倉持が気付く

特に根拠があったわけじゃない。何となく。
始まりはそんな曖昧なものだったが、次第にしばらく様子を見てみようという興味も湧いた。

白州とみょうじ。
選手の白州とマネージャーのみょうじ。
本当にそれだけだろうか?

きつい練習の合間の僅かな休憩、マネージャーの用意してくれたドリンクを片手に視線を送る。
誰かと話したりすることもなく一人突っ立ている白州。汗を拭って少し周りを見渡し…近くでしゃがみこんでいたみょうじに声をかけた。

「みょうじ」

「あ、…ど、どうしたの?」

「背中、見えてる」

「え?」

「しゃがむと背中見えるから、気を付けろ」

「えっ、うそ!」

膝にノートを乗せて何かを書いていたみょうじの背中は、確かにTシャツの丈が少し短いのか見えてしまっている。それを見て見ぬ振りをするんじゃなくてわざわざ本人に教えてやるのは、白州の性格か…?

見えていると指摘されて焦ったのか、みょうじは慌てて後ろ手にTシャツの裾を引っ張った。するとその勢いで膝の上に乗せていたノートやら何やらが地面にばさりと落ちた。

「あっ…」

声をあげたみょうじよりも先に動いたのは白州の野郎で、遅れて手を伸ばしたみょうじと白州の手が触れ合った。

「や、ごめん…」

「…こちらこそ」

顔を見合わせた二人はお互いに顔を真っ赤にし(訂正、白州はほんの少しだけ頬を赤らめた程度)、今度こそ白州がみょうじの落としたノートを拾ってやった。

「ありがとう、白州くん」

「ああ」

「あ、あと…、明日からはちゃんと大きいTシャツ着るね。お目汚ししてごめん」

「いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて」

「…え?」

「みんながちらちら見てるのが、何か…」

「………」

「………」

みょうじはここまで言われても何のことかわからないようで首を傾げている。一方の白州はこれ以上はっきり言うのが憚られるのか黙り込んでしまった。
何だこのもどかしい空気。

二人の存在がもうこっぱずかしくて見てられなくなった俺は、すぐさまその場から離れた。
そうか、白州はみょうじが…。あの様子だとみょうじもなんだろうな。

ま、ここで余計なことをするほど俺も野暮じゃねーけど、他の奴らにバレたらうるせーだろうな。頑張れ白州。

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