血が滲み痣が出来擦りむこうとも、それでも立ち上がり立ち向かう彼には何が視えているんだろう。

「最初は…体無防備だった。でもさっきは頭ぁガードした!んで…園で椎名に殴られた時もてめえ…頭ぁガードした!!」

たったの二度、見ただけでそんなことが解ってしまうの?
手練れだからこそなのか本能なのか分からないけど、正直、大変申し訳ないけれど彼は頭が回らない方だと思っていたので今度からは彼に対する認識を改めなければいけないようです。

「そんなに頭大事かよ!」

ズキズキと痛む背に甲羅を背負い直すと、先程振り払った魚達がまた私を拘束した。この魚達は弱っているようで…なんだか、とても、痛々しい。

シシドくんへ目を向けると、ちょうどサカマタさんが弱点である頭をガードしている所だった。

「狙いは頭ぁ!!」

「!」

「じゃねえよ!!」

構えて頭へと飛び付く、かと思いきや、即座に狙いを変えて無防備になったボディへと一発喰らわせる。

「不意のボディは効くんだな!!もいっちょボディ!」

二度目の攻撃に今度は体をガードしたサカマタさん。

ああ、シシドくん、君はなんて、強いんだろうか。

「じゃねえよバァアアカ!!」と声を上げて弱点の頭へと攻撃を喰らわせたのだ。トラップにトラップを重ねて攻撃なんて、すごい!

「ぐあっ…!」

そこからはずっとシシドくんのターンで、今までやられた分をやり返すかの如く彼は奴に攻撃を繰り返していた。
それが先程とは違い、確実に喰らい、確実にダメージを与えているということは、本当にすごい事なのだ。偉そうだけど、そうなんだもの。

ところがその連続攻撃は、シシドくんがサカマタさんの頭へと噛み付いた時に形成逆転されてしまった。

「ひほめふほひはきばははーか!!!オレのかひは!!!」
(仕留める時は牙だバーカ!!!オレの勝ちだ!!!)

「っっ!!!ぐあぁあぁあぁぁあぁあァアあァア!!!」

余程のダメージだったようで、声を荒げて奴は…水槽へと向かった…?何をする気なの…?

「!!!」

「シシドくん!!」

ガッシャアアン、と大きな音が響かせ、サカマタさんはシシドくん諸共水槽へとその身を投げてしまった。

「園のオリと同じようなシステムですか!!ちょっ…あなた離して頂けません!?シシドくーん!!」

割れた筈の水槽は、細かい破片を飛ばしたまま修正されていた。
ライオンが水の中で動けるわけがない。
なのに、彼はサカマタさんに応戦してるようだった。

「なにか…なにかしなくちゃ…」

「ですがあんなガラス割れません!」

「そ、それはそうですけど……ん?」

すん、と嗅ぐ。
さっきの獣臭い匂いとはちがう…もっと草が混ざったような匂い、嗅いだことのある匂いを察知する。

すぅ、と思い切り息を吸い込み、叫んだ。

「誰かぁあー!!園の人達はいますかぁー!!!」

「!?岡芽さん!て、敵が来ちゃいます!」

「大丈夫なはず、です…だってこの匂い…」

言い切る前にホールにドスドスドスっと荒い足音が響いた。

「今のは岡芽ちゃんの声!?」

「ご、ゴリラコングさん!ハナさん!」

「うう、よかった…じゃなくて!あれ!シシドくんが!」

ハナさん達がこちらへ走ってきたけど、すぐにシシドくんのことを教えるとゴリコンさんが持ち前の力で水槽を叩き割り、シシドくんを引きずり戻した。

「シシドくん!大丈夫ですか!」

すぐに先程と同様にして拘束を解き、シシドくんへと近寄る。

「貴様ら!」

サカマタさんの目がこちらへ向く。
それと同時に、後ろから声がした。

「ちょっと離せ!!さあ離せ!!セイッ!!…イィガラシィ!!!確保ォ〜!!!」

「皆さああああん!!」

そこには、イガラシさんを無事確保した大上さんと知多さんの姿があった。よ、よかった!

「うええ、ほんとよがっだぁ…!」

「岡芽ちゃん、ごめんね、怖かったでしょ…!」

「うええぇ…怖かったっですぅ…うううっ」

びいびいと泣いてしまう。皆がきてくれたという安堵に、涙が止まらない。

「本当にありがとうシシドくん」

「漢っス!」

「うう、ひっ…シシドくん、いっぱい怪我しちゃってて…ああ!そうだ手当てしないと!」

シシドくんの頭を撫でていたハナさんは、共に私の頭も撫でるせいで涙がより出てくる。もう!ハナさん!ありがとう!すき!

「ハナちゃん早くタカヒロんとこ戻ろう!」

大上さん達が笑顔でこちらを向き、そう言ったとき、二人の背後の水槽には黒い影が見えていた。
あの、影は…サカマタさん…!

「安心するにはまだ早いだろう?」

そう言うとサカマタさんは大上さん達を薙ぎ払い、イガラシさんを確保する。ちらりと私を一層した後、また水槽へ戻ろうとしていた。

私を撫でていた手が無くなる。変わりに私の膝の上にはシシドくんの頭が乗っていて、ハナさんは、と思ったときにはもう遅かった。
ハナさんはあのサカマタさんを、引き止めに走り出してしまったんだ。

「飼育員さん!?危ないっス!!」

「そうだよハナさん!離れて!」

「私この水族館の様子見てきておもったよ!」

皆の制止の声なんか聞こえないとでも言うかのように、ハナさんは離れない。危ないのに。そんな、だめだよ。ハナさんは人間だから、甲羅がある私よりも弱いはずなんだよ。だめだよ。

「邪魔を…」

「確かに立派で大きくて…人気もすごいのかもしれないけど。働いてた魚は死んだ魚のような目をして、楽しそうな魚たち誰もいなかった!こんなのただの牢屋じゃん!!」

確かに、そうなんだけど。きっとタイミングが悪かった。
すん、と鼻につくこの匂いは、水族館だからこそ察知するのが遅くなったけど、私の視界に入ったそれは

「絶対こんなとこにイガラシさん渡さない!!」

「ワシゃあ、不愉快じゃわい」

「で、でか…」

ずん、と一歩一歩が重いそれはサカマタさんより全然大きくて、あんなのに潰されたら一溜まりもないだろうなぁ、なんて思ってしまう私の頭は、もう疲れてるんだろう。休ませてあげてください休ましてください。






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