好きになんてなりたくなかった、
途中でサスケの呪印の力を第二段階にするため薬を飲ませ樽へ入れ封印した。その樽を抱え大蛇兄の元へ向かっていればやっぱり追ってくる奴もいるわけで………めんどくさい奴らだなぁ………。
「殺されたくなければ帰れよ」
「「!」」
今現在此処にいるのはシカマルとナルトのみみたいだ。ああ、もう、本当に………
「帰るわけねーだろ!お前とサスケを連れ戻しに来たんだ」
「サクラちゃんとも約束したんだってばよ!お前らを連れ戻すってな!」
「……聞いてないんだね」
「「?」」
「私は木ノ葉が嫌いなんだ!!!平和の影に何があるかも知らない奴が嫌いなんだ!!!!!」
太ももからするっと額宛を外すとクナイを出しギリギリと音をたてて線を引いた。もう戻らない、もう戻りたくない、もう光に身を染める事もない。ポイっと額宛をナルトに向かって投げた私はサスケの事も音の奴の事も無視して木々から木々へと飛び移った。そして、進んで進んで……
「あれ?」
「!」
「貴方も大蛇兄のとこの?」
「ああ」
「あっちにいる」
「分かった」
白髪の少年と別れ奥へ奥へと進んで行ったその時―――…
ビュォ…
「……はぁ…何でいるの、」
「………」
「…スザク」
「…何でかな、行かなきゃいけない気がしてさ…ずっと此処で待ってたんだよね」
「「………」」
ヒュォオ…
二人の間を風が吹きぬけ、その風の衝動で荷物の中から暁のマントが飛んでいこうとするので慌てて掴んでカバンの中に押し込めた。
「スザク、帰った方がいいよ。私はもう里を抜ける身だから」
「ならなおさらだよ。友達として止めなきゃ」
「止められない。だって、止まる気がないもの。後はまっすぐ闇の中に落ちて進むだけ」
"それだけだよ"と呟けばスザクは何を言うわけでもなく涙を零した。本人は訳も分かっていないらしいけどきっとスザクの本心が泣いてるんだね……ごめんね、スザク…。でもね、これ以上スザクが体を闇の染める必要はないんだ。だからね…
「光の中で生きてよ」
「!!!」
すっと落しかけた手は再びあの人に止められた。ああ、もう、だからどうして…、どうして……
「どうして貴方が止めるんだ!!!!!」
「!、カカシ先生!」
「朝方目を覚ましたときにスザクちゃんがふらふら出て行くのが見えてね…監視していて正解だったかな」
握られた腕の力は予想以上に強くて振り払おうにも振り払えなかった。っくそ……僕は肉体労働派じゃないんだよ…!それに、傀儡師の弱点は本体―――つまり、本体である体の一部…しかも腕を捕まれてしまっている僕は弱点を晒してるのと同じなのだ。
「…っもう放っておいてよ!!!」
「放っておけるわけないでしょ」
「何で!」
「皆、お前の事を大事だと思ってるから。それにカイアは自分で言ってたでしょ」
「?」
「はい、木ノ葉"は"嫌いです」
「ん?」
「木ノ葉の"仲間"は好きです」
「放っておけるわけないだろうが」
「だったら尚更だ…」
「尚更?」
分かってる。私とサスケの今の関係がどちらも『打算』なんだと。それでも私はサスケから離れたくない。目的の為にも、私の心を満たすためにも。
「サスケだって仲間だ!!!」
「!!」
「っ」
今だ…!!バッと腕を振り払って距離を取る。逃げるにしてもまだ封威眼は完璧に使えるわけじゃない。写輪眼を持ってる二人から負傷せずに逃げ切るのは難しいだろう。視線を彷徨わせていたら背後からそっと包みこまれるのを感じた。
「離し「振り向かなくていいから話だけ聞け」……。」
いつの間にやったのかスザクは気絶させられていた。ああ、どうしよう。気持ちが溢れだして止まらない。私はまだ子供。私だって女の子。恋愛だって友愛だってこれから一杯経験して行くんだろう。その一片に過ぎないはずのこの恋を捨てられないなんて…忍、失格なのかな。
「お前の事を行かせるのは忍として失格になるんだろうな…」
「………」
「だけど、仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだって…教えた事、覚えてるか?」
「……うん、」
「お前は暁だ、S級犯罪者だ。俺にとって…いや、忍界にとって消すべき存在だ」
「………」
分かってるよ。勿論、全部分かってる。そして、その上で変な事を思ってしまう。
「カカシさんに殺されるなら……いいよ、」
「師に教え子を殺させようって?…冗談」
だと思った。でも、教え子って言われちゃったら私どうする事も出来ないじゃない。そうやってわざと突き離すんだね、酷い人。
「ねぇカイア」
「……何、先生」
「約束しようか」
「?」
すっと差し出された小指に小指を絡める。そして指きりげんまんの詩をゆっくりと紡ぐ。一時でも長く一緒にいられるからそうしてくれてるの?ねぇ先生、思わせぶりはもう止めて。ハッキリ言ってよ、お願い。私、辛いの、苦しいの。そんなんじゃ、離れても苦しくて辛いだけだよ。
「カイアが目的を果たしたら俺の元に戻ってきますよーに」
「!!!」
バッと顔を上げれば先生は小さく微笑んでいた。相変わらず口元は見えないけれど目元が優しく歪められている。
「っ…そんな、事…」
そんな事言われたら…、
「行きたくなくなっちゃうよ…!」
「行かなきゃいいのに…なーんてね。行っておいで、カイア。知りたい事があるんでしょ?」
ほらと手に握らされたのはいつかの禁書。で、でも、持ち出し禁止だって……!!
「ちゃんと持ち出し許可は貰ってある」
「誰に、」
「綱手様にね。カイアはユズリ様の子孫だ。だったら一族間のやり取りで認められる」
「でも私は里を抜ける…」
「いいから早く行け。追いつかれるぞ」
トンと背中を押され私は駆けだした。…っ…カカシさん、ありがとう…!
「…ハハ、俺も甘くなったもんだネ」
苦笑気味に小さな背を見送る。あの背に一体どれほどの重荷を抱えているんだろうか。俺には到底分からない。
「"想う"だけならタダです。でも、"想い合う"とタダじゃなくなってしまうんですよね。だから、愛とか恋とかってホントくだらないものだと思ってました。けど、してみないと分からないものですね。この気持ちは…何だか、とても大切なものに思えます」
お前の言うとおりだ。愛とか恋とかお前と出会うまで俺もくだらないって思ってた。"想う"だけなら本当にタダなんだな。それが通じ合ったときタダでは無くなる。喜怒哀楽全てを分かち合うような…身を裂かれるようなそんな辛さが身を襲う。
「戻って来いよ…カイア」
好きになんてなりたくなかった、そう言ったら、嘘になるのだろう。
戻ってきたときは笑顔で迎えよう。
それが恋人でもなんでもない師である俺に出来る精一杯。