流されて流されて流される



「なあ、」

ぐいぐいと手を引かれて、連れていかれた先は爆豪くんの家だった。家にまで行くのは初めてだったし、どうしてここに連れてこられたのかもわからなかった。部屋に入るなり爆豪くんのベッドに突き飛ばされて、少し壁に頭を打った。爆豪くんはドアの鍵を閉めて、ブレザーを脱ぎ出した。

「…ば、爆豪く、」
「ヒーローになろうとなるまいと、個性ってのは今じゃ持ってねー方がおかしいんだ」
「うん、?」

そんなことは、私が一番知っている。

「就職にだって不利だろ?しかも、元々持ってねーならまだしも、理解してないってことになると、採用されねえだろうしな」
「…そうだね、」
「俺に媚び売れよ」

目を見開いて、彼を見つめる。

「俺にはいい個性と才能がある。認めたくねえがあの一件で、スカウトが山ほど来た。トップヒーローになれる素質がある奴に、今から媚びとけば食いっぱぐれることはねえんじゃねえか?」

なあ、と爆豪くんが私の横に腰を下ろした。ぎらりと目が光って、にやりと笑っている。

「やることわかってんだろ?」
「……」

…緑谷くんと何かあったのだろうか。少し余裕がない気がする。それを察してご機嫌取りするのも、私の仕事なのだろうか。でも、何をどうすればいいのかなんてわからない。目を泳がせて黙っていると、爆豪くんが舌打ちをして、私を引き寄せた。

「今度からはお前がしろよ」

そして、噛みつくようにキスをした。

「!……う、っちゅ、や」

個性がわからないだけなのに。どうしてここまでやらなきゃいけないの。これじゃただの娼婦じゃないか。爆豪くんが角度を変えて深く深くしながら、私の体を抱き込んでいく。頭を固定して抱き締められて、まるで恋人の情事のようだった。もう10年も自分の個性がわかっていない。確かに彼の言う通り、彼のような優秀で出世しそうな人に媚を打って生きるのが、賢い生き方のような気がした。私にはもうこうすることしかできないかもしれない。今日、爆豪くんに何があったのかは知らないけど、爆豪くんは強いし、言うことさえ聞いていれば守ってもくれるだろう。

恐る恐る私も、彼の背に腕を回してみると、更にきつく抱き締められた。彼の舌が口内を蠢いて蹂躙する。それに私も舌を絡めると、舌の裏を舐められた。気持ち悪い。でも、少し機嫌が良くなったらしい。雰囲気が少し和らいでいた。

「………っは、…わかってんじゃねえか」

爆豪くんが、まるでペットでも撫でるかのように、私の髪を撫でた。この人に従順にしていれば生きていける。私はここまで堕ちてしまったのかな。

たった、個性がわからないってだけで。
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