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早く、早くルードにでも連絡しなければ。




そう心ではきちんと分かっていたのだが、いざ携帯を出そうとすると「ここまで来てルードに頼るのか」と毒つく己のプライドが邪魔をする。
せめて神羅ビルまでは自力で帰ろうと、激しい痛みに耐えつつも歩き出した。
しかし、次第にスラムの中心に近づくにつれて通行人の数も増えてくるのは当然で。
レノとすれ違う通行人は必ず血まみれで歩くその姿を見て驚いた素振りをしていた。


「仕方ねぇか……」


考えてみれば自力で神羅ビルまで戻るには、上のプレートへと向かう電車に乗る必要がある。
その電車にこのような酷い姿で乗るのは、まさに言語道断な話であった。
そこまで来て、ようやくレノはルードに連絡する決心がついた。






Doubt -2-






「……で、血まみれのまま路上を彷徨っていたのか」


ルードは電話越しにため息をつき、「まるでゾンビみたいだな」と続けた。


「悪かったな……」


微妙に説教されたようで、ただでさえ機嫌が悪いレノの声には棘があった。


「どうでもいいから……早く俺を運んでくれ、と。」
「神羅のヘリでか?」
「お前……、殺されたいのか?」


ただでさえ怪我が酷い状態なのに相変わらずな態度のルード。レノはイライラしすぎて一瞬、持っている携帯を壊したくなった。
もっとも、そんな事した所で困るのはレノ自身なのだが。


「分かった。俺が個人的にお前を拾いに行く」


電話から再びルードの静かな声が聞こえた。


「サンキュ……と」


レノは電話を切ると、プレートで覆われた鉄の空を仰いだ。




*




「ほう……それで、マテリアまで奪われた、か」


声こそはいつもの平静な状態を装っていたツォンだが、その目は冷たいものだった。


「……すみません」


ツォンと目も合わせることもできず、レノはただ俯いていることしかできなかった。


「レノ。お前も分かっているとは思うが、あのマテリアは神羅の機密そのものだ。それもかなり重要なレベルのな……アバランチの手に渡ってしまえばどうなるか分からない。」


それは、レノも十分に分かっていた。
マテリアは、古代人の知識が結晶化して成り立っているものだ。普通の人からすればただのガラス球、または魔法の素に過ぎない。
しかしマテリアに詳しい人がそれを扱えば1つのマテリアからそれがどこで生まれたかはもちろん、その知識の内容、更にはそこからどういったモノに発展できるのかまで分かってしまう。


「従って今回の失態を上層部に報告すれば、いずれお前を“処分”することにもなるかもしれない」


“処分”その言葉にレノは思わず「えっ……」とこぼしてしまった。
タークスにだって失敗は少なからずある。通常はその度に給料は多少下げられるが、それ以外には特に何をされるわけではない。
しかし、取り返しもつかないような失態を犯した場合、1週間以内に殺され、知らぬ場所に葬られる――もっとも、これはタークス達の間での噂であるが。
レノもこの噂を聞いたとが無いわけではなかったが。「あくまでも噂に過ぎない」ので、気にも留めていなかった。
その可能性がリアルに現れることも無かった今までは。


「まあ、お前はタークスの中でも優秀な方だ。このまま失うのも、上層部もかなり惜しいだろう」


ツォンはレノの方を改めて見た。口元には笑みを浮かべながら。レノにはツォンが何を考えているのかはまったく分からない。


「お前にチャンスをやろう。」
「……チャンス??」
「そう、タイムリミットは1週間。それまでにマテリアを取り返し、アバランチ一味を殉滅させる。そうすれば、今回の件は無かったことにする」


1週間――それはとても短い期間である。しかしこの条件を果たさなければ、自分の命が危ない。


「分かったぞ、と」


それ以外の選択肢など、レノにはあるはずも無かった。




……絶対に成功させてやる




そう意気込んで、レノがその場を去ろうとした時。


「ああ……さすがに1人でこなすのは無理だろうから……サポート役に2人配備しておいた。ちなみに今、この2人はこの部屋の外にいる」


その声にレノは振り返ると、ツォンは既に別の作業を始めていた。


サポート役の1人は、おそらくほぼ確実にルードだろう。任務のときは大体いつも一緒に行っているから。
ただ、もう1人の方はレノには全く想像がつかなかった。




後輩だったら面倒だぞ、と……




サポート役ならルード1人で十分なのに。レノは内心舌打ちをしてから、今度こそ部屋を後にした。




*




ドアを開けた先にいたのは、いつものルードと、茶色のセミロングヘアの女。そう――


「……シスネ??」
「あら、意外だと言いたげな顔ね?」


おそらく誰が2人目のサポーターとして来ようとも、反応はそう変わらなかっただろう。そう思いながら、レノは「そうか?」と返した。
何はともあれ、イリーナのような後輩タークスが来なくてレノにとっては本当にラッキーだった。


「話は聞いたわ。随分と派手にやらかしたそうじゃない?」


シスネにはレノのこの失態が少し面白いらしい。クスクスと笑っていた。


「まあな……」


その表情に文句を言いたかったが、今のレノにはそんな資格などあるはずは無かった。


「……怪我は?」


ルードが静かに口を開いた。


「別に臓器までは傷つけてなかったみたいだしな……ケアルガくらいでなんとかなったぞ、と」


レノは手のひらをヒラヒラと振って見せた。レノの身体は普通に行動する分には問題ないくらい回復していた。まだ、激しい動きをするのは無理な話であるが。
そのセリフを聞いて安心したのか、ルードはため息をついた。




「……ところでこれからどうするんだ?」
「さあな……まだあまり決めてないぞ、と」


レノは肩をすくめた。まだツォンがいる部屋から出て10分も経ってはいない。そんな短時間で、これからの事など決めているわけがない。
しかし、だからといって問題を起こした張本人が何も案を出さないのも悪いと思い、


「とりあえず、俺はアイツらの内の何人かの顔を覚えてるし……スラムにでも聞き込みに行くか……」


一応、そう言ってみた……ものの、とっさに思いついた事だったのであまり内容は考えていない。


「そうね……顔を覚えているならそれがいちばんいいかもしれないわね」


「いっそのこと、似顔絵でも描いてもらいましょうか?」とシスネはその後につけ加えた。


「どうやら……決まりのようだな」
「それじゃ、明日の10時に、場所は噴水前だ。あ、スーツじゃなくて普通に私服を着てくるんだぞ、と」


ルードのその言葉に対してレノはそう返すと、ニヤリと笑った。






……to be continued









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