好きだよ!近藤さんいなかったらここまでついてこなかったもん!それに、いつか人に騙されそうで怖いからうちらみたいなのがいてあげないといけないでしょ?」 「俺らや土方さんたちみてーな性悪がいて、それで丁度いいんですよ真選組は」 (………もう) そこまで言われてしまったら反対できない。 確かに局長は人が良すぎて、時々怖くなる。 そんな時ぼくらみたいな仲間がいなかったら、乗り越えていけないじゃないか。 ぼくらみたいなのがいて、真選組は均等を保ってるんだよね。 「あー。なんだか今夜は冷え込むな…」 「あの、もうちょっと暖かくなる方法…あります、よ?」 「そうだな。薪をもっと焚け総悟、亜希」 「! うんっ!」 「はいよっ」 薪を継ぎ足せば文句を言うかのように口を動かす禽夜様。 今更どんな文句を言ったところでこんな状況ではなんの意味もない。 残念だけどぼくは、局長が体を張ったことに礼も言わないような相手に対して払うような礼節は持っていないんだ。 チュインッ… 「「「「!」」」」 「天誅ぅぅぅ!!奸賊めェェ!!成敗に参った!!」 ああ、おいでなさった。 「どけェ、幕府の犬ども。貴様らが如きにわか侍が真の侍に勝てると思うてか」 「にわかかどうかは、剣を合わせればわかることだよ」 「派手に行くとしよーや」 短刀2口を鞘から抜き放ち、逆手に構える。 相手には銃を持った人もいるけど、うちにだって銃撃が得意な人がいる。 剣には剣を、銃には銃を、だ。 「まったく、喧嘩っ早い奴らよ」 「「「「!」」」」 「4人に遅れを取るな!!バカガエルを護れェェェェ!!」 そうこなくっちゃ。 銃弾の一撃すら何ともなかったかのように立ち上がっている近藤さんの前には腰を低くし大太刀を構えている継美さんがいる。 その場で地面を蹴り上げた継美さんは敵陣へ突っ込んで、大太刀の一撃をお見舞いする。 その大太刀の一撃は暴風が起こるかのごとく強烈に周囲を巻き込んで、彼女の髪を大きく吹き上がらせ、何人もの浪士を吹き飛ばす。 「局長はやらせない。局長とやりたかったら、あたしを通せってんだクソ浪士どもが!!!」 その一撃で活気づいたぼくらは、その夜で浪士たちを大量検挙して新聞の紙面を飾ることになった。 ← ×
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