心操人使




きっかけを掴むのって難しい。

今更ながらそんなことを実感した春。ヒーロー科には残念ながら落ちてしまったものの、念願の雄英に入ったのはよかったのだが、現在ぼっち。コミュ障の私に追い討ちをかけるが如く、前後左が男子、右が廊下とは如何に。死にそう。せめて隣の席の人とは仲良くなりたいと思う今日この頃。でも、隣の席の心操くんは、他の男子よりも落ち着いていて逆に話しかけづらかった。

この日の英語の授業は単語の小テスト。10分という短い時間だったけど、20問ほどだったからすぐ書けた。合っているかどうかは置いといて。暇だったから端の空いているスペースに猫の絵を描いて遊んでいた。

「………よろしく」

採点は隣の人にしてもらうらしい。心操くんが先に解答用紙を渡してくれたので、私も慌てて渡した。先生の言う答えを照らし合わせていく。おお、心操くんすごい。満点だ。こんなはめになるなら、私もちゃんと勉強しておくべきだった。小テストだからって舐めてた。 正答数20の文字を書いて、心操くんに返す。

「はい、心操くん満点!」………とか、何とか言えればいいんだけど、それが言えてたら今苦労してない。こんなんだからきっかけも何もないんだよなぁ。

「………その猫」
「え?」
「みょうじさん、絵上手いね」

何のことかわからなかったが、そういえば落書きしてたんだと気づいた。6問ぐらい間違えてるし、落書きしてるし最悪じゃん。

「い、いやぁ、そうかな……」
「猫好きなの?」
「う、うん。心操くんは?」

どもっちゃって、コミュ障が浮き彫りだよ。

「俺も好き」

心操くんがニッと笑った。こんな風に笑うのか。何だか不思議と胸が高鳴った。いや、どきっとしてる場合じゃない。話すきっかけができた今がチャンス。

「そういえばこの前、友達と猫カフェに、」
「こらみょうじ。今は授業中だぞ」
「あっハイ」

周りが笑う中、心操くんも笑っていた。恥ずかしかったけど、これで次からはもっと話しやすくなるかもしれないと思うと、すごく嬉しかった。