「チッ……何でこんなところで……」
1日中太陽の日の光もあたらないスラムの街。その街の中でもさらに暗く、湿った路地裏。そこにレノはいた。
全身にはおびただしい傷や痣、おまけに赤黒い血までべっとりとついている。
残された力もほとんど無く、今にも倒れそうだった。
「この……俺が?」
レノはもう一度、舌打ちをした。
Doubt -1-
――時は1日前にさかのぼる
「スラム……ですか?」
「そうだ。スラムにある神羅の保管庫に保管されている特別なマテリアが新たな武器開発のために必要になったそうだ。よって今回は、そのマテリアを保管庫から回収、そして神羅ビルまで運ぶ。それが任務だ」
…つまんねぇぞ、と。ツォンの説明を聞きながらレノは思った。
ターゲットが「人やモンスター」でそれを「捕まえたり、殺したりする」任務であれば面白みがある。
だが、何だ今回の任務は。ただ「モノ」を「運んで」それで終わり。ただそれだけ。
それならば別に他の誰かでもよいのではないのか。
「……他の奴に代われないのかよ?」
それは明らかにダメだと分かってはいたが、そう言わずにはいられない。
「タークスのレノ様だといつも煩いお前にはこのくらい任務を成功させる自信さえ無いのか?」
ツォンはレノの方を見る。口元には笑みを浮かべながら。
そのセリフと表情に、レノのボルテージが上がる。
……こんなアホみたいに簡単な任務なんかソッコーで片付けてやるぞ、と。
レノはツォンに踵を返すと部屋を後にすると、ポケットからガム1つを取り出した。
そして簡単すぎるその任務を行うための準備をしようと1つ下の階にある準備室へと向かった。
*
任務は途中までは順調だった。スラムの街の中でも少しはずれた所にある、神羅カンパニーの保管庫。
そこの裏口からIDカードでオートロックを解除し、レノは中へと入る。
中は薄暗く、ほこりっぽくて、神羅製の武器や機械がたくさん置かれていた。
一見、目的の物は簡単には見つかりそうにない。しかし、意外なことにそれはすぐに見つかった。
古びた鉄のテーブルの上に、その鉄であふれた空間にはかなり不釣り合いな小さな木箱ががあった。
中を開けてみるとそこには、この薄暗い空間の中では眩しすぎるほど光っているガラスのような玉――マテリアが入っていた。
その色は今まで見たことが無いような、オレンジ色だった。
「これで終わりだぞ、と」
中身を確認した後レノは木箱を抱え、神羅ビルへ引き返そうとした。――と、ここまでは良かった。
ところがその瞬間、警報も何も鳴っていないにも関わらず突然銃声が鳴った。
慌ててその音の方向へと振り返る。そこには、武装した人間が10人くらいいた。
辺りが薄暗いせいで、顔はよく見えない。……と言っても、こんな所にわざわざ大勢で武装して押しかける人達など、アバランチ以外には考えられないのだが。
「不法侵入は犯罪だぞ、と」
レノはベルトから愛用武器である電磁ロッドを取り出し電気出力を調整する。
「犯罪!? よく言うぜ! お前等神羅の連中が、この星に対してしている事に比べたら小せぇものよ!!」
先頭に立っている男の太い声が、保管庫内中に響き渡る。
と、同時に銃弾が2発、レノに向かって飛んできた。
突然の出来事に一瞬、レノの表情に焦りが見えた。
が、タークスは、ソルジャーには劣るものの戦闘能力は長けているほうだ。
その上、「破壊すること」を好むレノだ。
ようやく面白くなってきたな、と。
銃弾をギリギリで避け、ピストルを持っていた男2人の頭に容赦なく電磁ロッドで殴りかかる。
バチッと電気が流れる音と、男達の呻き声。その後、男達はただの動かぬ物体と化してしまった。
……あーあ、すぐに逝っちゃって
動かぬ人形には興味は無い。レノは更なるターゲットを見つけ、思い切り攻撃する。
そのロッドもまた、ターゲットが避ける間も無くクリーンヒットし、男の断末魔とともにまた1体、人形が増えた。
……その瞬間。
レノの体中に激痛が走った。
後ろを振り返るとピストルを持った別の男。そして自分の身体を見るとわき腹からは真っ赤な血が流れている。
鼻には何年ぶりだろう、自らの身体が撃たれた時の、香ばしいような、独特な匂いが漂ってきた。
そのときに出来た一瞬の隙を男達は見逃すはずもない。
ここぞとばかりに持っている銃をフルに使い、レノに向かって撃ってきた。
いつもなら余裕で避けられるどころか、反撃さえできそうなその銃弾。
しかしさっきの銃弾は驚くべきことにレノの急所を見事に捕らえていたようで、その銃弾はレノが動くたびに酷い激痛をもたらしていた。
そのせいで、身体がなかなか言うことをきいてくれない。
チッ……器用な真似しやがって!!
まともに受ける銃弾の数が次第に増えてゆく。それに比例するように、レノの身体の動きもだんだん鈍くなってきた。
反撃はおろか、回避さえままならなくなったレノの身体には、無数の傷。
もはやマテリアを守る事さえもレノの頭から消えていた。
*
そして今この状況にある。
不幸中の幸いか。あるいはもともとレノの命まで奪うつもりは無かったのか。レノの命に別状は無いのだが。
それでも傷の具合は酷く、辛うじて歩くのがやっとだった。だが、全身の傷やそこから流れている真っ赤な血などレノにとってはどうでも良かった。
“任務失敗”
それだけがレノの頭を占めていた。しかも、ただの“失敗”ではない。
別に何ということはない、ただ物を運ぶだけで終わるこの仕事。
にも関わらず、全身に傷を負い、しかも目的のマテリアまでもがアバランチの手に渡ってしまった。まさにレノがこのタークスをの仕事を行って以来の、“最悪な失敗”だ。
その事実がレノのプライドに深い傷をつけた。
...to be continued