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午前7時30分。駅には今から登校、出勤の人々で溢れ返っている。今日は月曜日。休日明けのこの日は、誰もが憂鬱そうな顔をしていた。その最中、空気が読めないらしい敵が、線路に降りたって咆哮した。大きな牙に蜥蜴のような体。恐竜になれる個性らしい。学生たちは電車が遅れて授業が潰れることに喜んでいるし、これから仕事のある人たちは会社に連絡している。ヒーローはまだ到着していない。

被害はないものの、騒がしく吼える敵に、群衆の中から、ふらふらと誰かが出てきた。スーツを着ている女性だった。額に冷却シートを貼って、手に持っているビニール袋からは栄養ドリンクが大量に見えている。敵が彼女を見つけ、足を振り上げると、群衆の方から悲鳴が聞こえた。

が、同時にその女性は勢いよく右手を壁に打ち付け、こう叫んだ。

「朝からうるっせーな!!!!黙れ!!!!」





億劫な月曜日だが、この日の職員室は一人を除いて和やかな気持ちに包まれていた。手持ちのスマホには、今朝のニュース動画が映っている。

「………あの、リピート再生するのやめていただけませんかね」

気まずそうに口を開いたが、誰もそれに応じない。昔を馳せんでか、口元が緩んでいる。その姿に彼女は息を吐いた。

やってしまった。イライラしてたからって、この行動は浅はかだった。何より、新人ヒーローが、「みょうじさんも人のこと言えませんね!」と生意気に言ってきたことに腹が立っていた。こんなことをしてしまったのは自分の不注意からではあるものの、彼も一枚噛んでいるのだ。むしろ元凶である。

「朝から濡れちゃうわぁ……。学生時代を思い出すわね

「高校ですよ、ここ」
「私Mっ気はないはずなんだけど……。ねぇ、ちょっと怒鳴ってみて?」
「今の話聞いててすると思ってます?」

なまえは、昔から周りのこういう反応が理解できない。オールマイトみたいに強く、ファンサービスも良くて、優しく、いつもにこやかに笑って愛想がいいならわかるが、どれも備わってない自分にこうも好意が向くのがわからなかった。生意気な女として後ろ指を差されるのが妥当だろうに。

やれやれと首を振り、事務所の書類を見た。例の新人ヒーローが入ってきてから、主に修理費などで赤字である。忙しいからといって、ワルツに人事を任せたのが悪かったかと今更後悔した。

「お疲れですね」

最近ビシッと背筋を伸ばし、髪も綺麗に整えていると生徒に評判の相澤が、10秒チャージを飲みながら言った。

「あぁ、相澤くん。おはよう」

何気無く挨拶をしたというのに、職員室が一気に静まり返った。いくつかスマホを落とした音も聞こえる、目の前の相澤に至っては、10秒チャージのパックを握り締めたのか、中身が噴き出していた。

「? どうなさったんですか」
「……………あ、」

相………澤………“くん“…………!?

口には出してないものの、雄英教師陣に衝撃が走る。落雷したかのような音も響いた。

「…………先輩、ちょっと話があるんですけどいいですか」
「奇遇ね。私も少し話があったのよ」
「ソウダ。我モ偶然話ガアッタ」
『大事な話だから外行こうぜ』
「そういえば私も話があったんだった」

プレゼント・マイクに抵抗することなく、相澤はずるずると廊下に連れていかれた。彼もまさか親しげに“くん“呼びされると思っていなかったので、固まっていたのだった。

「………やっぱり月曜日は忙しいわね」

事の元凶であるなまえは、新人ヒーローの履歴書を読みながら、ネットでの評判が歴代最下位の彼をどうやってプロデュースしようと、頭を悩ませていた。