敵意と親近感の表裏一体


まず前提に、私はオールマイトが大好きだ。いやもう好きだなんて言葉では表現しきれない。愛してるし、私の生きるすべてだし、同じ年には生まれなかったけども、彼の存命しているこの時代に生きてこれてよかったと思ってる。恋人や夫婦になりたいどころか、彼が摂取する酸素になりたいぐらい。

でもそんなことは無理なので、オールマイトに褒められるぐらいのヒーローになりたい。オールマイトみたいになれなくていい。彼は唯一無二の存在なのだから、私がいくら頑張ったって同じところには立てないのだ。というより、頑張ったくらいで彼と同じ景色を観られるような、そんな弱い存在でいてほしくないから、そんなことはできなくていい。

オールマイトの卒業校なら、もしかしたら在学中の逸話や写真が入ってくるかもと思って、雄英を受験した。不純? でも、私は受かったし、落ちたのは自分のせい。どれだけ他人を救うためにヒーローになりたかったとしても、オールマイトを好きなだけの私に負けたのは、その人のせい。人にはいろんな理由と道がある。

雄英ヒーロー科。今年はなんとラッキーなことに、オールマイト直々の授業を受けられる!なんて幸運!やっぱり雄英受けてよかった!

そんな感じで気分爛々と学校に通っているのだが、今日は登校日ではなく、オールマイトのトークイベントの日。最近、オールマイトもイベント関係の仕事を減らしてきて、少し悲しい。メディアの露出は減っていないからいいんだけど。まあ、学校で会えるしね。

クラスメイトにもオールマイトが好きだという子はいるけど、誘ったりはしない。その子達もトークイベントに興味はないし。結局そんなもの。ファンクラブに入ったりもしないし、オールマイトの出演番組の観客席にも行ったことがない。一般人はそんなものだって、ね。

「あれ?」

トークイベントは野外で行われ、都内で一番大きい公園だった。周りには家族や、カップル、友人たちや私みたいな独り者がいる。さすがオールマイト、すごい人の量だ。そんな中で、前方に黒と緑が入り交じったもじゃもじゃの髪が目に入った。赤くてゴツい靴。リュックサック。間違いない、あれは緑谷出久!隣のクラスで、デクがあだ名の、オールマイトの髪をイメージしたコスチュームの人だ!

彼を見掛けたのは初めてじゃない。オールマイト関連のイベントや、グッズ、DVDの発売日なんかにもよく遭遇する。相手が私を知っているのかはわからないけど、私は知ってる。また会ってしまった。なんだか負けた気分になるから、出来れば会いたくないのに。メラ、と心の炎が燃える。私の方が好きなのに。絶対、私の方が好きなのに!

そこから、勝手だけど私の戦いが始まった。オールマイトに関するイベントや、グッズ販売などは全部行った。緑谷出久と会わないその日まで。だけど、どこに行っても緑谷出久は居る。しかも初日に。一度話したこともあった。体育祭で戦ったし、私がB組だって知ってるらしい。

「あっ。みょうじさん…だっけ?」

オールマイトの活動記録を集めたDVDの発売日、さすがオールマイトと言ったところか、すごい人だった。徹夜で並ぶのは禁止なので、早朝に行ったけどそれでも行列が出来ていた。慌てて並んだら、ちょうど私の次が緑谷出久だったのだ。私の方が数十秒早かった!と思うと同時に、ここにも居たか…。と落胆した。

「体育祭ではどーも。緑谷出久くん」
「僕のこと覚えてたんだね」
「そりゃあ、あんな派手なことしてくれたらね」
「みょうじさんもオールマイト好きなんだね。よく見掛けるから、ずっと話してみたかったんだ」

その言葉に驚いた。私は緑谷出久を敵意を持って気にしてたけど、緑谷出久は興味を持って気にしていたらしい。緑谷出久は照れたように話を続けていたけど、私はそりゃもう愛想がなかった。戦っているつもりだったからだ。でも、緑谷出久は悪いやつじゃないし、素っ気なくしていても「また学校で」と声を掛けて帰っていったし。あんな態度取らなくてもよかったかもしれない。

せっかく、私と同じくらい話せる人が居るんだから……。

緑谷出久と話して、反省して、少しした頃、合宿があった。緑谷出久はA組、私はB組。物間は突っ掛かってるけど、他のクラスメイトはそんなにA組を敵視していなかった。それでも、やっぱり交流はなく、夜になって自由時間が出来ても各クラス内で騒ぐだけ。そんな中、荷物を持って、談笑している緑谷出久に近づいた。

「緑谷出久」
「えっ、あ、みょうじさん…。どうしたの?」

無言で鞄を机に置くと、重みでけたたましい音がした。持ってきすぎたかなぁ、と反省しつつ、中からオールマイトの関連グッズを取り出して並べていく。緑谷出久と談笑していたA組の人が少し引いていた。

「……これ」
「ああ!僕も持ってるよ、それ!特典のタオルで、その着ているコスチューム、先着限定なんだよね確か!ゴールデンエイジ時代のコスチュームのタオルもよかったけど、やっぱり限定品を揃えたくなるよね!」
「これは?」
「これも持ってる!みょうじさんもサイン入りのやつ買えたんだね!あのチャプター3の『ヒーロー活動について』の13分ぐらいの言葉はよかったよ!」

グッズを見せては、緑谷出久に語らせる。なかなかマイナーなものを持ってきたつもりだったが、緑谷出久はすべて持っていた。そして最後の確認。

「オールマイトを好きになったきっかけは?」

緑谷出久が答えるのに合わせて、私も言った。

「「オールマイトのデビュー動画!!」」
「緑谷出久!」
「みょうじさん!」

ガシッと緑谷出久と熱い握手を交わす。そして始まる、オールマイトについてのマシンガンファントーク。周りが口を挟めないくらいヒートアップした頃、私は後悔していた。こんなに気が合うなら、変な対抗意識を持たずに最初から声を掛けておけばよかった、と。

それから、イベントがあるときは互いに誘うようになった。緑谷くんと、今ではいい友達です。