ジェノスとJD
※逆トリ前提
「ただいまー」
家の扉を開けると、バイト帰りの私をご飯作って待っていてくれたジェノスくんが「おかえり」と返してくれた。
私は家賃そこそこのマンションに、バイト代と親からの仕送りで可もなく不可もない暮らしをしていた女子大生だ。もちろん、一人暮らし。だった。
ある日、リビングに転がっていたジェノスくんを見つけるまでは。
それからなんだかんだとあり、違う世界から来たらしいジェノスくんを1人そとに追い出すのは私の良心を痛み付ける事となるので結果引き取る事に。
サイボーグのジェノスくんは外出する際にはサングラスにブカブカの服を着ないといけない。目とか腕とか、なんていうか…目立つしね。
だから働かせる訳にもいかず、家事はジェノスくん担当と自然となった。
そこで、ふわーと良い匂いが。
匂いに釣られてキッチンへ行くと、丁度鍋の火を止めたジェノスくん。
「今日は肉じゃがだ」
「え、ほんと?やった!私好きなんだよねー肉じゃがー」
「テレビでやっていたから作っただけだ」
「ふふ、そっかそっか」
「…何をにやけてるんだ。さっさと手を洗え」
はーい、と言って手を洗う。
ジェノスくんと暮らして分かった事は、ジェノスくんは所謂クーデレに分けられるという事。
かわいいもんだ。
だいたいの支度は終わっているようで、ジェノスくんはもう席についていた。
私もすぐに座り、手を合わせる。
「いただきます!」「いただきます」
一番最初に肉じゃがに手をつける。ごろごろとしたじゃがいもを口に入れると、少し大きかったものの気にせず咀嚼する。おいしー!ほんと料理上手!
「ジェノスくん絶対私より料理上手だよね!いつもいつも美味しいし」
「…まぁ、なまえよりは上手いだろうな」
「あー!照れ隠しー!」
「焼却するぞ」
「うそうそ!嘘ですって」
にこにこしながら言う。
この毎日がとても楽しいんだ。いつまでも続けば、なんて思ってしまう。ジェノスくんの事情も考えずに。
ジェノスくんは突然こっちの世界に来たようだから、いつ元の世界へ帰るか分からない。けど、予感がするの。私が目を離した一瞬で、帰ってしまうんだろうなって。ただの予感、なんだけどね。
ふと、そんな暗いことを考えていたせいで箸が止まっていたようだ。
ジェノスくんが、「どうした?」と聞いてきた。
誤魔化すためにパッと顔を上げて笑顔を見せる。
「ジェノスくん料理上手だからさー私負けてるなって!女子力足りないよねー。だからモテないんだろうけど!なんて自分で言っちゃったり、」「何故笑う?」
「…え?」
「何故、そんな笑い方をするんだ、と聞いている」
言い直されてもよく意味が分からなくて、「ご飯冷めちゃうから…」と言ってみたけどジェノスくんは私を見たままだ。
「…俺は、まだ…ここに居るだろう。余計な心配をするな、なまえ」
手を伸ばしてぽんぽん、と頭を撫でられる。
なんだよなんだよ、考えバレちゃってるんじゃん。もう。なんで。
人独特の温かさがないその手が、今はとても温かく感じた。
ポロポロと涙が出てきて止まらない。
「ジェノスくん、ジェノスくん」
「ああ」
「私、楽しいよ。この毎日、すごく楽しいよ。だから、勝手に帰らないでね。勝手に帰ったら、わた、わたしっお、怒る、から、ね」
「…ああ、わかってる」
今度はくしゃくしゃと撫でられた。優しい手つきで。
頭から手が離れ、ジェノスくんをじっと見詰める。
「…ご飯、食べよっか!」
「そうだな」
鼻が詰まっているせいでさっきより味がわからないけど、とても美味しい晩ご飯だった。