後押しから零れた勇気

先週、貴子先輩たちに詰め寄られて以降、何となく白州くんと顔を合わせにくくなってしまった。
以前は誰に気を遣うこともなく白州くんと話せるだけで満足できていたが、今となっては周りの目が気になる。
こうなると奥手な私から動くことはできない。

だから、久しぶりに白州くんから声をかけられて心臓が飛び跳ねそうなほど驚くとともに、すごく嬉しかった。

「今日、帰るの遅くなるって聞いてて…」

「あ、うん…。ちょっと私の仕事だけ長くかかっちゃって。もう真っ暗だね」

私本当に鈍くさいからこんな時間になっちゃった、と笑ってみせると、ふっと微笑んだ白州くんに手を引かれた。

「え…」

「送る」

「あの…、白州くん?」

「ほら、行くぞ」

繋がれた手が温かくて前を歩く白州くんの表情は見えないけど、街頭の下で耳がほんのり赤くなってるのがやっと見えた。

何も言わずに繋がれた手を振り解くわけにもいかず、何を言えばいいのかもわからず無言のまま白州くんの後を追う。
私の歩幅に合わせてくれているのか、ゆっくりとした足取りで駅までの道のりを歩む。

…あ、だけど、ダメだ。そろそろ限界。

「し、白州くん、ごめんなさい…!」

名残惜しく思いながらも繋いだ手を無理やり振り解いた。

「あの、ごめん!…あの、てっ」

「て?」

「手汗がひどいので、手繋げません!!」

一瞬傷付いたような表情をした白州くんだったけど、私の言い訳を聞くや否やぷっと吹きだした。

「何で手汗かいてるんだ?」

「だって、だって…、私緊張して」

「………」

「………」

暗くてお互い顔は良く見えないけど、きっと赤い。私も白州くんも。
すると白州くんに再び手を取られ、今度は白州くんの胸に導かれた。

「わかる?」

「えっ…?」

「心臓、すごい速いの」

どくんどくん、じわりと汗ばむ手から伝わってくる白州くんの鼓動。

「俺も緊張してるから、おあいこ」

「うん…」

「だからこのままで」

そう言って、再び繋がれた手。白州くんに引かれるまま、またゆっくりとした速度で歩き始めた。

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