「……っ叶」

詰めた息が聞こえる。波高島の声が上擦っているのに気付いたら嬉しくなり、吉野は夢中で舌を動かした。
口淫をするのは初めてだが、いつも波高島にされている分、要領はわかっている。夢中になって舐めしゃぶる内、口の中のものは怒張と呼んで差支えないほど膨張していた。

「もう、いい。叶、頭を上げろ」
「んや」
「嫌じゃない、……っ」

抵抗のつもりで鈴口に軽く歯を立てると、波高島の腰が打ち震えた。そして、腹筋だけで上半身を起こした男が凶悪な視線で吉野を見下ろす。

「言うことを、聞かないか」
「ふ……オレ、下手? イケない?」
「そ……下手だ。何時間されてもイケる気がしない。だからもう代われ」
「それはヤダ……じゃあさ、どこがイイ? 教えてよ、オレの口に出して」
「馬、鹿なことを言うな」

吉野はひっそりと傷付きつつも、手を上下させるのを止めなかった。
何度も先端を舌先でなぞり、手の動きに合わせ窄めた唇で陰茎を扱く。喉奥でぐっと締めつけてみると、屹立は腔内でビクリと跳ねた。

「うう……っ」
「吐くぞ。……もういいだろう? 頼むから離せ」

多少息を乱してはいるものの、波高島は普段と同じく落ち着いている。
吉野は名残惜しく陰茎を握っていたものの、下手ならばこれ以上は波高島の負担になると思い身体を起こした。ホッとした顔で、波高島が息をつく。

「それでいい。こっちへ来い」
「やだ」
「今度はなんだ……」

波高島の腿を跨いだまま、吉野はパジャマのズボンを脱ぎ捨てた。目を剥いた波高島は言葉を失い、口をポカンと開けたまま呆けている。それをいいことに、吉野は下着もベッドの下へと投げ捨てた。

「波高島君……」
「……待て叶、落ち着け」
「落ち着いてるよ? だから……逃げないで、ね」

勃起の上まで移動し、波高島の肩を押す。転んではくれなかったが、両肘をベッドにつかせることができた。
波高島は信じられないと言わんばかりに目を瞠り、吉野の動作を見送る。

「まさか、お前」

勃起に手を添え、吉野は準備の済んだ後孔を濡れた先端に合わせた。
小刻みに首を横に振る波高島へ「大丈夫だよ」と言い、ゆっくりと腰を下ろす。

「ふ、う」
「叶、待て」
「んん……っ」

時間をかけて解したおかげか、そこはカリの太さをゆっくりとだが確実に受け入れた。
波高島の手で慣らされた時より多少引き攣るような痛みはあるが、我慢できないほどではない。唾液のささやかな滑りを助けに、ジワジワと肉棒は内壁を擦りめり込んでいった。

「うう、う、ん」
「……かの、っ」

波高島は眉間に数本の皺を寄せ、拳を作って顔を歪ませている。
吉野は何度か腰を上下に動かし、根本までを自分の中へと収め切った。会陰に触れる下生えの感触はくすぐったいが、達成感が胸に宿る。

「は、いった」
「お前……自分でしたのか」
「ん……さっき、お風呂で、ちょっと」

圧迫感に軽く息を詰めながら、吉野は白状した。
途端、波高島の顔が風紀委員の仕事中に似た凶悪さを浮かべる。

何に怒っているのだろうか。はしたない、と思われているだろうか。
僅かな不安が顔を出すが、波高島は吉野にとって心の広い男だ。とにかく今は、彼を体内で弾けさせられれば後で怒られても構わない。

妙に開き直っている吉野は、息を整えてから腰を揺らした。初めての体位で初めてのリードは難しかったが、諦めたくはなかった。

「う、う。波高島、くん」

 うまく動けているとは思わないが、波高島は萎えていない。変わらない硬度に肩を撫で下ろし、勇気を出して大きく腰を上下させた。

高反発なベッドが軋み、吉野の動きを助けてくれる。いつものような気持ちよさはないが、吉野は真剣だった。

「は、うう……ちゃんと、気持ちい?」
「……」
「ね、波高島く、ん、んんっ」

吉野の問いかけに返事をしない波高島が、おもむろに揺れる細腰を両手で掴んだ。そしてぐっと引き下ろし、強制的に律動をやめさせる。

「ちょ、波高島君、動けない……!」
「もういい、やめろ」
「でも」
「いいから黙って止まれ」

手を剥がそうとしても、膝に力を入れても、波高島の拘束は解けない。吉野はこの状況でまさか嫌がられるとは思っておらず、段々と泣きたくなってきていた。

「なんで、ダメなの」
「慣らしようが足りない。ローションも足りない。お前が勃起していない。全く感じていない。第一、俺はこんなセックスを好んでいない」

吉野の萎えた中心を見た波高島は、すっと目を逸らした。淡々と理由を並べる声は固く、取り付く島もない。

 

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