万太郎になっちゃったよ | ナノ


▼ 僕は彼がわからない:ケビンマスク

理想虚像の続き

やぁ、僕だよ。キン肉万太郎だよ。本物ではないんだけどね。それはともかくそうだね、今日はケビンマスクを話をしようかと思う。ケビンマスクは恐らくと言うか確実に僕が嫌いみたいだ。彼は出会った当初から僕を見る目が敵意に溢れていたからね。どうも僕は伝説超人の息子に嫌われやすいらしい。キッドも僕の事、最初は嫌いだったみたいだし。少しショックだけど無理矢理仲良くなろうとしたら空回るとキッドで経験しているので僕は彼の敵意を見て見ぬふりをしたんだ。

原作から万太郎とケビンマスクは最初の方は仲が良かった訳でも無し問題ないだろうと思ったんだけど。彼はテルテルボーイとMAXマン戦後、姿を消したと思えばほぼ毎日、僕の目の前に現れては通り魔よろしく襲ってくるようになったんだよ。しかも無言で神出鬼没に。うん、ちょっといい加減にしてほしいよ。嫌いなのはわかるけどいい加減にしてほしい。話しかけても無言、殴っても殴られても無言、技を決めても決められても無言。どんだけ僕と話したくないの彼!てか何で僕の前に現れるの!マゾなの!ストーカーなの!?一番堪えたのは銭湯に入ってるときの襲撃だ。あの襲撃で僕はお気に入りの銭湯出禁になってしまった。

「さぞお前の家は息苦しかったんだろうな。逃げようとは思わなかったのか?」

彼の急襲に流石に堪忍袋の緒が切れそうだと思い始めた頃、彼から珍しく話しかけてきた。一瞬、僕に話しかけてきたのか疑問に思ったけど真っ直ぐ僕を見ていたので間違いないだろう。多分。少し考えて

「僕は逃げられなかったんだ」

と答えることにしたんだ。逃げられるもんならとうの昔に逃げとるわボケ!お前みたいにな!と皮肉を籠めて。それ以降からだろうか、彼の襲撃がぱたりと止んだのは。

数日が経ち、ケビンマスクの襲撃されない平和な日々を満喫し日課の朝のランニングをしている時だった。ケビンマスクが僕の目の前に現れたんだ。またかと身構えたけど少し違和感を覚える。何時もの殺意に似た敵意を感じないんだ。戸惑っていると彼は僕の腕を掴んで色々な場所に連れ回したんだ。最初は映画館、次はゲームセンター、次にカラオケ。彼は僕を連れ回す間、無言でカラオケ何て生きた心地がしない。僕に歌わせて自分は歌わずにガン見とか新手の拷問かと思ったよ。とにもかくにも何時もの彼ではなく戸惑う一日だったのは確かだね。彼は一体、何を思ってこんなことをしたのか僕にはわからなかった。

日が完全に沈んだネオン街、ミートに黙って遊んでしまったと罪悪感にかられながらも僕は前を歩くケビンマスクの背中を眺めた。

「もし、逃げたくなったら俺の所に来い」

独り言のようにボソリと彼は言った。それで僕は思い至ったんだ。彼は彼なりに僕を気遣ってくれたらしい。僕と彼は境遇が少し似かよっているし同情してくれたのかもしれない。何で今になってなのかは謎だけど。でもその言葉が嬉しかったのは確かだった。毎日の襲撃も水に流したくなるくらいにはね。僕も単純だな。

「そうだね。逃げたくなったら君に所に逃げるよ。その時にはよろしくねケビンマスク」

彼は何も答えなかったけど。根は優しい奴だとは知ってる。不器用な男だと察せる。今はそれで十分だろう。

と思ってたんだけど。

「二世、今日もケビンマスクが公園の入り口に居ますけどなんなんですかアレは」
「あー、いや、えーと」

襲撃はなくなった。無くなったけどケビンマスクはほぼ毎日、僕の家の前でスタンバっていた。イイハナシダナーで終わらせろよ。僕、君の事よくわかんないわ。


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