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3.



気付けば夏休みは半分以上過ぎて、あっという間にお盆になっていた。

大人達が盆休みに入ると私の家では遠方から親戚が集まる。無駄に広い居間に所狭しと人がぎゅうぎゅうと押し込まれて、夏の昼間だからただでさえ暑くてかなわないのに、うちにはエアコンなんか無いから扇風機が左右に首を揺らしながら申し訳程度にぬるい風を吹かせていた。
子供達はジュースの他に飲め飲めとおじさんらが注いだお酒を飲んでいたり、大人達はビールやら日本酒やら何だかよくわからないお酒を飲んでは皆赤い顔をしていた。酔っぱらい達の話し声が次第に大きくなってきた頃、台所と居間を行ったり来たりしていたうちの母や親戚のおばさん達もそれに混ざってお酒を飲み始める。酔った大人達がそれぞれの家の話だとかをしていたかと思えば、上手く聞き取れないような低い声音で何かを話した時、皆同じような表情で口元を歪めて笑ったのが少し不気味だった。
そんな大人達の宴会に混ざっているのが次第に退屈になってくると、私はこのお盆が明けたらもうすぐ夏休みが終わってしまう事、まだ終わっていない宿題の事を考え始めた。

夏休みが明けたら奴もこっちの学校に通うようになるのだろうか?ほぼ日課のようになっていた奴の家にも昨日と今日は行っていないし、そう思ったらこんな退屈な集まりなんかにいても仕方ない。トイレに行くと言って裏口からこっそり抜け出そう、裏口の方に誰かが持って来たらしいスイカが三つほどそこにあったから、その中から小さな小玉スイカを手土産に持っていくことにした。

裏口から一歩外に出れば蝉の声が喧しい。頭のてっぺんでギラギラと燃える太陽は容赦無く照りつけるから、帽子でも被ってくれば良かったなと少し後悔する。
歩くだけで汗ばむ気温と日差しに肌がジリジリと焼ける音が聞こえてきそうだった。足元ばかり見て歩いていたから、自分の進行方向に誰かが立っているのに気付くのが遅れた。唐突に目に入ってきたのは、生っ白い素足にサンダルを突っ掛けて、サイズが合っていないらしく踵がサンダルからはみ出ている子供の足。目線を上げればそこには予想外な人物が立っている。

「…こんにちは、今日も暑いね」

奴が外に出ているのを見るのは初めてだ。あの薄暗い家の中じゃ分からなかったが、こうして対面で見てみると自分よりも頭一つ分は小さい身長差が意外で面食らってしまう。
普段から外に出ることがなかったのであろう奴の生っ白い肌に痩せた体、目だけが嫌に黒々としていて、いつもの通りに無表情のまま私を見つめた。

「…これ、お土産。みんなで食べて」

返答なんか期待してはいなかったけど、とりあえず手に持っていたスイカを手渡そうとしてみた。案の定奴が手を伸ばしてこないことは分かってはいたけれど、そんな奴の反応に焦れてしまいそうになる。何しろ今日は暑い、背中は汗でじっとりと濡れていて不快極まりなかった。

ふと奴の手元を見ると黒い何かを指でつまんでいて、その黒い何かは動いているように見えた。よく見ると、多分クワガタか何かが逃げ出そうと足をジタバタさせていて、奴の足元には蟻が何かに群がって一筋の黒い列が出来ている。黒い蝶の羽根の残骸が奴の足元にバラバラに散らばっていた。


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