夢の中の俺は、親友とその彼女、先輩達、優しい先生、そんな仲間達と何かを話しながら歩いていた。
いつもの制服姿じゃない、皆浴衣を着ている。
蚊に刺されたって騒いだり、金魚を見て癒されたり、慣れない下駄ですっころんだり。
空は闇夜。暗雲たちこめる時間。
なのに、背後から未だ聞こえる祭の喧噪や淡いライトが俺達を見守るように、とてもとても穏やかな時間。

笑顔が絶えなかった。話し声が途切れる事はなかった。
皆大好きって、だから皆も皆が大好きだって、それは何よりも確かな真実だった。

その鮮明で現実味のあり過ぎる夢に浸って、俺はまだ、目を覚ましたくないと思っていた。

見ていたかったんだ。
幸せな夢を。


「……っ」

終わりは唐突に訪れた。
けたたましい、耳に痛い程の破壊音。硬質なものが砕けるような爆音と共に、俺は伏せていた身体を反射的に起こした。
事態の読めぬまま辺りを見渡して、眠りに落ちる前と何ら変わりない自分の教室が視界に映る事に安堵する。なのに、それが間違いだと判断したのは本能だった。

起こしてくれるはずの親友はおらず、真っ暗な空間に存在するのは慕っている先輩二人。
目深にキャップを被った虎徹先輩と、赤い髪の毛に寝癖が酷い緋猿先輩が真剣に窓の外を見つめていた。

「先輩…今の何?」

俺の伏せていた机の前に座る虎徹先輩はゆっくりとこちらに視線を向ける。窓際に立つ緋猿先輩は、微動だにせず無言のままだった。

「始まるぞ」

風が吹く。そよぐそれは、次第にキツク暴風のようになった。
窓が割れている。いっそ悪寒を齎すような風と、意味のわからない言葉が俺の背筋を冷やした。

「何が…?」

ゴウゴウと耳を掠める音。遠くから幾度も響く爆発音。
訳がわからない。ここは日本だ。戦争放棄して久しい、平和な国だ。
聴覚が拾うすべての音が信じられなくて、俺は思わず虎徹先輩の腕を掴んだ。

「戦争だ」

「夢の始まりだよん」

「存在を失わない為の、場所取り合戦」

ニヒルな笑みを浮かべた虎徹先輩は、何かを俺の手に握らせる。
闇に慣れた目は、嫌でもその輪郭を捕らえた。

「卯月ちゃん、一緒にいこーね」

「嫌、だ、意味わかん、ない」

「生きて帰るぞ」

首を振る俺の頭に手を置いた虎徹先輩は、ゆっくりと腰を折る。
その唇が辿りついた耳に、残酷な言葉を吐いた。


「ここが現実にならない内に」


暗過ぎるし意味わからんくてボツった。

 

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