▼わがままが過ぎる

「ねえ、ちょっとこれ怒られないの?バレたら絶対まずいって」

「しーっ!静かに!」

「鳴の方がうるさいから」

私が悪い、のかもしれない。鳴の住む寮の内部を一度でいいから見てみたいと口にしてしまった。じゃあおいでよと気軽に誘ってくれたものだから、別に女人禁制じゃないのかなと深く考えなかった。ああ、うん、私が悪い。鳴の言葉を鵜呑みにしてしまうなんて。

「男所帯に女の子連れ込んだらダメでしょ」

「は?」

寮の入り口まで来たところで何の気なしに鳴に尋ねると、まさかの返答だった。そして冒頭へと続く。

「ここから見つからないように頑張って」

「いや、ちょっと何言ってるかわからない」

「頑張って!」

「だからうるさいよ!」

もし監督なんかに見つかってしまえば一体どんな処分を受けることになるのだろうか。考えるだけで恐ろしい。

「ね、ねえ…やっぱりいいや。そんな規則を破ってまで中が見たいわけじゃないし」

「はあ?ここまで来ておいて?」

「だってダメなものはダメでしょ」

「エースの部屋見ていかないの?」

「………」

「ほら、見たいんじゃん」

「別に、そんなこと」

鳴に強引に手首を掴まれる。私が見たいから仕方なくってわけじゃなくて、単純に連れ込みたいだけじゃないの、コレ。

監督に見つからないようにするだけならまだしも、部員に見つからないようにするのはちょっと、いやかなり無謀だろう。渋る私に痺れを切らした鳴は、イライラしながら私を呼ぶ。

「なまえ!先行くよ」

「だ、だからもういいって…」

「なまえ!」

「帰るから!」

「成宮」

表でギャーギャー騒いでいた私たちは、その声にぴたりと騒ぐのをやめた。ああ、もう…。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには3年生の原田先輩が立っていた。

「いい度胸だな」

「雅さん…」

さすがに鳴もまずいと思ったのか、普段のような軽口を叩くこともなく大人しく原田先輩を見上げている。

「お前はちょっとこっちに来い」

「え!えー!」

「す、すみませんでした…」

原田先輩に引きずられて寮の中へと消えていく鳴に合掌。ごめん、私の代わりに怒られてきて。その行為に腹が立ったのだろう、なまえ後で覚えてろ!と叫ぶ鳴の無事を心から祈った。

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